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ニルミナスの一年

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ニルミナスの一年

リアクション


湯るりなす

「この村でもいろいろあったけど、一番の思い出はやっぱ温泉で飲む酒だよなぁ?」
 特に温泉でのむ鮭は格別だとセレン・ヴァーミリオン(せれん・ゔぁーみりおん)は言う。
「やっぱ竜をパートナーに選んで正解だったぜ。こんないい思いができるんだしな!」
「ふむ……珍しくセレン殿と同意見であるな。私も主殿のパートナーに慣れてよかったと思う」
 セレンに付き合ってミリーネ・セレスティア(みりーね・せれすてぃあ)もお酒を飲む。
「この村に来て早半年以上……私がしたことは少ないかもしれぬが、少しは役立てたと思いたいな。この湯るりなすの建設に携われた事を誇りに思うぞ」
「おう、セレンは頑張ってるよなぁ。ほら、頑張った褒美にもっと酒飲もうぜ」
「う、うむ……ありがたく頂こう」
 そう言ってセレンのつぐ酒を飲むミリーネ。
(……少し、強い酒であるな)
 この調子で飲めばすぐに酔って動けなくなるかもしれない。
「いい飲みっぷりだな。ほら、どんどん飲んじまえ」
「せ、セレン殿? お気持ちはありがたいのだが……」
 この調子で飲めば危ないのは分かっているが、生来の生真面目さから人から注がれた酒を飲まないという選択肢をミリーネは選べない。……セレンが悪巧みをしているという確たる証拠でもあれば話は別だろうが。
(さーて……ミリーネもいい感じに酔ってきたな)
 これで自分の企みが邪魔されることはないだろうとセレンは思う。
(あとはユリナ次第か。……竜がどこまで耐えられるか見もの……じゃなかった、どこまで喜んでくれるかなぁ??)
 そうしてセレンは少し離れたところに入っている二人の様子を伺うのだった。



「俺たちがここを拠点にしてもう半年以上経つのか。温泉が気に入って、村の人たちの温かさに触れて、ここを拠点にしたいって思ったんだよな」
 この一年を思い出す中で、黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)はこの村を拠点とするに至った経緯を思い出す。
「どこまで村の役に立てたかは分かんねーけど、邪魔にはなってない……よな?」
「はい。竜斗さんはこの村のために頑張ってます。その頑張りがこの村に無くてはならないものだと、きっと皆さん認めてくれていますよ」
 竜斗の言葉にそう返すのは竜斗のパートナーで妻でもある黒崎 ユリナ(くろさき・ゆりな)だ。竜斗の厳命でその体にはしっかりとバスタオルが巻かれている。
「……そうだといいけどな」
 そう言いながら竜斗は思う。恵みの儀式を巡って起こったあの一件。もしも自分がいればまた違った結末があったのではないかと。そんな思いはこの気持のいい湯につかっても流されることはなかった。
(竜斗さん、少し落ち込んでる……この村が好きなのに、何もできなかったこと後悔してるんだろうな……)
 そうした竜斗の想いをユリナは的確に察する。
(背中を洗って差し上げましょう……けれど、普通にやるだけでいいのでしょうか?)
 竜斗の気持ちが少しでも晴れるよう背中を流そうとユリナは思う。その中で思い出すのはセレンが教えてくれたことだ。
(……嘆いてても始まらないな。前村長の命を無駄にしないためにも、これからも村を守っていこう)
 気持ちの整理をつける竜斗。そんな竜斗の背中になにか柔らかいものがぶつかる。
「竜斗さん。お背中を洗わせてください」
「えーと……ユリナ? 質問なんだが……バスタオルはしてるよな?」
 この柔らかいものはなんだろうと竜斗は考えないようにしてユリナに聞く。
「…………頑張ります」
 ユリナは竜斗の言葉に答えずセレンに教えられた方法で竜斗の背中を洗っていく。
(……うん。なんとなく想像してたけどな)
 竜斗の背中を洗う柔らかいもの。その中にほんの少しだけ硬い部分があることを感じたところで竜斗の意識は遠くへと飛んで行くのだった。



「コブリンとコボルト退治から関わったこの村にここまで関わることになるとは思わなかったであります」
 湯るりなすの湯にゆっくりと浸かりながら葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)はそう言う。
「そうね。ただ関わりが長い割には一連の事件の核心にはほとんど関わってないのよね」
 吹雪の言葉に頷きながらコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)はそう返す。
「外野で眺めてるのが楽でいいであります」
「……まぁ、吹雪らしいわね」
 その気になれば中核に食い込む実力を持っていながら吹雪はそういう所があるとコルセアは思う。
「『災害体質娘』の襲来、魔女の襲撃色々な危機があったであります」
 ただ、吹雪は続ける。
「横から眺めているだけでも楽しかったでありますが、今後のことを考えるともう少しだけ情報をまとめていたほうがいいかもしれないであります」
「そうね。……そういえば、この村で起こった事件のことをまとめている人たちがいるみたいだから後で聞いてみましょうか」
「そうでありますな。自分で一から調べるよりかは効率的であります」
 コルセアの言葉に吹雪は頷く。
「吹雪自身が何か気になるとか気づいたことってあるの?」
「そうでありますな……例の傭兵団、『黄昏の陰影』に関しては警戒を緩めない方がいいであります」
「顔見知りなんだっけ?」
「傭兵時代に戦場であったことあるくらいでありますよ」
 それがどの程度の間柄なのかは吹雪の言葉からははっきりとは分からない。ただ、傭兵時代に会ったことがあるというのは確かなようだ。
「ただ言えるのは、彼らが契約者という存在を憎んでいるということくらいであります」
「契約者を……ね」
 それは面倒な相手だとコルセアは思う。
「……湯の中で話し続けるものでもないでありますな。そういう話は風呂を上がってからにするであります」
「そうね。たまには真面目な話に付き合ってもらうわよ」
「……とりあえず、今は楽しいことを思い出すであります」
 眺めて楽しかったこの一年の思い出を。吹雪はコルセアと一緒に語っていった。