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リアクション
1、物語の始まり
「む?」
ドクター・ハデス(どくたー・はです)の所持している、通信を傍受するためのマシンが、空京で開かれている『小型飛行艇レース大会』において、異常が発生したことをハデスに伝えていた。
「爆弾テロだと?」
聞き覚えのある声に、ハデスは耳を傾ける。
爆弾が爆発し、数人の怪我人が出ていること、テロ組織を名乗るメンバーから要求が突きつけられているところだった。
そして、それは表沙汰にされず、極秘裏に行われることになっていた。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス! 極秘裏などという言葉、我が辞書の前には無も同然! 一語一句残さず、聞かせてもらったぞ!」
面白いネタを仕入れたからか、ハデスが少し弾む声で口を開いた。
「組織の名は、レジェンド・オブ・ダークネス、と言ったか。聞いたことがないな」
ハデスはあごに手を当てて軽く考えるような仕草をする。
「ふむ……とはいえ、罪のない一般人に危害を加えるのは、俺の悪の美学に反する。今回は、我らは手を出さずに傍観するとしよう」
通信先で、激しい交渉が執り行われている。それを聞き流し、ハデスは席を立った。
「やれやれ、ハデス君の甘さにも困ったものですね」
そのハデスの後ろから、何者かが近づいて、彼を羽交い絞めにする。
「い、十六凪!? 貴様、なにをするのだっ!」
そして、彼の装着した『ユニオンリング』の力を使う。
偶然にも相手の名を口にしてしまったがために力が働いてしまった。ハデスと十六凪の体が、一つになる。
強引にハデスの意識と体を乗っ取った天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)は、少し下がったハデスのメガネを指で持ち上げ、マシンから流れてくる交渉の様子を聞いていた。
「ふふふ、面白いですね、レジェンド・オブ・ダークネス。彼らを、僕ら真オリュンポスの世界征服のために利用するとしましょうか」
怪しげな笑みを浮かべ、そう口にする。
そして、デメテール・テスモポリス(でめてーる・てすもぽりす)の部屋へと入る。ベッドの上で駄菓子を口にしながら漫画を読んでいるデメテールは、もごもごと口の中に入ったお菓子を飲み込んでから、口を開いた。
「十六凪っち?」
「ええ。よくわかりましたね」
外見上はほとんどハデスのままであるが、些細な変化にデメテールは気づいたようだ。漫画を広げたままベッドの上に置き、ぐるりと回転してベッドの上に座る。
「『オニオンリング』使ったの? なんか用?」
「『ユニオンリング』ですよ。ちょっと、折り入ってデメテール君に頼みが」
言って、通信傍受マシンを掲げる。そこから流れてくるのはテロ組織がレース会場に爆弾を仕掛けたという、一連の会話だった。
「『真オリュンポス計画』を進めるため、このテロ組織とちょっと話をしようと思っているのです。デメテール君、君は彼らとの交渉窓口を探すのを手伝ってもらいたい」
十六凪はそのように言うが、
「えー働きたくない」
デメテールは露骨に嫌そうな顔をしてそう口にした。
「相変わらずですね。では、これならどうです」
十六凪は一枚の紙を取り出し、デメテールに見せた。
「おおっ!」
それは空京のケーキ屋の、ケーキバイキングのチケットだった。
「いいのっ!?」
目を輝かせてデメテールは言う。
「ちゃんと働いてくれれば、ですけど」
十六凪は紙をひらひらさせて返した。
「ケーキのためなら本気出すよ!」
デメテールは立ち上がり、マシンから流れる音声を聞きながら、十六凪から軽く説明を受けた。
「りょうかーい。デメテールは、レーズン・オブ・ダークラムとかいう組織の人をみつければいいんだねっ!」
「ええ……交渉する予定なのですから、失礼のないように」
デメテールは「ケーキ〜ケーキ〜あはっ」と嬉しそうに口ずさみながら、十六凪の横を抜けた。
「それと」
その首根っこを、十六凪が掴む。
「着替えてから行っていただきたいのですが」
「ほえ?」
デメテールは首を傾げて自分の服装を見下ろした。
下着に上だけパジャマを羽織っただけだった。
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