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リアクション
★悲鳴と笑い声と爆発音★
「あっ土星くんさん、発見しました! あっちです!」
「ナイスだよ、ナオくん!」
唯斗は、聞こえてきた声にぴくりっと反応した。というのも、土星くんの声を求めて遺跡まで来たというのに、中々土星くんに会えなずうろうろしていたからだ。逃してなるものか、と録音機器の用意をしながら足早に声が聞こえた方へと急ぐ。
すると、なぜか虫取り網らしきものを構えた集団(網を持っているのは数人で、他は苦笑しながら見守っているようだ)と、それから逃げる土星くんの姿が見えた。
集団の先頭を走っているのは、ミニスタートを揺らした小柄な少女。美羽がいた。後ろにはナオもいる。2人の手には、やっぱり虫取り網。
唯斗は知らないが、彼女達はケーキ作成をしていた面子であり、祭の準備が整ったために土星くんを迎えに来たのだ。
ならなぜ網?
「……土星くん、とったどー!」
『ぎゃああああああっ』
「あっ美羽ズリぃ」
「凄い上手です!」
「えへへ、ジヴォ君もナオ君もまだまだだね!」
「すごい! 土星くん捕獲のプロだね」
「……いや、ルカ。他につっこむところがあるだろう」
「ナオ、惜しかったですね」
「……その前に止めるべきなんじゃ」
状況は良く分からなかったものの、いい悲鳴がとれた、と唯斗は満足した。
この声は当然のように、祭で配布される土星くん型の砥ぎ器につけられ、しばらくは街のあちこちから土星くんの悲鳴が聞こえたとかいないとか。
『なんやっちゅーねん』
網の中でムスッとしている土星くんに、保護者組――という表現が一番しっくり来る――が苦笑しながら近寄り、網から救出した。
「大丈夫……そうだね。じゃあ、行こうか」
「みなさんが待ってますから」
「そんな警戒しなくても大丈夫……たぶん」
『たぶんっ?』
土星くん自身、違和感は覚えていたのか。いきなり外へ行こうと言う面々に、戸惑った様子だった。何をたくらんでいるのか、と怪しんでいるとまた網で捕まえられそうになったため、やけくそのように遺跡から出ることにした。
歓声が聞こえた。
遺跡の入口に人々が集っている。殺風景だったその場所には色とりどりの花々や装飾品、アーケードが設置され、
『土星くん、おめでとう』と『いつもありがとう』
と書かれてあった。
書かれてあるだけでなく、みなが皆、ばらばらに口に出す。
ちょっと、合わせなさいよ。お前、声でかすぎ。言葉間違ってるぞ。
聞こえてくる掛け合いに、『ほんまや。もう少しくらい合わせる努力せえや』と土星くんは呟いた。
『誕生日オメデトウ、コーン』
『いつもありがとうね』
記憶の中にある、随分と昔の声が思い出され、土星くんはつい口に力を入れた。
「あ、もしかして感動して泣きそう?」
「まじか。泣いてるとこ写真とらなきゃ」
『誰が泣くか!』
「それでこそ土星くんだ!」
「よっ男前! 今日も丸いな!」
笑い声と共に、祭は始まった。
* * *
「きゃー、可愛い!」
黄色い悲鳴が上がっているのは、リイムの隠れ家だ。店長のリイムと副店長のコアトーが客を出迎える。
「いらっしゃいでふ」
「みゅ〜、いらっしゃい!」
もふもふっとした2人の出迎えに、可愛いもの好きが多い女性たちは心をぎゅっと掴まれる。まるでぬいぐるみが動いているかのようで……そう。夢のようだと誰かが呟いた。
「ね、あのスペースはなんなのかしら」
「あれは撮影スペースだよ」
「えっと、きみ達と一緒に?」
「そうでふよ。お姉さん、撮りまふか?」
無事に完成した撮影スペースにて、笑顔ともふもふ(?)を振りまきつつ、客と笑顔で写真撮影。
店が出来た当初は、自分のグッズということで複雑だったものの、今は慣れたように客と接していた。その努力が実ったか。売り上げは順調に伸びている。
コアトーが、やってきた客のカバンについていた土星くんのキーホルダーを見て声をかける。
「土星くんグッズを見せてくれたら、2割引になるよ! みゅ〜」
「そうなの? え、あの大きいぬいぐるみもかしら?」
「ええ、全部よ」
ちゃっかりと宣伝するしっかり者である。
宵一はそんな様子を裏から眺めながら、帳簿をつけ、新商品のアイデアを練る。
「大きなグッズは売り上げにはいいが、やはり小物は売れやすいな。もう少し品揃えを」
祭は始まったばかり。忙しいのもこれからだ。
* * *
食欲をそそる香りに、五十嵐 理沙(いがらし・りさ)がマイクを構えながら「おいしそう」と呟いた。
「ふふ、知ってますか、土星くん。ここの『焙煎嘩哩『焙沙里』(カレー・ヴァイシャリー)アガルタ店』さんでは、お客さんの好みの辛さにしてくれるそうですよ」
セレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)に話を振られ、土星くんは少しカメラを気にしながら答える。どうもカメラが落ち着かないらしく、目があちこちに動いていた。
密着取材ということだが、自然とほほが緩んでしまうため、土星くんは無理に頬に力を入れているようで、随分とぎこちない。
『へぇ〜、そりゃええな』
「土星くんは辛いのが好きなの?」
『基本嫌いなもんはあらへんけど……めっちゃ辛いのとか甘いのとか……極端な方がすっきゃ(好きや)なぁ』
「じゃあいってみましょう! おじゃまするわねー」
そんな土星くんに気づいているのかいないのか。理沙が店へと入っていった。セレスティアは苦笑しつつ、反対はしない。
(少し前に軽くは食べましたが、大分歩きましたからね。仕方ありません)
そう。一行は少し前にリネンの『冒険者の宿』へと立ち寄っていた。
「おめでとう、土星くん。
はい、これはお店からのサービス! 後でニルヴァーナの人達と、ゆっくり味わってね」
と笑顔で渡された土星くんミニチュアケーキだ。
『……自分と同じ形のものを食うて、妙な気分になりそうや』
「あ! 土星くんがデレてる!」
『デレてないわ!』
「ふふ……でも愛らしいケーキですね。食べるのがもったいないです」
「ほんとねー。しかもケーキとドリンクをサービスなんて、太っ腹ね」
「ま、お祝いだもの。これぐらいはね」
カメラでケーキとドリンクの映像を撮影し、店の説明もしていく。そんなおり、近くにいた女性が土星くんに気づいた。
「あれ? どせいくんやー、土星くん、おめでとうでかんぱーい! おかわりー、とおつまみー」
「……ちょっとポータートル。朝からずっと飲んでるでしょ。飲みすぎよ」
宿屋の酒場に入り浸っているシーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)にリネンが注意するも、お酒がのめればそれでいいシーニーには関係ない。
「猿もたまにはええことしよるれら」
パトロールの邪魔だ、とパートナーから放置された彼女は、こうして好きな酒を好きなだけ飲んでいた。が、さすがに限界らしくカウンターにつっぷして眠ってしまった。
「まったくしょうがないわね」
仲間に来てもらえるよう手配をしておくリネン……酔っ払いの相手は手馴れたものだ。セレスティアは少し戸惑ってから、いつもの微笑を浮かべて明るい店の雰囲気を伝えた。
(……そうです。祭り中、店を訪れられない人のためのプレゼントの一つにケーキを贈らせて貰いましょう)
「いらっしゃいませ……あっ、土星くん! 1位おめでとう」
甲高い声に、セレスティアは思考を目の前に戻した。
『お、おう』
努力むなしく一瞬でれっとしてしまった土星くんの顔は、ばっちりとお茶の間に届けられたことだろう。
と言うのはさておき、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)は笑顔で一行を出迎えた。取材のアポはとっていなかったようだが、快くOKしてくれた。
「実は今回のために新しいメニュー作ったんだよ。良かったら食べて欲しいな」
「あ、土星くんはとっても辛いのが好きなんだって。できるかしら?」
「そうなんだ……今回のはそんなに辛くないんだけど……うん。やってみるね。他の人は?」
「私は甘口で」
「では中辛をお願いします」
「ん〜、甘口かな」
「俺は辛いほうがいいかな」
ぞろぞろと店内へと入っていった面子が次々に頼んでいくのを、ネージュは笑顔で頷く。
そしてすぐさま調合室へ。今回の特別メニューは既存の『アガルタの風』を甘口〜中辛に仕立てたもの。
ネージュは素早くも丁寧に調合をする。
(やるならみんながおいしいって言ってくれるものにしたいからね!)
どの作業にも手は抜けない。だからといって待たせすぎるわけには行かない。ネージュは手際よく動く。
たまねぎは黒に近い飴色になるまで炒め、夜空に近い色合いになった濃厚なルゥにあわせるのは、星空をイメージしたミックスベジタブルにブロッコリーなどの大きめの野菜に
極粗挽きミンチ。
それらをしっかりと炒めて煮込み、半球状に盛り付けたサフラン香る海産物を炊き込んだパエリア風にかける。最後に土星くんの表情をカットした海苔で装飾して完成だ。
「わっ土星くんだ」
「カレーでこんな風にできるとは」
「すごいおいしいー」
わいわいとカレーを食べるメンバーの中には、笑顔の土星くんもいた。
『おお辛っ! うま』
ぱくぱくと食べていくその姿に、先ほどまでの緊張していた姿は無い。理沙はそんな土星くんを見て
「土星くん。そこは火を噴く一発芸をするところでしょ」
『そうそうそれが定番……って』
『『なんでやねん!』』
声が二重になったのは、セレスティアが土星くんぬいぐるみのお腹を押したからだ。
「ほら理沙。ふざけてないでちゃんと食べなさい」
「……うん、とってもおいしい」
「ありがとう! よろこんでくれてとても嬉しいな」
「あ、おかわりーください」
「はーい」
笑顔でカレーを食べながら、この番組を見た人のために合言葉『土星くん愛らしい!』を言えば、割り引いてもらえるサービスについて交渉し、OKをもらう。
「みんな、合言葉は間違えないようにね!」
「待ってるよー」
* * *
土星くんが火を噴く芸の練習をしている中(『してへんわ!』)、笠置 生駒(かさぎ・いこま)とジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)は歩いていた。生駒は何やらメモを持っている。
メモには運営委員のサインと要注意人物のリスト、という文字があった。
「それでやつらはどこに注意しろと?」
「えーと、要注意なのはラフターの食堂と全暗街のアワビ……」
「愚民どもよ、アワビを食うがいい!」
「ンフフフフ! 救済の時です」
メモを覗き込んだ2人の横を、御輿が通り過ぎていく。生駒とジョージはその上にいる人物(?)たちをじーっと無言で見つめた。
そしてその言動を確認。リストにバツを書く。
「とりあえず今回は人畜無害そうだね」
「……そうなのか、のう?」
ジョージはなんとも複雑な顔で、御輿の集団を見送った。生駒は気にしないことにしたらしく、すでに前を向いていた。
深く考えない。それが長生きするコツだ……え?
「(見なかった事にしよう)そういえば、シーニーの姿が見えないんだけど?」
「奴がこんな時に役に立つ分けなかろう置いてきたぞ」
「あー、なるほど……じゃあとりあえず、同じ区の秘密結社か」
「どうも別の場所に作ったらしいな。今度は喫茶じゃなくて秘密基地だとか」
見上げたその先にあったのは、なぜか差し押さえという札が貼られた掘っ立て小屋。
「……なるほど。借金のかたに取られ、誰もいなくなって崩れていく廃墟をイメージしたお化け屋敷ってことだね」
「リアルだの」
「でもなんとなく、そういうの凝りそうな気もする」
「だのー」
不思議だろうと、どんなことがあっても納得できる組織。それがオリュンポスだ!
とまあそんなことはさておき、入口をくぐる。
「悪は滅ぼさないとね」
生駒とジョージは、建物内に妙に物が少ないのが気にかかったものの、気にせずに奥へ奥へと向かっていった。
一時間後。オリュンポスのお化け屋敷は、見事に――爆発した。
しかし不幸中の幸いといおうか。怪我人はおらず、差し押さえ品もすでにほとんどが回収済みだった。なぜもう回収済みだったかというと、悪い予感を覚えたからだそうだ。
なので何も問題は……ない、といっていいだろう、たぶん。
「フハハハハ! さて、改築の続きを……ん? 我が秘密基地はどこだ?」
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