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学生たちの休日16+

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    ★    ★    ★

「あはははは、落ちる落ちるう!」
 今度はフリーフォールに乗った秋月葵が、歓声をあげていました。
 一番上までいったときは、広大な遊園地が隅々まで見渡せました。急転直下、落下が始まると、ツインテールがアンテナのように上にのびて、それを結んだ大きなリボンや制服のレースがバタバタと風に激しくはためきます。さすがに、マカロンは胸元に潜り込んで振り落とされないようにしっかりとつかまっていました。おかげで、なんだか今だけ巨乳です。

    ★    ★    ★

「ふっ、うまくみんなをまいたようですね。さあ、今のうちに、そうだ、あそこに入りましょう!」
「うん、面白そうだ」
 ココ・カンパーニュ(ここ・かんぱーにゅ)の手をとると、風森 巽(かぜもり・たつみ)はお化け屋敷に入っていきました。
 なんだか、手を繋いでいつの間にかラブラブです。
「そろそろ止めを刺しますか?」
 しっかりと物陰から様子をうかがっていたペコ・フラワリー(ぺこ・ふらわりー)が、大剣の柄に手をかけました。
「まあまあ、もう少し。殺るのなら、リーダーのいない所でですわあ」
 チャイ・セイロン(ちゃい・せいろん)が、さらりと怖いことを言います。
「そんなに邪魔だったら、我がひっつかんで、アトラスの傷跡の火口に捨ててくるが」
 人間体のジャワ・ディンブラ(じゃわ・でぃんぶら)の言葉に、それはステキだとペコ・フラワリーとチャイ・セイロンが同意します。
 それはさておき、リン・ダージ(りん・だーじ)はどこへ行ってしまったのでしょうか。さすがに、風森巽をいじるよりは、好みの男の子を探しに行ってしまったようです。だって、アリスですから。
 アルディミアク・ミトゥナ(あるでぃみあく・みとぅな)の方は、アラザルク・ミトゥナに連れられて別行動でデート中です。さすがに、時間をかけてアラザルク・ミトゥナに諭されたようですし、実際は見た目よりもずっと大人ですから、いいかげん二人を見守ることにしたようです。
 まあ、結婚秒読みに近いらしいマサラ・アッサムをのぞくと、問題なのはこの二人なわけですが。
 ちなみに、ジャワ・ディンブラの方はどうかと聞きますと、1000年ぐらい前にごにょごにょでごまかされました。年季というか、ちょっと単位が違うようです。
 もっとも、最大の問題は、ホレーショ・ネルソンのようにさっさと事を進めない風森巽にあるわけですが。それこそ、年季の違いということなのでしょうか。

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「さあ、さっさと次にいきましょうか」
「まあまあ。たまにはいいじゃないか」
 お化け屋敷の前を足早に通りすぎようとする遠野 歌菜(とおの・かな)を、月崎 羽純(つきざき・はすみ)が引き止めました。
「い、いや、あっちの方にもっと面白そうな物が……。あっ、そうだ、メリーゴーラウンド、メリーゴーラウンドに乗りたいなあ。ねえ、ダメ?」
 ちょっと上目遣いに、遠野歌菜が月崎羽純に懇願しました。なんとしても、お化け屋敷だけは回避したいところです。メイちゃんたちのマスターの復活の儀まではまだ時間があると大神御嶽たちに聞いたので、時間潰しにいろいろなアトラクションを楽しんでいるのですが、中にはダメな物もあるのです。
「さっき乗ったじゃないか。このへんでまだ入ってない所は、ここぐらいだぞ」
「だって、こんなの子供だましじゃない。ねえ」
「大丈夫、俺がついてるじゃないか。それに、子供だましなんだろう。たいしたことないさ」
 ちょっと言葉尻をとって、月崎羽純が言いました。やはり、男としては、お化け屋敷で女の子にキャーキャー言われてだきつかれるのは一つのロマンです。
「ううう……、それは、羽純くんがいればあれだけど……」
 でもやっぱり怖いと、遠野歌菜が躊躇したときです。
 どっかーん!
 いきなり大きな音がして、お化け屋敷の屋根に大穴があき、何かが中から飛び出してきました。
「ああ、ごめんなさいごめんなさい! いきなりだきついてくるから、お化けだと思って……。待ってー!!」
 なんだか叫びながら、ココ・カンパーニュが中から飛び出してきます。
 どうやら、風森巽が積極的になって……墓穴を掘ったようです。
「よし!」
 思わず、外で待っていたゴチメイの三人がガッツポーズをとります。
「ええと、やっぱり観覧車にするか……」
「うん、そうしよ、そうしよ」
 巻き込まれては大変と、慌ててその場から離れる月崎羽純と遠野歌菜でした。

    ★    ★    ★

「あれ、何か飛んで行ったよね。なんだろう?」
 ゴーカートに乗っていた秋月葵が、空を横切っていった人みたいな物を見あげて首をかしげました。
「お先にー」
 同じゴーカートで遊んでいたミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が、その横を追い抜いていきます。
「あー、負けるものですかあ」
 今のは気を抜いていただけよと、秋月葵がアクセルをベタ踏みして、その後を追いかけていきました。

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「なんだか、お化け屋敷は、入らないのに堪能してしまったなあ」
 しっかりと遠野歌菜にしがみつかれて、期せずして目的を達してしまった月崎羽純が、ちょっと苦笑しました。
 なんだか疲れてしまったので、オープン喫茶でゆっくりとアイスクリームを食べています。
「わーい、限定スイーツ、さいこー♪」
 近くのテーブルから、特大パフェを堪能しているミルディア・ディスティンの声が聞こえてきます。
 金魚鉢のようなカップにてんこ盛りに盛られたバニラアイスの山に、恐竜の形にカービングされた果物がジオラマのように配置されています。
「うーん、ここのアイス美味しいね」
 遠野歌菜の方は、クレープの上に、オレンジシャーベット、抹茶アイス、チョコマーブルアイスなどがディップされたバラエティセットをつついています。月崎羽純の方は、クレープの上に、クールミント、ラムレーズン、リコリスのアイスが乗っていました。二人で、それぞれをシェアしつつ、いろいろな味を楽しんでいきます。
「大丈夫?」
「いやあ、タフなのが取り柄ですから」
 ココ・カンパーニュにハンカチで顔の血を拭き取ってもらいながら、風森巽が笑いました。確かに、これくらいでないと、ココ・カンパーニュの恋人などつとまらないような気もします。もっとも、今のところはココ・カンパーニュもかなりはしゃいでいるだけですから、慣れてきたら、ごく普通の彼女になりそうですが。
「ええと、面白いメニューがあるんですが、頼みます?」
「うん、任せる」
 テーブルに両手で頬杖突いて、綺麗になった風森巽の顔を見つめるココ・カンパーニュが答えました。
 やがて、運ばれてきたのは、ジュースの入ったコップにストローが二本刺さった定番のあれです。
「一度やってみたかったんですよ。二度はやらないでしょうけど。なので、最初で最後の……」
 しのごの風森巽が言うのをスルーして、ココ・カンパーニュがストローをくわえました。遅れてジュースがなくなっては大変と、風森巽も慌ててストローをくわえます。
 ストローの長さは普通ですから、どうしても顔がくっつくぐらいの距離までよせることになります。
 なんだか、何味のジュースだか分からないまま、飲み干したことも分からずに風森巽がずずずずーっと、いつまでもストローを吸っていました。
「もうないよ?」
 何をしているんだと、ココ・カンパーニュがストローをつまんで、風森巽の口から抜き取りました。代わりに、素早くチュッとキスをします。
「今ですわあ、シューティングスター……」
「一刀両断……」
「エンシャント・ブレス……」
「はーい、そこまで」
 あわやというところで、アルディミアク・ミトゥナとアラザルク・ミトゥナが、チャイ・セイロンたちを止めに入りました。
「お姉ちゃんまで巻き込んでどうするんですか!」
 そのままズルズルと三人を引きずっていきます。
 間一髪、命拾いした風森巽でしたが、未だカチカチに固まったままで、ココ・カンパーニュが目の前で手をひらひらさせているのでした。