リアクション
空京の休日 「んーっ、いい天気だねー」 「ふふ、二人きりでこんなゆったりデートなんて、久しぶり、まるで恋人のころに戻ったようだな。まあ、あのころは、気恥ずかしくてあまり素直になれなかったがなあ」 子供たちを預かってもらって、久々に夫婦水入らずのデートとなった椎堂 紗月(しどう・さつき)と椎堂 朔(しどう・さく)が、仲良く腕を組みながら言いました。 「それにしても、問題はあの二人だな」 「そう、それだ!」 そう言って、椎堂紗月と椎堂朔が、少し前を歩く椎堂 アヤメ(しどう・あやめ)とスカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)の方を見ました。 どうにも仲が進展しない二人に業を煮やして、今日はダブルデートということにしたのですが、はたして、新たな進展はあるのでしょうか。 「つーわけで、アヤメ! 俺と朔はあっちで買い物してくっから、お前もスカサハちゃんとテキトーに買い物して来いよ。たまにゃ、スカサハちゃんに何か買ってやれって! んじゃな!」 半ば強制的に二人を突き放すと、椎堂紗月と椎堂朔はさっさと別行動を取りました。後は若い人たちでということです。 「うまくいくといいがなあ」 「うーん、先は長そうだなあ……」 なんだかぎくしゃくと進んでいく椎堂アヤメとスカサハ・オイフェウスを見送って、椎堂紗月と椎堂朔が軽く溜め息をつきました。 「さーて、んーじゃ俺も朔に何か買ってやっかなー」 「ホントか!?」 二人っきりになって、椎堂紗月が椎堂朔を連れて和装小物の店に入りました。ちょっと本格的なお店です。 「ふーん、結構しっかりしてんのな。ん? この紐、俺が昔髪結ってたやつにそっくりじゃん。未月も女の子だし、いつかつけっかなあ」 そう言うと、椎堂紗月が、手に取った紐を娘の未月のために買いました。 「じゃあ、私は葉月にこれをプレゼントしよう」 そう言って、椎堂朔が息子の葉月のために買い求めたのが、白い布地です。実家のラッキーアイテムなので、これで何か作ってやろうという感じです。 「朔にはこの簪なんかどうだ?」 そう言って、椎堂紗月が、椎堂朔に簪をあてがいました。 「うん、似合ってる」 「そんな……。ありがとう」 子供たちへのプレゼントしか考えていなかった椎堂朔にとっては、これは嬉しいサプライズでした。 「じゃあ、お揃いにしようよ」 「お揃い…? あー、いやまぁいいんだけど。俺に簪って似合う?」 「うん、似合う、似合う。お揃い、お揃い」 そう言われて、椎堂紗月はお揃いの簪をレジへと持っていきました。支払いを済ませてから、お互いに簪をつけ合います。 「嬉しいなあ。貴方と家族になって本当によかった。愛してる、紗月」 そう言うと、椎堂朔が椎堂紗月の首に腕をからげてキスをしました。 ★ ★ ★ 「うーん」 買い物につきあえと言われて連れ出されたのに、なぜかいきなり別行動だと言われて、ちょっと椎堂アヤメは困惑していました。椎堂紗月の意図がよく分かりません。 とりあえず時間を潰すためにも、スカサハ・オイフェウスと一緒に食事にむかいました。ちょうど、小綺麗で美味しそうなテラス式のレストランがあります。二人は、そこで食事をすることにしました。 「美味しいでありますね! アヤメ様と御一緒だと格別でありますね!」 スカサハ・オイフェウスの方は、椎堂アヤメと食事ができて御満悦です。 「ええっと、ちょっと行ってきます……」 美味しい御飯を食べて、デザートを待っているときにスカサハ・オイフェウスがちょっと席を立ちました。おトイレです。 「おや、あんな所に花屋が……」 手持ち無沙汰に街路を眺めていた椎堂アヤメが、通りの反対側に花屋を見つけました。 「そういえば、紗月も前に花をくれたことがあったな。花にはそれぞれの言葉があるって……」 そんなことを思い出していたら、なんだか無性に花を買いたくなってきてしまいました。幸い、スカサハ・オイフェウスはまだしばらくは戻ってこない感じです。すぐに、椎堂アヤメは、花屋へとむかいました。 「あれ? アヤメ様は!?」 戻ってきたスカサハ・オイフェウスは、椎堂アヤメがいなくなっていてとても狼狽しました。 「少し目を離した隙に、アヤメ様がいなくなったであります!? アヤメ様! どこでありますか!?」 スカサハ・オイフェウスが半べそになっていると、道のむこうから椎堂アヤメが走ってきました。両手に、紫色の花束をかかえています。 「よかった。心配したであります」 思わず、スカサハ・オイフェウスが椎堂アヤメにぎゅっとだきついて言いました。 「何を泣いているんだお前は。それより、ほら、花菖蒲という花だ。本当はアヤメがよかったんだが、もう旬は過ぎてしまったそうだ。でも、これもいいだろう? お前に合うと思う。花は見た目だけでなく、その意味を贈ることもあるそうだ。受け売りだがな。だから、受け取ってくれ」 「わぁ! 素敵なお花であります! ありがとうございます! 大切にするであります!」 ちなみに、花菖蒲の花言葉は友愛です。この二人、まだまだ前途多難なようです。 ★ ★ ★ 「さゆみー、あなたー」 久々の休暇でお寝坊を満喫したアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)が、隣で寝ていたはずの綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)の姿を求めて居間へとやってきました。 見れば、綾原さゆみは以前夏合宿の宝探してもらったイコプラを引っ張り出して、何やら仮組をしています。 「せっかくの休みだというのに、何をやってるのですか?」 先日結婚したばかりの新婚さんだというのに、新婦をほっといて何をしているのかと、アデリーヌ・シャントルイユが綾原さゆみに問い質しました。ちょっと怒っているかもしれません。 「ほら、今度、パラミタ鑑定団のお宝大会に出るでしょ。なんか持ってかないと、アイドルとして格好がつかないじゃない。で、以前もらったイコプラなら、ビンテージ物だし、ちょっと高評価かなあって思って。で、とりあえず手入れしているわけ」 イコプラを磨く手を休めずに、綾原さゆみが答えました。 「そんなこと、いつでもいいじゃないですか。せっかく取れた休みだというのに、仕事関係で時間を潰してしまうだなんて……」 それに、自分たちは新婚なんですのよと、アデリーヌ・シャントルイユが心の中でつけ加えました。 「大丈夫、そんなに時間はかからないから。とりあえず、オプションの武器を構えさせて、ジオラマふうのポージングつけて掃除しておくだけだから。終わるまで、ちょっとむこうで待っててよね」 アデリーヌ・シャントルイユの言葉をなかば聞き流して、綾原さゆみが言いました。 さすがに、アデリーヌ・シャントルイユがちょっとカチンときます。 「わたくしを無視するなんて、許せませんわ。……少しお仕置きしなければなりませんね」 隣の部屋に行ったアデリーヌ・シャントルイユが、こちらも去年宝探しでゲットした黒蓮の花を押し入れの中から引っ張り出してきてほくそ笑みました。この花の香りは強力な誘眠作用があります。綾原さゆみが寝てしまえば、もうこっちのものです。そこは、新婚さんですから、あーんなことや、こーんなことをし放題です。じっくりと解剖させてもらいましょう。 隣の部屋のドアを細く開けると、アデリーヌ・シャントルイユが団扇でパタパタとあおいで、黒蓮の花の香りを隣の部屋に送り込みました。 「よし、このポーズで決まりね。後は、模擬弾の発射試験を……。あらっ、何かしらこの香り。ちょっと甘くて、いい香りだけど。むこうから?」 黒蓮の花の香りに気づいた綾原さゆみが、イコプラのリモコンのスイッチをいろいろといじっていた手を止めて、丸いダーツ盤の飾ってあるドアの方へとふらふらと歩いていきました。 「ふふふふ、そのままドアを開けたら、一気にバタンキューですわよ」 アデリーヌ・シャントルイユが悪戯っぽく微笑みます。 はたして、計画通り、綾原さゆみがドアを開けたときでした。リモコンのスイッチの入っていたイコプラのエアーコンプレッサーが臨界に達して、イコプラ・ヤクート・ヴァラヌス・ストライカーのショルダーキャノンから吸盤アローが勢いよく発射されました。 「きゅんっ!?」 みごとに、綾原さゆみの後頭部に吸盤アローが命中します。すでに朦朧としていた綾原さゆみは、足許にあった黒蓮の花の入っている瓶を蹴飛ばして、そのままつんのめるようにして前に倒れ込みました。 「ちょ、ちょっと、さゆみ!?」 突然綾原さゆみが倒れてきたので、避けずにだきとめようとしたアデリーヌ・シャントルイユが、一緒になって後ろへと倒れ込みます。 ごつん。 「いったあ……ああ……あれ!?」 思い切り後頭部を床にぶつけて目から火花が飛び散ったアデリーヌ・シャントルイユでしたが、朦朧とする意識が、さらに甘い香りで混濁していきます。見れば、顔のすぐ横に、黒蓮の花が入った瓶が転がっていました。 「あはははは……きゅう」 そのまま、二人は折り重なるようにして、ぐっすりと眠りこけたのでした。 |
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