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リアクション
「……夢か(歌菜といる今が十分過ぎる程幸せだが、それ以上に見たい夢となると……)」
「……見たい夢かぁ(見たい夢って言われても羽純くんがいればそれだけで幸せだし……)」
月崎 羽純(つきざき・はすみ)と遠野 歌菜(とおの・かな)は手元にある入手した夢札をまじまじと見ながら見たい夢という事に悩んでいた。互いに最愛の人と共にいる現実こそが二人にとっては幸せな夢のようなもの。つまり二人はすでに見たい夢を見ているのだ。
結局、歌菜はイメージが湧かないまま羽純は曖昧なまま夢札を使用する流れとなった。
■■■
「あれ? ナニここ! まるで戦場みたい……いくらイメージが湧かなかったからってこんな夢を見るなんて……」
倒れた人が沢山いる緊迫と絶望に満ちた光景に歌菜はすぐにどのような場所か察した。
「……とりあえず見て回ろう……羽純くんは幸せな夢を見ているといいなぁ」
いつまでも突っ立っている訳にはいかないため歌菜は歩き始めた。ここが自分の夢だと思っている歌菜はせめて羽純が幸せな夢を楽しんでいる事を願いながら。旦那の幸せは自分の幸せだから。
歩き始めてすぐ表情が明るくなった。
「あれは、羽純くん!? もしかして同じ夢を見たのかな? それとも私の夢の羽純くんかな? ともかく声をかけてみよう」
倒れた人々の中に大好きな羽純を発見したのだ。
しかし、
「羽……」
声をかけようとして声が出なくなった。
なぜなら
「……(私の知ってる羽純くんと何か違う。あんな眼差しの羽純くんを、私は知らない……冷たくて、暗く、孤独な目……それにボロボロで)」
歌菜の隣でいつもいて笑いかけてくれる優しい夫ではなかったからだ。
「……もしかして、ここは私の夢じゃなくて……」
歌菜は気付いた。ここは自分の夢ではなく羽純の夢だと。
だからと言って歌菜は放って置く事は出来ず、立ち去るような事はしなかった。いや出来なかった。
そのため、この後に続く展開に羽純との縁をますます感じる事に。
淀んだ青空の下、戦場地のとある場所。
「……」
シャンバラ古王国と鏖殺寺院との戦いが勃発し命を失い倒れた人々の中、羽純は立ち尽くしていた。シャンバラ古王国を守護していた騎士に仕える剣の花嫁である羽純の冷たく暗い瞳が映すのは襲って来る鏖殺寺院の者達だけ。
「……(……これが……消滅する時が来るまで戦う事が……俺の唯一の道)」
軽く呼吸を整え羽純は物凄い速さで駆けてひたすら敵を倒し続ける。胸に抱くは唯一の道だけ。戦う事以外の思いは何も無い兵器。
向かって来る敵を全て打ち倒し一段落した後。
「……」
羽純は周囲を警戒。絶え間ない戦闘のせいで羽純の姿は疲労と傷でぼろぼろだった。その姿を見守る者がいる事など知りもしない。
その時、
「ここにいたぞ、捕まえろ」
突然見知らぬ男が現れ羽純の姿を認めた途端、数人の仲間を呼ばわった。
「……」
周囲を警戒していた羽純は瞬時に反応し逃げ出した。その後ろを先程の男とその仲間達に追われる事に。
その成り行きを見守る歌菜は
「捕まえろって、羽純くんの事? 追われてるの? どういう事?」
訳の分からぬまま動き始めた展開に置いて行かれまいと急いで追った。
すぐに羽純は捕まった。やはり万全な状態ではない事が影響してだろう。
それを見るなり
「助けなきゃ! 羽純くんを助けなきゃ!」
歌菜は羽純を捕らえた人達に駆け寄り
「やめて、羽純くんにひどい事しないで!!!」
声を張り上げて羽純から捕まえている人達を引きはがそうとするが、
「な、何、これ!? どういう事!? 何で干渉出来ないの!?」
歌菜の手はすり抜け、羽純を助ける事が出来ない。
「しかも声も聞こえていないみたいだし……これじゃ、羽純くんを助けられない」
歌菜は自分の声も相手に聞こえていない事に気付き、羽純を助けられない事に堪らなく苦しくなるが何も出来ずただ見守る事しか出来なかった。
一方。
「……」
捕らえられた羽純は捕まえた者達の一人と思われる女性をにらんだ。
「……そうにらまないでくれ。これは助けるためだ」
女は羽純との距離を縮め、真っ直ぐに見るなり
「……このまま戦い続けてもいつかは光条砲台『殲滅塔』のエネルギー源となって消滅するだけだ。それを覚悟している事は分かっている。しかし、自分はそんな理不尽な事許せない! だから生きて貰うために来た。兵器では無いんだからな」
剣の花嫁を消耗品扱いをしている事実に女は憤りと嫌悪を表情に浮かべた。
しかし、
「……」
羽純の顔には女と同じ感情は浮かんでいない。彼女が言う理不尽を覚悟し受け入れているから。
「これに封印すれば、光条砲台『殲滅塔』のエネルギー源とならずに済む。悪く思わないでくれ」
そう言うなり女は脇に避け、仲間と共に持って来た羽純を封印する入れ物を本人に見せる。
「……封印……と言う事はこの夢は羽純くんの過去? この女の人は羽純くんを助けようと……この人……」
ずっと見守っていた歌菜は女性が発した数々の単語からこの夢は羽純の過去の出来事を映したものであると知った。
何より気になるのは
「……私に似てる?」
羽純を助けようとする女の顔。自分に似ているような気がしてならないのだ。
羽純の前に現れたのは棺だった。
「誰かに見つかる前に始めてくれ。何としてでもこの作戦を成功させる」
女は仲間達に羽純封印作戦実行を命じた。
仲間達は数人がかりで羽純を速やかに棺の中へと押し込む。
作業が後少しで終わる所で作業中敵襲を警戒していた女性が振り向き、
「……平和な時代に封印が解かれる事を祈ってる」
心底の願いが込められた最後の別れを口にした直後、
「ここにいたか裏切り者!!」
明らかに敵意を剥き出しの男が現れ、女の命を奪った。
それを見た羽純は
「……(どうして俺の為に、お前が死ぬんだ)」
訳が分からなかった。兵器である自分のためになぜ命をかけるのか。そこにどんな意味があるのか。
命の灯火が完全に消えるその瞬間。
「……」
女は羽純の方に笑顔を向けた。
「……(なぜ……笑う)」
笑顔にどんな意味が込められていたのか羽純には分からなかった。
女は笑顔のまま地面に倒れ伏したが、その姿を羽純が見る事はなかった。
なぜなら封印が間一髪完了したからだ。
一方。
「……命をかけて羽純くんを護ってくれてありがとう」
男に殺され地面に倒れた女に近付き、歌菜は屈んで礼を言った。声なんぞ届きはしないと分かっていても言わずにはいられなかった。
それから歌菜は棺に近付き、すり抜ける手で触れながら羽純に言葉をかけた。
棺に入れられた瞬間。
「……(あの顔、歌菜に似ていたな)」
羽純の意識は現在に代わりここまで見た事を振り返り
「……(だからか、歌菜に封印を解かれた時、記憶喪失の俺が歌菜を知っている気がしたのは……俺を助けようとした女に似ていたから)」
女の笑顔といつも自分を癒す妻の笑顔を重ねつつ封印が解かれた時の事を思い出していた。
「……(大丈夫だ、この夢も歌菜が起こしてくれる)」
自由を奪われながらも羽純は恐れていなかった。
その時、
「私、きっと行くから貴方を目覚めさせに」
棺越しから聞き知った声が聞こえて来た。
「……(……歌菜)」
羽純が声の主を口からなのか胸中なのかは分からないが呼んだ時、世界は白んだ。
■■■
覚醒後。
「羽純くんに会えて私幸せだよ」
歌菜は羽純に最高の笑顔を向けた。
その笑顔に夢で見た女の笑顔を少し重ねながら
「……あぁ、俺もだ。歌菜と出会えてよかった(祈りは届いた。俺はこうして幸せにしている)」
羽純は愛しそうに歌菜に答えると共に胸中で自分を助けた女性に話しかけていた。
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