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2.ウェザーでパーティー(追憶)

「今日のウェザーのイベントは、野外じゃなくて店の中なのか。しかし……一体、何のイベントなんだろうな」
「いーからいーから」
 早川 呼雪(はやかわ・こゆき)ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)に引っ張られるようにしてウェザーの店内に踏み込んだ。
 ぱん、ぱぱん。
 途端に響くクラッカーの音。
「誕生日、おめでとう!」
「おめでとうございます」
「祝福させてもらう」
 口々にかけられる祝福の声。
「え……」
 ぽかんと口を開ける呼雪の耳に、ヘルが囁く。
「ちょっと早いけど、誕生日のお祝い。眠ってて誕生会できないといけないからね」

 ヘルがウェザーに立ち寄ったのは、数日前だった。
「ねえ、お店で誕生日をお祝いしてくれるって、本当?」
 詳細が決まると、ヘルは招待状を準備する。
「そうそう、ムシミス達も呼ぼうっと!」
 ジャウ家の兄弟、ムティル・ジャウ(むてぃる・じゃう)ムシミス・ジャウ(むしみす・じゃう)
 招待状を受け取った彼らは、すぐヘルの携帯に参加の連絡を入れた。
「来てくれるの? ありがとー」
「こちらこそ、日頃ムシミスが世話になっている礼をする機会を作ってくれて感謝する」
「もー、堅苦しいなぁ。あ、そうそう。プレゼントのリクエストはー、呼雪が喜びそうなものね」
「分かった」
「そうそう、触手的なものはあんまり好きじゃないみたい」
「何故それをチョイスすると思った」

 いくつかの打ち合わせを経て、パーティーの開催に至ったのだ。
「ほら、ケーキ。ロウソク、ふーってして」
「あ、ああ」
 ヘルに促され、呼雪はロウソクを吹き消す。
「ふーっ」
「ひゃっ!?」
 同時に自分の耳をヘルに吹かれ、呼雪は飛び上がる。
「こ、こら……」
「ごめんごめん。これ、プレゼント!」
 ヘルが差し出したのは、アイオライトのチャームが付いたイヤーカフス。
「俺達からは、これを」
「いつもお世話になっています」
 ムティルとムシミスのプレゼントは、綺麗な細工のオルゴールだった。
 ちなみにウェザーの面々からは、ペンケースとペン。
「……ありがとう」
 突然の出来事に、呼雪は俯き、やっとのことで礼を言った。

   ◇◇◇

 12月22日。
 この日も、ウェザーではサプライズのパーティーが開催された。
「羽純くん、実は……相談があるのです!」
 遠野 歌菜(とおの・かな)からいつになく真面目な顔で呼ばれた月崎 羽純(つきざき・はすみ)は、やや緊張の面持ちでウェザーの扉に手をかける。
 そして次の瞬間。
「誕生日おめでとう!」
「おめでとうございます!」
「おめでとウございまスー」
「おめでと、う?」
(羽純くん、驚いてる! やったね)
 矢継ぎ早にかけられる祝福の言葉に唖然とする羽純を見て、歌菜は小さくガッツポーズ。
(やられた……)
 一方の羽純は、驚きの感情が過ぎ去った後、素直な喜びの感情が全身に広がるのを感じていた。
「……ありがとう。本当に、嬉しいよ」
「ほらっ、お料理も、頑張って手作りしましたっ」
 羽純の手を引っ張ると、歌菜は料理のテーブルへ。
 そこには美しいだけでなく、栄養バランスもきちんと考えられて作られた品々が並んでいた。
「これ、私達からのプレゼント!」
 サニーが代表として差し出したのは、アロマキャンドル。
「……良かったら、使ってくれ」
「ご招待ありがとうございます」
 ムティルとムシミスからは革製のキーケースとブックカバーが贈られた。
「……ありがとう」
 羽純はやっとのことでそれだけ言うと、にこにこと笑っているパートナーへと視線を移す。
「しかし歌菜、お前だって明日は誕生……」
「わーわー」
 言いかけた羽純の口を、歌菜は慌てて塞ぐ。
 そう。
 23日は羽純と歌菜の誕生日。
 歌菜は羽純に怪しまれないよう、22日に誕生日パーティーを企画したのだ。
「今日は、羽純くんが主役なんだからっ」
「……なら、明日はお前メインで祝うからな。そのつもりで……覚悟しとけよ?」
「むー」
 膨れる歌菜に、羽純は凄むように言って聞かせる。
「……いや、家に帰ってから、すぐにな」

   ◇◇◇

 クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)の誕生日に、花束が届いた。
 送り主はジャウ家。
 ムティルとムシミスからのものだった。
 ジャウ家の庭に咲いた花を摘んで、送ってきたらしい。
 ムティルたちは、たしかジャウ家から追放されていた筈。
 家に帰ることができたのだろうか――
 花束を持ったまま、クリストファーは思いを馳せた。

   ◇◇◇

「えぇ!?」
 高円寺 柚(こうえんじ・ゆず)から贈られた最後のサプライズに、杜守 三月(ともり・みつき)だけでなくサニーは驚き、そして赤面する。

 年の瀬、12月31日。
 この日は三月のバースデーということで、柚の主催の元、三月の誕生日パーティーが開催された。
 内緒にしておいて、店についた途端のサプライズ。
 柚とサニーが頑張って手作りした料理とバースデーケーキ。
 柚からのプレゼント、欲しかったスニーカー。
 様々なサプライズにサプライズを重ねたバースデーパーティー。
 しかし、サプライズはそれだけでは収まらなかった。
「実は、もう一つプレゼントがあるのです」
 柚は、封筒に入ったカードキーを三月に差し出した。
「近くの、夜景が見えるホテルの部屋を予約しておいたのです! サニーさんと2人で、ゆっくり過ごしてください!」
「えっ……」
「えぇ!?」
 突然のサプライズに絶句する二人。
「ちょ……ちょっと待った!」
「あー、いいねー。せっかくだから姉貴たちゆっくりしてきなよ」
「ごゆっくリー」
「きもちいい?」
 文句を言おうとするレインを押し留め、ウェザーの一行もにこやかに三月たちを見送る。

 そして、2人はホテルの一室にいた。
「……今年最後と最初に日に、サニーさんと一緒に居られるなんて幸せだよ」
 普段なら歯の浮くような台詞も、今ならすらすらと口にできる。
「わ、私も……その、これ!」
 サニーが三月に差し出したプレゼントは、運動が得意な三月のためのスポーツ用の腕時計だった。
「ありがとう。僕も、渡したいものがあるんだ」
 差し出したのは、小さな小箱。
 中には、トパーズ――サニーの誕生石のついた、指輪。
「――結婚して欲しい」
「え……」
「その、返事はいつでもいいから……」
「は、はい! あ、今のは、OKっていう意味のお返事で……」
 即座に返ってきた言葉に、三月は思わず吹き出した。
「わ、笑わないでよぅ。大切なお返事は、早い方がいいと思って……」
「ごめんごめん」
 唇を尖らすサニーに、三月はそっと口付ける。
 暫く頬を膨らませていたサニーは、やがてその口付けを深く深く受け入れる――