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リアクション
祭りも終盤に差し掛かる。
花火で客足も落ち着いている今、エクリィールは気を利かせる。
「ハイコド、ソランよ」
「ん、どした?」
「折角の祭りじゃ、双子ちゃんへのお土産でも見てきたらどうじゃ?」
「店番は?」
「わらわが引き受けるのじゃ。心配せんでも今なら大丈夫じゃ」
次、忙しくなるのは花火が終わった後。それまでに戻れば、何も問題はないだろう。
「ハコ、行こっ!」
「んじゃ、行くか」
「うーん、いいわねぇこのガヤガヤ具合♪」早速出店に立ち寄るソラン。「これだから祭りはやめられないわ!」
「おっ、あっちのお面とかいいんじゃないか?」
二人の祭りはこれから始まる。
―――――
「ところでマスター」
「どうした?」
「ジブリールさんがおりませぬが何処へ?」
「あー……所謂、気遣いだな。子供のくせに……」
「気遣い?」
「ま、何だ。二人っきりで楽しめってことだよ。ほら行くぞ?」
「……え?」
これが少し前のフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)とベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)との会話である。
そして今現在、花火大会と同じく佳境に入っていた。
星が放つ無数の輝きが花を添える夜空。
しかし、肩を並べるフレンディスの視線はずっと下を向いている。
「おいフレイ。ちゃんと見ないと終わっちまうぞ?」
ベルクの掛ける声も耳を通らない。
ジブリールに気を遣われ、二人きりと意識したことで困惑しだしたフレンディス。
彼が居なくなってから終始この調子。尻尾を振り、「次はあれを食べましょう!」と縁日を堪能していた姿は見る影を潜めている。
このままではいけない。
固く結ばれていたフレンディスの手。ベルクは頭をがりがり掻くと、その上からそっと手を重ねる。
「あっ……」
それに驚きフレンディスの顔が持ち上がる。ようやく視界に入った大輪の花々。
「……綺麗です」
「やっと見たな」ホッと一息。「折角花火大会に来たのに見なきゃ損だろ?」
「……そうですね」
二人でじっと見つめる夜空。彩るハーモニー。フレイの表情は徐々に高揚していく。
暫くして、
「なあ、フレイ」
不意にベルクが口を開いた。改まってどうしたのか。きょとんとした瞳で振り返る。
「急にどうしました、マスター?」
「それ、止めないか?」
「……え?」
意味が解らない。それ、とは何の事なのか。疑問が頭を占める。
戸惑うフレンディスに向き合って、ベルクは告げる。
「その『マスター』って呼び方、止めないか?」
マスターと呼ぶのは慕う気持ちの現れだとよく知っている。けれど、それは未だ抜けない主従関係の表れでもある。
恋人になって幾何か。そろそろ従者意識を払拭して欲しいと願っているのだが、
「マスターはマスターでマスターですから……」
やはり、今一理解していない。
だけども今日はジブリールに気を遣わせている。ここで引くわけにはいかない。
「……わかった、一度でいい。俺を名前で呼んでくれないか?」
真剣な眼差しが射抜く。
これには流石のフレンディスも何か感じるものがあった。
「……わかりました」
たった一言を発するだけで何かが変わる予感。それが良いのか悪いのか。
不安に押しつぶされそうになりながら、フレンディスも逃げない。
一つ深呼吸を挟みベルクを見つめる。重なり合う視線。
「……ベルクさん」
呼んだ瞬間、何かが弾けた。
最後の特大花火、割物・三重芯変化菊。四重の同心球を描く芸術品の三発同時開花。
辺り一面、光が降り注ぐ。
ベルクとフレンディス。
二人を繋ぐのは固く結ばれた手と――
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