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夏最後の一日

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夏最後の一日

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 太陽が完全に沈む少し前の涼しくなった夕方頃。
 イルミンスールのディオニウス三姉妹カフェ。

 先程入店した
「……」
「……」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)吸血鬼の少女 アイシャ(きゅうけつきのしょうじょ・あいしゃ)はメニューを開き、注文する品を選んでいた。
 長く掛かると思いきや
「暑いからソーダフロートにしよう。もう洒落たモノを頼むのに疲れちゃったから」
「私も詩穂と同じ物に。冷たい物で喉を潤したいですから」
 詩穂とアイシャはすぐに決め、注文した。

 飲み物が来るまでの間、
「……やっぱりチェーン店よりこういうお店の方が落ち着くなぁ」
 詩穂は店内を見渡しながらどこか安堵したような様子で言葉を洩らした。
「……内装も雰囲気も素敵ですものね。今日は誘ってくれてありがとうございます」
 アイシャも軽く周囲を見回し店内を目で楽しんでから誘ってくれた詩穂に礼を言った。
「どういたしましてというかお礼を言うのはこっちかな(アイシャちゃんと一緒の時間を過ごせるんだから)」
 詩穂は口元をゆるめて少しだけおどけたように礼を言った。
 そうして和んでいる内に注文した飲み物が運ばれて来た。

 手元にソーダフロートが置かれると
「……冷たくておいしい」
 詩穂は一息飲み、癒しの冷たさを得て表情を和ませた。
「えぇ」
 アイシャもソーダフロートを飲みながらこくりと頷いた。
 それから二人はゆっくりとソーダフロートとこの静かな時間を楽しむ。

「……(普通の生活をはじめていきなり高い料理とか遊園地とか映画館っていうのも重いからこういうお店にしたけど……楽しんでくれているみたいでよかった)」
 詩穂は飲みながらちらりとソーダフロートを飲む向かいのアイシャを見やり、満足している様子に安堵。
 そして
「……今日で夏が終わるねぇ」
 何気なく深い茜色の空が映る窓を見る詩穂。
「えぇ、季節の巡りは早いものですね」
 アイシャも窓の外の風景を見やり波瀾万丈なこれまでの人生を振り返っていた。
「……(これまで色々あったなぁ。アイシャちゃんも元気になってこれからもきっと色々あって変わり続けていくだろうからどんな生活をしているのとかいう会話は全く意味が無いかもしれない)」
 詩穂はアイシャを気遣い、それは会話にまで及び、言葉少なであった。
「……(何よりアイシャちゃんが元気なのが一番)」
 アイシャが元気な姿で自分の目の前にいる事はとても嬉しいものであった。
「……(伝えるべき言葉も想いも伝えた。あとは信じて待つだけ)」
 想いを寄せるアイシャにかけるべき言葉も伝えたため詩穂は何か訊ねられるまでは自分の話は控えるように決めた。

 一方。
「……(今日はあまり話してくれないけれど……何かあったのでしょうか)」
 アイシャはいつもとどこか様子が違う詩穂に胸中で戸惑い詩穂の顔を見ると
「……秋が近いのかなぁ。夕暮れがどこか寂しげだね」
 詩穂は変わらぬ笑顔で何気ない自分とは関連せぬ話を口にする。
「そうですね。でも楽しみです。新たな人生での初めての秋ですもの(見た感じはいつもと同じですから……きっと心の中で何か思い悩む事があるのかもしれませんね……だからとはいえ……)」
 アイシャは何気なく返答するもやっぱり様子が違うのが気になるのかあれこれ思考を巡らすも考えが及ばないでいた。違うと感じてもそれはぱっと見て分かる外見ではないため。
「……(訊ねるにしても……もし気を悪くさせたり傷付けたりしてしまったら)」
 アイシャは詩穂を気遣うも自分が口を出して悪い方向に向かってしまったらと思い訊ねる言葉が出ないでいた。
 そのため口から言葉として出るのは
「……詩穂、今日は誘ってくれてありがとうございます」
 というお礼の言葉であった。
 端から見れば楽しそうに見えるが胸中ではそれぞれ違っていた。
 一方は相手を思い気遣い、もう一方も相手を思いやり心配を抱いていた。
 そんな二人の上にも時間は平等に流れるのだった。