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湖の家へいらっしゃい

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湖の家へいらっしゃい

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「ツンデレ……あー……待って、なんだろ」
 キアラへの萌えの感情について美羽の質問に、アレクは頭をひねる。――因にミリツァについては『妹萌え』しか答えて貰えなかった。なんだか違うようなきもするが、兄の目線からするとそれしかないのだろう。
「男以外にはツンて程でもないし……何萌えだあれ」
「女の子の私から見ても、今回のミリツァとキアラの萌え度が高いことは、よくわかるんだけど……」
「まあ一種のギャップ萌えだよな」
「ねぇねぇアレク。私は? ジゼルさんは萌えですか?」
「萌えてるよーちゃんと」
 Tシャツの袖を引っ張るジゼルにアレクが適当に答えるのに、美羽は興味深そうに前へ出る。
「ジゼルは何萌え?」
「……説明に一時間くらい掛かるけどいい?」
 美羽がうっと声を詰まらせると、ジゼルは頬を染めながら
「一時間かかるんじゃ、私一回お店に戻らなきゃ」と上機嫌でぱたぱたビーチを駆けて行く。
「じゃあ俺も行く」
 そう言ってアレクは後を追って行ってしまった。
「ねぇ……コハク…………私は……その?」
 意味ありげな瞳で見つめてくる美羽に、コハクは次に続く言葉を思い浮かべて苦笑するのだった。



「おめでとう」
 なぎ子がパラソルの下へ出迎えた京子が、そう言って渡したのは桜の花をモチーフにしたペンダントだった。
(先走っちゃったけど……)
 なぎ子とカガチのすっきりした表情を見れば、きっとカガチからは良い返事が貰えたのだろうと京子は推測する。
 色々と聞くのは、やはりなぎ子が自分から話したくなってからで良いだろう。
「ありがとう、今つけていい?」
 なぎ子は断ってから貰ったばかりのペンダントをつけてみる。
 白い肌に上品で清楚な薄いピンク色が映えていた。見立てた京子からも笑みがこぼれる。
「選ぶとき、なぎ子ちゃんにはちょっと大人っぽいかなって思ったけど……
 うん、似合うと思うよ!」



 一日騒がしかったビーチも、傾きかけた太陽に静かに夜を迎える準備が始まる。夜間営業する店はそのままに、あおぞらのような店舗は早くも店仕舞を始めていた。
 エレノアが片付けた椅子やテーブルに残されて、カウンターに備え付けられた席で一人酒とつまみを突ついていた左之助はアレク達が戻って来たのに気付いて杯を上げる。
「……まぁ一杯どうだ」

 アレクとハインリヒと壮太、それに羽純も片付けの手を言ったん止めて、カウンターに横並びになっていた。
「それじゃああおぞら名物絶品スイーツでも頂こうか?」
 羽純が冗談めかして言うと、ジゼルはにっこり笑って
「さーびすです」とフルーツのトッピングがのったかき氷カウンターに並べる。
「あー羽純くんずるいー! 私も食べたいよー!」
 歌菜が裏から顔を出して来たのに、ジゼルそちらへも笑顔を向けた。
「そこ終わったら、歌菜も一緒に上がっちゃって。壮太も手伝ってくれたし、片付けるところもう殆ど無いから大丈夫よ。
 羽純はお酒もいいよー、左之助と一緒に飲んじゃえ飲んじゃえ!」
 店主のジゼルが勧めてくるので、テーブルには新たに二つのグラスが追加された。
「こんな服のままなので、僕たちは申し訳ないですが……」
 ハインリヒがペットボトルのジュースを片手に苦笑するのに、左之助は白い歯を見せて仕方ないと首を振る。
 そうして一口二口と運びながら、彼はビーチをぼんやり眺めていた。
 黒い瞳に映っているのは、弟分の真が、京子と協力しながらビーチパラソルを畳む姿だ。
「真の奴、十分強くなった
 京子も……色々乗り越えてきてる
 兄貴としては嬉しいが淋しくもあるもんだ
 まぁ……手合せで負ける気はねぇけどな」
 独白めいた調子に、カウンターに座る者達は口を挟まず左之助の言葉を聞いていた。彼が言ったん口を閉じれば、ジゼルが片付けをする音だけが、店内に静かに響く。
「情勢が安定したら旅に出ようと思う
 行先は決めてない
 世界を龍で巡って力比べもいいかもしれねぇ
 先の話ではあるけどな」
 左之助の横顔が赤く染まっているのは酒の所為か、落ち掛けの太陽の所為か。
 それとも新たな世界へ挑む事への高揚か。彼の表情に、聞き手も親しい人を見送る寂しさを明かす事はなかった。

 そして真っ暗になった店内にフレンディスが灯りをともすと、左之助はふっと苦笑するような笑顔で席を立つ。そろそろ真たちへ戻らなければならない。
「今の話……内緒で頼むぞ」