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リアクション
4年前、2020年。地球、朝。
「……はあぁ」
一日の始まりで爽やかな朝というのにどこからか洩れる溜息。
その溜息の主は
「……何だかなぁ」
紫月 唯斗(しづき・ゆいと)であった。現在とは違い極々普通の会社員。
「……はぁあ」
出勤途中の唯斗は自分と同じく仕事場へと急ぐ他の人々を見やり再び溜息。
「……(衣食住に不自由してはいないが、物足りないんだよなぁ)」
唯斗は胸中でぼやく。生活自体は不自由ではないし不満を口にする程ではないが、人間それだけでは満たされやしない。
「……(昨日も今日も明日も同じ一日の繰り返し……俺も大勢の一人……モブに過ぎないよな)」
唯斗は自分も行き交う多くの通行人の一人だと感じ、繰り返す日常に物足りなさを感じていた。心がすっかり渇いていたのだ。
時にニュースや新聞で成功した誰かの話を聞くと
「……(……いっぺんに生活が変わったろうなぁ……俺はこいつのように特に何かに秀でている訳じゃないから無理だな……地味だし……死ぬまで同じ毎日を繰り返すんだろうな)」
唯斗は自分と生活が一変した成功者達を比べてますます物足りなさに拍車をかける。
だからと言って繰り返す毎日を覆す気概はなくまたいつもの足りない日々を過ごす。
そんなある日の帰宅途中。
「……何だこれ」
唯斗は派手な表紙に目が引かれとある雑誌を手に取った。
その雑誌とは
「……パラミタの空京でろくりんピック開催か。面白い事があるんだな」
パラミタ大陸を取り扱った雑誌だった。
唯斗は思わずそのままパラパラと捲り、
「……パラミタが出現したのは2009年……もう11年前か……」
パラミタ出現から現在までの歩みまでを読んだり
「……パラミタではこんな生活が待ってるのか」
ろくりんピックの特集や生活情報など取り上げられているパラミタに関わるあらゆる情報を引き込まれるように読んだ。
そして読み終わりぱたりと雑誌を閉じた時には
「……すげぇな。パラミタかぁ」
唯斗のテンションが何気に上がった。いつもの退屈な毎日を変えるかもしれない情報を知ったから。
しかし、
「……パートナーもツテもないしなぁ」
唯斗は雑誌を元に戻しつつ溜息を吐いた。結局知った所で自分の生活は変わらないと。
この日から唯斗の日々に一動作加わった。
それは
「……はぁ、おもしれぇ事が起きると思ったのになぁ。望む場所が分かっているのに届かない、どうしようもないってのはキツイもんだなぁ」
空を見上げる事だった。様々な情報が伝えられるパラミタ大陸に想いを馳せながら。
しばらくして
「……はぁ」
唯斗は押し寄せる日常を思い出して溜息を吐いて空を見上げるのをやめて退屈な生活に戻る。
「……こんな生活……面白い事起きねぇかな」
唯斗はすっかい見上げるだけの日々に不満ばかりが募り腐ってしまい、面白い事が起きないかと思う日々。
パラミタ大陸を知ってから半年後、自室。
「……知ってから半年かぁ」
唯斗はいつものように窓から空を見上げここからでは見えないパラミタに思いを馳せていた。
「……いつか俺も行くんだ」
唯斗がそうつぶやき見上げていた時、どこからかともなく自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「……俺の名前……俺を呼んでいるのか?」
唯斗は思わず応えた。
その瞬間、
「……ここは」
唯斗を取り巻く景色は様変わりし、気付いたら
「……パラミタか」
切望して止まなかった場所に立っていた。
そして目の前には
「……」
眠る女性がいた。
この時が唯斗の『始まり』だった。
そして、現在、2024年。パラミタの自室。
「……あの時、眠るエクスに出会った瞬間俺の世界は変わったんだよな」
窓の外を見上げながらこれまでの日々を振り返る唯斗。
現在、唯斗が見上げるのは地球の空ではなくパラミタの空であった。
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