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澄み渡る青空

 2025年3月。
 ツァンダの蒼空学園で、高等部の卒業式が行われた。
 式典を終えた後、卒業生たちはゆっくりと校庭を歩いていた。
 蒼空学園の大学に進学する子もいれば、空京大学やニルヴァーナに進学する子も、地球や故郷に帰る子もいる。
 就職する者も、旅に出る者も。進路が決まっていない者も――。
 当然のように毎日顔を合わせていた学友たちとも、明日からはもう会わなくなる。
 こんな風に、校庭を歩くことも、もうなくなるのだ。
 泣いている子もいた。
 笑っている子もいた。
 どんな気持ちを抱いている者にとっても、今日が一つの区切り。高校生としての自分が終わる日であることは変わりなかった。
「……やっぱり、しんみりしちゃうね」
 布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)は、パートナーのエレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)に寂しげな笑みを見せた。
 進路については随分と迷ったけれど、一度日本に戻って、東京の大学に行くことに決めていた。
 蒼空学園の大学部への進学も考えたが、両親のいる日本をこれ以上長く離れているわけにもいかないと思い至ったのだ。
 一度帰って、安心させてあげたいから。
 世界が危機に陥っていた頃は特に、凄く心配しただろう。
 佳奈子をパラミタに行かせたことを、後悔したのではないかと思う。
「短期留学の受け入れがあるっていうし、近いうちにまた蒼学に戻ってこれたらいいなあ」
 言って、佳奈子の校舎を見た。
 毎日何も感じずに当たり前に見ていた学び舎。当たり前の姿で、そこに当然のように存在している。
 今日を最後に、しばらく見れなくなる景色だ。
「お別れの時間、近づいてきたわね……。やっぱり寂しいわ」
 エレノアも寂しそうな顔をする。
 ヴァルキリーの彼女は、このまま蒼空学園に残り、大学部に進学する予定だった。
「短期でもこっちに来てくれたら、まだまだ一緒に色々出来るかもしれないわね」
「うん。これからはいつでも会えるわけじゃないし、一緒に何かを行うのも難しくなるけれど……。パートナーの契約は永遠だし、離れても大事な友達には違いないから。連絡取り合っていけたら嬉しいな」
「もちろんよ。遠く離れていても、私たちの絆は消えることがないから」
 明るい太陽の光に照らされながら、2人は目を合せた。
 ふわりと吹いた風が、2人の髪をそっと撫でて、春の花の香りを運んでくれる。
 去年も一昨年も、この香りの中、2人はここを通った。
 そんな日常の姿が、二人の脳裏に浮かびあがっていく。
 昨日まで、普通のことだったのに、なんだか懐かしいと佳奈子は感じてしまう。
「国も距離も離れるけれど、必要なときはパートナー通話で話ができるし、ネットでも連絡ができる。それに日本とシャンバラは新幹線で移動できるから、そんなに距離は感じてないんだ」
 毎日顔を合わせることは出来なくても、姿を見る事は出来なくても。
 パートナー同士の2人は、互いの存在を感じていられる。
「それに、ここから見る空と、日本から見る空は同じだから――」
 佳奈子とエレノアは空を見上げた。
 そこには、どこまでも広がる雲一つない青空があった。
「この蒼学の校庭から、大パノラマのこの青空を見上げることは当分できないけど、またエレノアと一緒に見られるといいよね」
「ええ。佳奈子と一緒に行動したこの数年間、とても楽しかった。
 私も日本に遊びにいくわ」
 同時に、2人は視線を互いへと戻した。
 自分を見る相手の顔には、空と同じように澄み渡っていた。澄み渡る笑顔があった。
「エレノア、一緒に活動できて、とても楽しかったよ。また、これからもヨロシク」
「本当にお互い、これからもよろしくね」
 どちらからともなく、握手をして。
 校門へと向かい、最後にまた学園と空を見て、互いの笑顔を見て。
 それぞれの道を歩き始めた――。