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女王危篤──シャンバラの決断

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女王危篤──シャンバラの決断
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リアクション



ブリーフィング

 アムリアナ女王は決断した。
 よせられたメッセージを読み、聞きながら、彼女は答えを出した。
「私たちの未来は、あなた方に託しましょう」

 決断を受けて、使節団の動きがあわただしくなる。
 ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)が興味津々といった様子で、砕音に聞いた。
「ねぇ先生、想いを使った治療ってどうやるの? 今、丁度プリーストの修行してるから、ボクも何か手伝える事ないかな?」
 砕音は考えつつ、ファルをなでた。
「そうだな……さすがに少しは説明しておかないと、動きづらいよな」
 砕音は治療に携わる者を集め、これから行なう事を簡単に説明した。

 アムリアナ女王の魂は、女王の力がアイシャに移りつつある事で、崩壊の危機にある。このままアイシャが戴冠式を済ませて女王になれば、アムリアナは死んでしまうだろう。
 だがアイシャが女王になる前、つまり女王の力を完全に移動しきる前に、アムリアナの魂を、女王の力を切り分けてしまえば、死亡は防ぐことができる。
 なおパートナー契約でつながる部分は、女王の力側に残す事で、代王への影響を避ける。女王の力がアイシャに移れば、代王はアイシャのパートナーとなるだろう。
 メッセージには、ふたつの役割があり、ひとつは魂全体の力を増して切り離しに耐えられるようにする為の「輸血」である。
 もうひとつは、彼女を個人的に知る者のメッセージを照射する事で、アムリアナ=ジークリンデの人格を巨大な魂の中の一箇所に集める効果が見込める事だ。
 本来ならば難しい事だ。しかしアムリアナは神子による封印を受けて力の大半を封じられていながら、ジークリンデとして蘇り、活動していた。神子の封印によって封じられていた女王の力を切り離して、「ジークリンデ」の中に彼女の人格を残す事ができそうなのだ。これが砕音が言った「キリトリ線」である。
 女王の力から切り離された魂は、現世パラミタからもとあった場所に戻ろうとするだろう。つまりパラミタ人にとっての冥界である地球へ。ここで黄泉之防人であるヒダカが魂を送る事で、帝国による呪縛から逃れる事ができる。
 ただ地球に戻ったアムリアナは、契約前の見えない状態となり、また他の復活者と同様にしばらくは記憶を失っているだろう。

 砕音は沈んだ表情で言う。
「彼女の記憶がいつ、どこまで戻るかは周り次第だな。
 これは復活組の意見も聞きたいところだ」
 するとファルが、しゅたっと手を上げて言う。
「ボク、前よりも昔の事少し思い出したんだよ。
 ボク自身は女王様に会った事はあんまりなかったけど……
 お母さんが女王様の友達で、色んなお話を聞いてたんだ。あの頃のボクはもっと落ち着いた感じだったけど。それでも、女王様に会った時は凄くドキドキした。綺麗で神々しくて、優しそうで……」
 なんだか話がそれてきたので、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が「そのくらいにしておけ」とファルを諌める。
 直前に女王に照射するメッセージや、アムリアナ復活後の周囲のケアが大事だという事で話はまとまった。
「あ、あの……」
 東シャンバラ・ロイヤルガード神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)が、おずおずと手を上げて砕音に質問する。
「女王陛下の魂は、どのような手段で切るんですか?」
 心配そうな有栖に、砕音は「これだ」と何かを差し出す仕草をする。
 彼の手の上に、黒く細い炎のような揺らめきが現れた。
 ティー・ティー(てぃー・てぃー)がハッとして、そこに近づく。
「これは……闇龍の力?!」
 砕音は意外そうにティーを見る。
「よく分かったな。これは闇龍の力、それも中心の真空部分だ。この無の刃でなら……ここからが重要なんだがアムリアナ女王本人が認めているから、切る事ができる。
 施術の時には、実体化させずに魔導空間から切る。デカい光の玉の一部を、黒い糸で結んで切るようなイメージかな」
 有栖はまだ心配そうに尋ねる。
「女王様に危険ではないのですか?」
「こう見えて、俺は闇龍の司祭だからな。普通のプリーストが力を使うのと変わらない」
 ティーは砕音を見つめる。
「でも……危険なのは砕音さんじゃないですか? その技を使うには……とてもエネルギーがいると思います」
 砕音は「あれ?」と意外そうな表情になるが、すぐにほほ笑んだ。
「だからSPリチャージなんかでフォローしてくれると助かる」


 ブリーフィングが終わって、集まった者はそれぞれの持ち場や部屋に解散していく。
 ティーは改めて、砕音に頭を下げた。
「陛下の事をよろしくお願いします」
「いや、こっちこそ施術への協力をお願いする方だ」
 彼の笑顔を見て、ティーは思わずつぶやいた。
「もし、五千年前に鉄心や、先生みたいな人たちが居てくれたら……
 こんな風になって、言っても仕方ないことだとは分かっているんですけど……どうすれば良いのか分からなくなって」
 弱気になっているティーに、砕音はほほ笑みかける。
「大丈夫だ。これから皆にできる事をしていけばいい」
 ティーはこくりとうなずいた。隣ではイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が眠そうにしている。
 ティーはそっと女王に想いを馳せた。
(本当は五千年前に全部終わっていた筈なのに、陛下はずっと諦めてなかったんですよね。もう一度……と言うのは望みすぎでしょうか?
 私にはどんな罰やお叱りがあっても良いから、帰ってきて欲しいです。
 理子様と一緒に、笑っていて欲しいです……)