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リアクション
調査隊を救出せよ
調査隊の救出部隊のメンバーたち、大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)、神崎 輝(かんざき・ひかる)らは遺跡入り口を警護するイコン部隊に護衛され、開口部から中に入った。カルキノスが入ってすぐのエリアに番人として待機し、ちょっとした待機所のようなものも作り上げてある。
「ジェイダス。アクリトはんが遺跡の調査結果を気にしてはる。
……敵を押さえこみつつ、調査員をかばい、それなりの成果をもって脱出せぇ、っちゅうこっちゃな。
調査員なんて民間人がほとんどやろし、キツイこと要求しやはるわ。
けど、イエニチェリに選んでくれはった人の目ぇが曇っとった、と噂させるのも申しわけない。
防御機構がニルヴァーナの機晶技術とはもひとつ厄介やなぁ」
フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)がそれを聞いてぼやく。
「調査隊の救出と可能な限り最大の成果を持ち帰るように?
……人員も時間もない。どっかで妥協点を見つけないとまずいだろう。
最悪二兎を追って敵の攻撃にさらされた挙句調査結果だけでなく命まで落としてしまう事になりかねない」
「せやな。けどまあ、ぎりぎりまでやるしかないやろ」
エヴァルトが頷く。
「何を得ても、死んだら元も子もないけど、調査隊が見つけたものは、少なからず技術発展の役に立つはず。
たとえ即戦力にはならずとも、これから激化するであろう戦いに不可欠ではあるに違いない。
俺はあまり色々考えんのは苦手なんで、仕掛けは、技術系の人に任せて、機晶ロボを撃破する」
輝がエヴァルトに向き直った。
「周りへの被害を出来る限り抑えるために、防衛システムとかの邪魔者をボクの方へ引き付けますよ」
輝のパートナー、一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)も言った。
「私もマスターと一緒に、邪魔な防衛システムとかをぶっ壊します。
私たちの邪魔をする奴は、皆全力で叩き潰してやります!」
「おう、そうしてくれると有難い……えっとマスターって?」
「ああ。瑞樹はボクのことをそう呼んでいるんですよ。
個人的には遺跡の中に何があるのかとかもちょっと気になるけど……今はとにかく人命優先で行きませんとね」
エヴァルトの問いに輝が答えた。
「なるほど」
シエル・セアーズ(しえる・せあーず)はうーん、と考え込んでいたが、禁猟区をお守りの形にして輝に手渡しながら言った。
「私は怪我人の救護メインで動こうかな〜。余裕あれば瑞樹ちゃんの手伝いもしたいけど……。
かなり忙しくなりそうだし、私もみんなのために精一杯頑張るよー!」
レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)、讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)の二人は黙って泰輔の後ろに控えていた。
「まずは僕ら4人が先頭を行く。ともかく調査隊を見つけださなあかんしな」
「隔壁も降りているということですし、そういったシステムのほうは任せて」
輝が言った。エヴァルトがシステム無効化時の護衛も兼ねる形でと、打ち合わせで決めた。
「ともかく少人数ですし、チームワークをきっちりとって行きましょう」
フランツが言い、全員が頷いた。
調査隊の位置はアクリトから随時送られてきている。輝は銃型HCでマッピングとあわせて、保護目標の座標を打ち込んだ。
「これであとは送信されてくる位置情報が自動更新されるはず」
「ん〜。悠長に構えてられへんから、ここは最短距離ルートで行くしかないやろな」
泰助が言い、武器を構える。遺跡の奥深くに居た調査隊は、大分上のほうまできているようだ。だが元は普通の通路だった箇所に、いくつもの厚い隔壁が下り、竹の節のようなことになっている。全員で次々と隔壁を破り――主にフランツのグレネードランチャーがその役を引き受けた――、わき道からの少数の機晶ロボを排斥しながら調査隊のいる場までようやく到達した。
「おーい、皆無事か〜?」
エヴァルトが呼びかける。
「全員無事よ。よく間に合ってくれた」
警護に当たっていたルカルカが言う。
「しかし……ここまでの間の機晶ロボ、少なかったよな」
エヴァルトが言う。
「上層には護るべきものはそうないからでしょう。巡回用のものがいただけではないかな。
下層へ行くほど、数は多いと思いますよ」
「……そういうことか。つまり後方から追い上げてきている、と」
「調査隊の後方の護衛に回りましょう」
レイチェルはそう言って全員が殿へと回る。
今までの数回の衝突で、泰輔は機晶技術と先端テクノロジー、博識を用いて機晶ロボの分析を行っていた。やはりもともとはここに防御用に配備されているもので、警告機能と麻痺〜殺傷レベルまでの段階別のビームが主な武器のようだ。最も現在は全て殺傷用レベルに設定されているようだが。
「一体くらいは、こいつそのものが遺跡の秘密のひとつである可能性もあるから、無力化して持っていきたいかなぁ?
動力源である機晶石を取り外せばいけるかなぁ?」
泰助が呟く。輝が首を振る。
「体内のコアとして埋め込まれていますからね。それ単体で取り出すには本体の破壊しかないかと」
「せやなぁ」
周囲を警戒していたシエルが叫んだ。
「後ろから機晶ロボの一群がきてる!」
輝がまず動いた。インビンシブル、龍鱗化で防御を固め、オートガードとオートバリアで味方の防御力アップをはかる。瑞樹が同時にクライ・ハヴォックで味方全体強化。輝がさらに熱狂で味方サポートも抜け目なく行い、プロボーグで機晶ロボの注意をを出来るだけ多く自分に向けさせる。自らはレゾナントアームズを発動させ、高らかな歌声を響かせながら魔槍プラーナで応戦する。瑞樹は輝とともに攻撃はブレイドガードできっちりと防御しながら魔導剣でスタンクラッシュ、一刀両断出機晶ロボを潰してゆく。さすがに数が多いと見たシエルが万一を考えて輝を護りの翼で包み込む。調査隊の中から魔杖エスポワールを構え、氷結雷電魔法がいつでも撃てる体性で退却しながら後方の戦況をじっと見つめている。
顕仁が敵の間合いに入りきった瞬間、泰輔が召喚で顕仁を敵の後ろにテレポートさせる。
「もとより、出来が良い木偶にすぎぬもの。モノを破壊する事にはなんの躊躇いもないわ!」
顕仁がブーストソードを手に機晶ロボをトリッキーな動きを取り入れたヒットアンドアウェイの戦法で切り捨てる。
「壊れよ、この木偶が!!」
レイチェルは調査隊に近い位置で奥のほうの敵をレーザー銃で狙い撃ちしていたが、距離が迫ると光条兵器を抜き放った。
「泰輔さんと顕仁さんを、そうそう抜けてくるとも思いませんが、守りは厚いに越した事はありません。
最終防御ラインは、護ります。
それにしても……私達4人のハーモニー……それを解する感性の持ち主が相手ではないのが残念です」
フランツもレイチェルの後方……遺跡の内部位置関係で言えば調査隊側であるから前方に位置し、調査員たちの後方から隊員たちに出口方向へ進むよう指示を出していた。
「ここは僕たちが食い止めますから、急いでください」
フランツは突入して来たときの地形を常に念頭に置き、敵の数と攻めてくる勢いや速度から、退路を計算して時間を逆算し、どの程度進ませればいいか計算しつつ退却指示を出している。顕仁らと並びエヴァルトはショットガンを撃ち込んでいた。
「高性能だからこそ、壊れる時はちょっとした要因で一気に壊れるものだ。中身が壊れりゃただの張りぼて!
お、ちと手ごわいな、一番いい弾をくれ……行くぜぇっ!」
独り言を言いながら散弾とスラッグ弾を使い分けながら着実にしとめていく。だがとにかく数が多い。
「少し下がって休め。代わろう。調査員も不安になってきているようだ、そちらも見てやってくれ」
別ルートから合流してきたクローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)がドックズオブウォーの兵団と親衛隊を的確に配置し、調査隊の後方に防御陣を敷く。同道してきた青葉 旭(あおば・あきら)と山野 にゃん子(やまの・にゃんこ)らもヒトガタの防衛を願い出ていた。
「助かります。交代で闘っていけば疲弊も防げますしね」
フランツの言葉にクローラは頷いた。
合流後すぐ、クローラはアクリトの元に出向き、護衛許可を願い出ていた。
「防衛システムのほか、テロリスト等の簒奪も警戒せねばならないでしょう。
万一のことを考えて俺の兵団と親衛隊にも守らせて良いでしょうか」
「もちろんだとも、この際護衛は多いほうがいい。現在最後尾で交戦中だ、援護を頼む」
「了解いたしました」
セリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)が防御陣を敷き終わり、戦況や撤退の様子を把握しようと周囲をモニタリングしているクローラに近づき、囁く。
「今遺跡が出現したのには意味があると思う。僕達に伝えたい事があるんじゃないかな」
「それはまたあとで考察すればいいが……しかし何故こちらが調査可能になった遺跡ばかりを狙ってくるのか……。
考えたくはないが内通者がいる。
あるいは何らかの形で機密が漏洩しているか……少しアクリトに聞いてみたいことがある。
セリオス、ヒトガタ周辺の警護を重点的に頼む」
「了解! 任せて」
今回の遺跡調査の収穫としては搬出が大変なヒトガタの周辺で、前線から少し下がった旭とにゃん子が目を光らせていた。旭もまた、クローラ同様今回の一連の襲撃に強い関心と疑念を持っていた。ヒトガタはとにかく十分気をつけて搬出したい大事な資料である。アクリトが直接搬出移動の指揮を執っていた。
「オレもヒトガタの警護を任された。とにかくこれは持って帰らないとな」
クローラはアクリトの傍に戻り、今までの遺跡調査に関する聞き取りを、アクリトの護衛を兼ねて行っていた。傍に旭もつき、周囲の調査員たちに不振なものはいないか様子を観察している、
「この遺跡調査ですが、誰か共通して指揮を執っていた人はいるのですか?」
クローラの問いに、アクリトは首を振った。
「全ての遺跡の調査の陣頭指揮は直接私が取っている。興味があったので、人任せにしたくなくてね」
旭が尋ねる。
「調査した遺跡のうち、破壊されていない遺跡ははまだあるのですか?
あるいは一度目の調査では破壊されずに二度目以降の調査の際に破壊されたとか……?」
「いや、最初の調査中に全て破壊されている。残念ながら襲撃を受けて生き残ったものもいない。
まさかそんなことがあるとも思わなかったので、特別護衛などもつけてはいなかった。
個々の調査については廃墟化した場所でもあったし、隠されていた場でもない。
各々チーフがいて、自由に調査を行わせていた。だが……今回優秀な調査員を大分亡くしてしまったな……
アクリトは表情を曇らせた。心から残念がっている様子だ。
(と、いうことは内通者のセンは考えにくいのだろうか……)
クローラも旭も一応事前に独自のルートで手に入れていた調査員名簿と個人データを付き合わせ、犯罪歴や思想関係でトラブルなどのあったものがいないか事前調査を行ってみていたが、結果はシロだった。
(となると……今現在この遺跡にいる人員の誰かか、あるいは通信を傍受されていてのことなのか……)
クローラは眉間にしわを寄せた。旭は腕組みをして当初立てていた仮説のひとつ、内通者がいたという仮説を破棄せざるを得ないと判断した。アクリトが陣頭指揮を執っていたなら彼がすべてを知る立場にはあるが、もし彼が犯人だとすればこの襲撃の只中に身をおくわけがない。相手の嘘や動揺、殺気などを感じる旭のカンも、アクリトは事実を述べていると告げていた。
(とすれば……仮説B……遺跡自体にトラップやスイッチがあり、何かを触る事で破壊指令が作動する可能性が大きいか。
だがもしそうなら……復活したインテグラルと遺跡との関係は一体……)
エヴァルトが呟く。
「なぁこいつらやインテグラルがおかしくなったの……大世界樹のせいだったりしないよな!?
まさかインテグラルの制御装置『王』を奪回した時になんかしたとかじゃないよな!?」
「それは無関係だな。もしそうなら彼らが最近まで完全に停止状態だった説明がつかない。
それと……いずれの遺跡も、こちらが調査に入るまで周囲にすらいなかったインテグラルたちが突然襲ってきている」
アクリトがアッサリと言った。
「……そうか」
皆の働きで襲ってきたロボットの一群はガラクタの山となった。レイチェルとシエルがけが人の有無を確かめている間、エヴァルトと泰助は破損したロボットのパーツや機晶石をいくつかサンプルとして持ち帰ることにし、後方に警戒をしながら壊れたロボットの山をあさった。シエルが魔法杖を構えたまま、機晶ロボのコアをいくつかトレイに入れたものを、ヒトガタとともに運ばれている資料類を収納したケースに入れた。
「泰輔さんがこれも持ち帰るんだって。渡されたの」
「さっきの機晶ロボのパーツ類だね」
セリオスが頷いた。
「左様。分析すれば何か解るやも知れぬと。此度のインテグラルの行動とも関わっておるのではというのでな」
顕仁が銀色の双眸を剣呑な感じに細める。
「なるほどね」
「何が手がかり……というのでもありませんが、これもこの遺跡に配備されていたもの。
どこにヒントがあるか解らない、というわけですね」
セリオスが考え深げに言って、アクリトを振り返った。アクリトも短く頷いてみせる。
「そうだ」
ヒトガタと調査団の護衛はかなりの人数が確保できた。そう広い通路ではないから、敵も一気に大量に襲ってはこられまい。クローラがカルキノスからもらってきた遺跡の判明エリアの地図データを見、フランツ、アクリトらと相談しながら最良と思われる通路を割り出して行く。
「大丈夫、必ず脱出できますよ。襲撃からは確実に護ります、脱出まであと少し、がんばりましょう!」
セリオスが明るく調査員たちに声をかけた。旭はにゃん子を呼んだ。
「どうだった?」
にゃん子は今の戦闘で、機晶ロボがヒトガタのほうを狙ってきていたのか、無作為に調査員を狙ってきていたのかを闘いながら観察していたのだ。
「どうも、ヒトガタを奪い返そう、っていう感じの動きに見えたよ。
こっちがヒトガタを収納しているコンテナに隠れると、撃ってこないし。
戦闘力のない調査員はコンテナのまわり配置して退却してもらうと安全なんじゃないかにゃ」
「それはなかなか重要な情報だな。よし、すぐに護衛メンバーにそのことを伝えよう。
ヒトガタ……連携して守る必要がますます高まりそうだ」
「あ、そうだ、ラミナの鞭をヒトガタを運ぶのにロープとして利用してもらったら、切れる心配もなくていいと思うのにゃ。」
「そうだな。それもあわせて伝えに行こう」
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