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はっぴーめりーくりすます。

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はっぴーめりーくりすます。
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リアクション



15.人形工房でプレゼント交換。


「初めまして、ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)です」
 ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)に連れられて人形工房を訪れたミレイユは、まずそうやってリンスとクロエに自己紹介をした。
「どうも」
 ――と素っ気ない一言で終わったのがリンスさんで、
「はじめましてミレイユおねぇちゃん! ゆっくりしていってね!」
 ――にこにこ笑顔なのが、クロエさん。
 前もってケイラに教えてもらっていた二人の名前と顔を一致させて、「よろしくお願いします」と丁寧に一礼。
「どんなお人形があるのか見たかったんだ〜♪」
 それから、うきうきと弾む声で人形の並んだ棚の前に立つ。
 動物のぬいぐるみや、リアルに作られた人形、マスコット人形。
「ふぁ〜、いっぱいかわいいのがあって癒されるねぇ〜」
 ケイラの手を引いて、同意を求めると。
「そうだね。あ、あの人形、誰かに似てない?」
 知り合いに似た人形を発見。
「ん〜? ……わかった! レン兄っぽい!」
「サングラスを外したらあんな感じなのかな?」
「どうだろね? 今度外してもらえないか聞いてみよっか?」
 ミレイユとケイラは、人形を見てくすくす笑う。
 他にも知り合いに似た人形はないものかと捜して回った。
 そんな中ミレイユの目を引いたのは、サンタ服を着た女の子のお人形。
「ミレイユさん?」
 立ち止まったミレイユに、ケイラが怪訝そうな声をかけてきた。
「このお人形、かわいいな〜って」
「サンタさんだ。可愛いね」
「ね。いいな〜いいな〜。どうしよ〜、買っちゃおうかな〜買っちゃおうかなぁ……」
 うんうん、悩む。人形なんて普段買わないし、それにそうぽんぽん買えるほどお安い品なわけもなく。
 手に取って、間近で見て、ああやっぱり可愛いなぁ、買いたいなぁ……という悩みは、
「ミレイユー! ドゥムカたんが可愛いよドゥムカたんが! ちょっとこっち来て一緒に写真撮ろうよ!」
 きゃぁきゃぁと楽しそうなルイーゼ・ホッパー(るいーぜ・ほっぱー)の呼び声に遮られた。
「え〜? どうしたの〜?」
 ――あとで、また取りに来よう。
 ひとまずはお人形を元の位置に戻し、ルイーゼの許へ向かう。


 ミレイユを静かに見守るシェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)を見て、ケイラは思いついた。
「ねえねえシェイドさん」
「? はい、なんでしょう?」
「ミレイユさんに、クリスマスプレゼントってことでさ。お人形贈ってみない?」
「ええ。何か贈ろうと思っていたんです。そうですね、お人形にしましょう」
 ――シェイドさんが、ミレイユさんの欲しがっていたものを選んだら、それってなんだか素敵だよね。
 なんて思って、こっそり後押し。
「……これほどあると、迷うなと思っていたのですが」
「? ですが?」
 過去形だ。
「先程、ミレイユがうんうん唸っていたので……これにすることにしました」
 穏やかに笑んだ彼が持っていたのは、まさにミレイユが買おうか悩んでいたもので。
 シェイドさんさすが、と内心で拍手。
「頼めばプレゼント用のラッピングもしてくれるみたいだよ」
「それはそれは。では早速、ラッピングして頂くことにしましょう」
 少しだけ、いつもより軽い足取りでリンスのところへ向かうシェイドを見送って。
「クロエさんクロエさん」
「なぁに?」
 ケーキを食べていたクロエの許へ。
「はい、クリスマスプレゼント」
 小さな、赤いポピーの髪留めをプレゼントし、
「みんながね、ほんのり甘酸っぱいんだー」
 好きな話題に、へらりと笑む。
 髪留めを着けてあげながら『甘酸っぱいみんな』を思い浮かべた。
 例えば、今のシェイドとミレイユの間柄だとか。
 ドゥムカとマラッタも、互いの自覚がないせいかぎこちないが、それもまた良い。
 ――そういえば、今日は珍しくマラッタさんが出掛けようって誘ってきたんだよなあ。
 何か進展があったのだろうか。
 それとも、するのだろうか。
「うん、可愛い。似合ってるよー」
 可愛く髪留めを着け終えて、正面からクロエを見てにっこり笑うと、
「あまずっぱいって、いちごみたいなの?」
 ショートケーキに飾られていたいちごをフォークで刺して、クロエは言った。
「うん、そんな感じ」
「いちご、すきよ!」
「自分も好き」
「じゃああげる」
 あーん、と差し出されたいちごをぱくりと食んで、甘酸っぱいいちごの味を楽しんだ。
 ――第三者は、こうやってその味を楽しむけど。
 当事者は、その甘酸っぱさをどう感じているのだろう?


 時は少し遡り。
「リンス、リンスっ!」
 ミレイユとケイラがお人形を見て楽しそうにしている時、ドヴォルザーク作曲 ピアノ三重奏曲第四番(どう゛ぉるざーくさっきょく・ぴあのとりおだいよんばんほたんちょう)――通称ドゥムカ――は、切羽詰まった声でリンスに詰め寄っていた。
「例のものを頼む……!」
 今のうち、なのだ。
 今しかない、ともいう。
 ――ケイラがミレイユ達と戯れている間でなければ、受け取れない……!
 それは、ハロウィンの時に頼んだぬいぐるみ。
「出来てるよ」
「誰にも言ってないだろうな?」
「もちろん」
 はい、と渡されたものは、
「……っ!」
 もふもふ、ふわふわ。
 抱くと暖かい、白いウサギのぬいぐるみ。
「いい仕事をするじゃないか」
「そりゃどうも」
 ――あの猫の子が『ボルトニャンスキー』だから、この子は『フリイェール』だな。
 まずは名前を付けて、今すぐにでも抱き締めて愛でたい情動を抑えていると。
「ところで、ドゥムカ」
「なんだ?」
「ナイフィードに全部見られてるけど、いいの?」
「な――!?」
 がばっ、と振り返ると、そこに居たのはマラッタ・ナイフィード(まらった・ないふぃーど)
「け、気配なく背後に立つな! そして私を見るな!」
「白いウサギか」
「いや、あの。これは……だな」
 口ごもる。
 もうマラッタには、この周りに隠しておきたい『可愛いもの好き』という一面がバレてしまっているから、取りつくろうような真似はしなくていいはずなのだけれど。
 ――くそ。なんで私は、こいつ相手にこんな……。
 きゅ、とぬいぐるみを抱き締めたその時、ぽんぽん、と頭を撫でられた。
「ドゥムカが素直になれないと言うなら……内緒にしておこう」
 一瞬、何を言われたのか把握しかねて、数秒後。それがぬいぐるみのことだと気付く。
 素直になれない。
 なぜかその一言だけ、はっとさせられた。
「二人だけの……ではないが。秘密の共有だな」
「マラッタよ。私は素直じゃないのか?」
「ああ。もう少し素直になれば、可愛いと思うぞ」
「なっ……!?」
 不意打ちで言われた言葉に戸惑っていると、マラッタがリンスに近付いて。
「お、おい?」
 薄紫の熊のぬいぐるみを、受け取っていた。
 ――なんでお前がぬいぐるみを買っているんだ。
「メリークリスマス」
 そしてその答えは、自分に向けられた。
「好きなら……それでいいのではないか? 隠す理由も、拒む理由も、ないだろう」
 渡され、首に黒いリボンを巻かれた熊のぬいぐるみを見て。
「……リボンを待居たら、名付けてやらねばならないだろう……」
 苦く、呟く。
 もちろん、嬉しいのだけれど。
 相手の言っていることが、的を得ていて。
 ――好きなものは、好きなんだから、それでいい。
 ――少しは、素直に……か。
 ぐるぐる、自分でもどんな感情なのかわからない想いが胸中渦巻く中、
「うむ……この子の名前は、グリンカだ」
 愛らしい熊に、名前をあげた。


 そして、そんなやり取りを見守っていたのがルイーザだ。
 ――ドゥムカたんがイケメンとキャッキャウフフしてる……!
 確か、名前はマラッタと言った。
 ぬいぐるみを渡す瞬間の二人。
 ――あ〜もう♪
 出て行って、ぎゅ〜っと抱き締めたくなる衝動を必死で堪え、代わりに手足をじたばたさせる。
 けれど、すぐに限界が訪れた。
 渡された後の、ドゥムカの表情が、また。
「〜〜っ♪♪ ミレイユー!」
 思わずパートナーの名を叫び、
「ドゥムカたんが可愛いよドゥムカたんが! ちょっとこっち来て! 一緒に写真撮ろうよ!」
 欲望の限り、騒いだ。
 もちろん、
「なっ……おいこらルイーゼ!? いつから見ていた!!」
「ドゥムカたんがイケメンとキャッキャウフフしてるとこから!」
「いつだそれは!? ええいくっつくなー!」
「ドゥムカたん可愛いよドゥムカたんー!
 って、あんまりぎゅってしてたらマラッタくんに申し訳ないよね。離れよう、でもぎゅっとしたい」
「な、マラッタは関係ないだろうっ!」
 関係無いならそんなに顔を赤くしなくてもいいじゃない。いや、大騒ぎしたりくっついたりしたせいもあるかもしれないけれど。
「ふふ〜んふ〜ん。そういう仲だったのね〜♪」
「どういう意味だっ!」
「そのまんま〜♪」
 ちょこちょことつつくようにからかって。
 からかいすぎてむすっとされたら、プレゼントに用意した、薄桃色の生地に芍薬の刺繍が入ったストールを巻いてやる。
「刺繍、頑張ってみたよ〜。デューイパパに教わったんだ〜」
「なんだと?」
「意外だった?」
「ああ、二つの意味でな。……ルイーゼ、ありがとう」
「ふふ、愛しのドゥムカたんのためなら〜♪」
 ルイーゼとドゥムカのやり取りを皮きりに、プレゼント交換が始まった。


「ミレイユさん、これ自分から」
 ケイラが、ワインレッドの擦りガラスで作った、白デイジーをモチーフにしたバレッタを手渡し、
「少し後ろ髪をまとめると大人っぽくなるよ」
 着用時のアドバイス。
「ありがとう! 着けてもいい?」
「もちろん」
 早速装着したミレイユが、「どうかな?」とその場で一回転。
 花のバレッタは、乳白金の髪に埋もれることなく存在感を出して輝く。
「似合う?」
「ええ、とてもよく似合ってます」
 優しげな笑みでシェイドに言われたのが嬉しかったのか、ミレイユはたちまちはにかんだ笑みを浮かべ。
「ケイラさん、ワタシもプレゼントあるの。これ」
 手渡したのは、青虎目石とヒマラヤ水晶の手作りブレスレット。
「ワタシお裁縫出来ないから、ブレスレットを作ってみたんだ。どうかなぁ?」
「わあ……綺麗、ありがとう!」
 こちらも早速腕に着けている。白い肌に青がきらりと良く映えた。
「マラッタさん。これ、私からです」
 そしてシェイドがマラッタに革張りのノートを渡す。
「料理に興味があるとケイラさんからお聞きしましたので、レシピのノートを作ってみました。絵はロレッタが色鉛筆で描いてくれたので見やすいと思います」
「たしかにこれは解りやすい。ありがとう、大切にする」
 一通り、プレゼントが行き渡ったところで。
「それから、ミレイユ」
「え?」
 シェイドが、ミレイユに声をかけた。
「メリークリスマス」
 それ以上は何も言わないで。
 静かに差し出される、プレゼント。
 ラッピングを解いてみると、そこにはミレイユが買うか悩んでいたお人形があって。
「これ!」
 頬を上気させて顔を上げるミレイユの頭を、シェイドは撫でる。
 来年もこうして過ごせたらいいと、思いつつ。
 だけれど、先の事を案じてしまってパーティ気分に水を差しても嫌だからと、口には出さず。
 ただ、静かに。
 幸せそうに、笑みながら。