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バレンタイン…雪が解け美しき花びら開く…

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リアクション


第7章 ドサクサに紛れてどうしちゃう?

「あたしにマジで悲鳴上げさせるマシンはないのかー!」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が物足りないと大声を上げる。
 いろんな絶叫アトラクションに乗ってみたが、彼女のストレス発散にはならなかった。
「(どれも普通の絶叫の方だったじゃないの・・・)」
 不満そうにしている彼女をセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は横目でちらりと見る。
 一般客が悲鳴を上げる中、2人は教導団で普段から厳しく激しい訓練をしているおかげで全然平気だ。
 しかしそれはただの普通バージョンだったことはセレアナのみぞ知る。
「かなり日が暮れてきたから、乗れるとしても後1つか2つね」
「えぇ〜っそんなぁ。あっ、まだ行ってないところがあったわ!」
 遊園地が終わらないうちに行こうとセレンフィリティはセレアナの手を握り、ゴンドラ・謎のアドベンチャーの乗り場へ走る。
「何よっ。全然進むの遅いじゃないのっ」
 思っていたのとまったく違い、ゴンドラはまったりと流れていく。
「―・・・ずいぶんとメルヘンな場所だわ」
 セレアナの方は退屈そうにため息をつき、草の上に咲いている花を睨むように見つめて呟いた。
「早く降りたいわ・・・。何よセレアナ、突っつかないでよ」
「えっ、何もしてないけど?」
「そんなはずはないじゃない!だってさっきから・・・。―・・・・・・っ!?」
 耳音でカサッと葉音が聞こえ、恐る恐る振り返ると肉食植物がニタリと笑っている。
 それを見たセレンフィリティは一瞬、動画を一時停止させたように固まってしまう。
「急に流れが速くなったわよ」
 表情に出さないもののセレアナは慌てて安全装置の縄をぎゅっと掴んだ。
「へぇ、これ結構スリルあるね」
 ゴンドラから落ちないようにセレンフィリティも握る。
「この流れに乗ってあれから逃げるってことかしら」
 余裕な態度を取っていると、岩だらけの川のゾーンに突入していく。
「ねえねえ、ちょっと。なにそれ、うわ、ちょっと・・・・・・キャー!!」
 岩だけでなく乗客を川に落とそうとする草の蔓が、鞭のように川を叩き水柱を立ち昇らせる。
 ゴンドラの漕ぎ手はオールを手に、ウォータージェット以上のスピードで眼前に迫る岩や蔓をかわす。
「これって時速190km超えてるんじゃないの!?しかもまだ後ろから何か来てるしっ」
「甘い香りに誘われて飛び込んだら、怪物の口の中ね」
 肉食植物の口から流れ出る唾液が花の蜜の香りを放ち、それを見据えたままセレアナはぼそっと呟いた。
「ていうかこのスピードなのに、1人につき縄1本ってどういうことなのよ!?」
「見て・・・水の中に何かいるわ」
「アマゾンの生き物がどうして泳いでるわけっ」
 静かに言うセレアナの声に水面を覗くと、ナマズのような生き物がうねうねと動き泳いでいる。
 小鳥がそれを狙って川に飛び込んだ瞬間、跡形もなく喰らいつくされてしまった。
「川の中にカンディルって、明らかにおかしいじゃないのーー!!(―・・・って相変わらず表情が変わってないわ)」
 セレンフィリティは腹の底から叫び、喉を破壊しそうな勢いで悲鳴を上げる。
 隣にいる鉄面皮の彼女を横目でちらりと見てそれじゃあつまらないと思い、気づかれないようにそっと傍へ寄る。
「ちょ、ちょっと!ドサクサに紛れてなにいきなり人の胸を触ったりしてるの!このセクハラ女!」
 水柱が立ち昇る衝撃に紛れ、突然触れてきたセレンフィリティに向かって怒鳴り散らす。
「いいじゃないの、あたしら夜毎愛し合ってる仲だし」
「やめてっ。世の子供たちが聞いちゃいけないNGワードよ!」
「でも、嘘はいけないわ。最後に出口を選択するんだっけ。そのまま真っ直ぐ進んで」
 怒るセレアナを他所に、3つの選択肢の中から真ん中を選ぶ。
「あのね、だからってこんなところで堂々と・・・・・・え?キャァァァァァァァァァ!!??」
「いやぁあぁああ、転落に近いじゃないのーっ!!」
 眼前に迫る滝を直視した2人は号泣し、互いにぎゅっと抱きつき合う。
 泣き叫ぶ彼女たちに対してゴンドラは無慈悲にも、高さ200mありそうな滝へ進んでいき直角に滑る。
 ゴンドラから降りる頃には乗った直後の余裕な表情を一変させ、彼女たちはずぶ濡れのレインコートの両端を掴み、全身から血の気が引いたようにぶるぶると震えている。
「あのまま川の中に落ちたらやばかったわ・・・」
 実際にその中に落下することはないが、そんな記憶は宇宙へ吹っ飛んでしまっている。
「(だんだん心が追い詰められていくような感じだったわね)」
 セレアナは彼女と自分の分のレインコートを従業員に返しながら心の中で呟いた。
 アトラクションを出た2人は、後1つどこに行こうかとマップを見ながら選ぶ。
「今度は大人しいやつにしよう。冷えてきたし、屋内がいいわね」
 暖かい場所に行こうと小人の館へ向かうと、門の傍に2人の小人がお菓子を作っているような置物がおいてある。
 中に入るとクッキーのような壁や、ストライプの飴っぽい柱があり、今にも甘い香りが漂ってきそうな雰囲気だ。
 ライトブルーの窓を覗くと、手の平サイズの小人がカカオ豆をオーブンでローストしている。
「あの出来たやつを食べられるのかしら?」
「まったく何言ってるのよ・・・。小人はソリットビジョンなんだからそれもそうなのよ」
「えぇ〜そんなぁ・・・」
 ただのソリットビジョンだと知ると、セレンフィリティはしょぼんとした顔をする。
「がっかりしなくても大丈夫よ。出口の近くでもらえるみたいだからね」
「よかった♪じゃあ早く行こう!」
 セレアナの手を握ると彼女は嬉しそうに走っていく。
「・・・・・・セレアナのあの時の顔、とてもかわいかったよ」
 セレンフィリティはカモミールが入ったカップで両手を温め、マシュマロのように柔らかいソファーに座っている彼女をちらっと見る。
「バカ・・・・・・悲鳴なんて上げてないわよ、あれは怒ってたんだから」
 ニヤつきながら言う彼女に、照れた顔を見せたら負けだと思ったセレアナは背を向ける。
 不機嫌そうな態度を取るものの、まんざらでもなかったが、いつもの鉄面皮の表情でぽつりと言う。
「あんな顔もできるなんて驚いたなぁ」
「それはさておき・・・。ふざけて川に落ちたら、ここでお茶なんで出来なかったわよね」
「うっ、それを言わないでっ」
「(まぁ、本物じゃないんだけど。教えないでおこうかしら)」
 記憶から恐怖がよみがえってしまったセレンフィリティの様子を見る。
 謎のアドベンチャーのアトラクションにいた生き物は、全てソリットビジョンだと分かっていない彼女に教えず黙っておくことにした。
 チョコでコーティングしたくるみ入りのバームクーヘンに、花の蜜をつけて食べつつ心の中でクスッと小悪魔な笑みを浮かべる。