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リアクション
第19章 手を繋いでいれば
気分転換にでもどうですかと、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)を、空京の散歩へ誘い出していた。
「今はホワイトデーのキャンペーン中みたいですね」
訪れた街は、若者達で賑わっていた。
「リア充どもめが」
アーデルハイトは少し不機嫌そうだ。
「リア充ですか……そういえば、この間はホワイトデーの事でリア充めー! と暴れてましたね」
「そうじゃったかの」
「お忘れということはないでしょう」
くすりと笑った後、ザカコはこう言葉を続ける。
「まぁ、ああゆう事をやっちゃう所も魅力ですけどね」
「おまえ……」
アーデルハイトはちらりとザカコに目を向ける。
「変わった奴じゃのう」
「そうでしょうか。素敵な人を見極める目は持っていると思いますよ」
人混みを避けて、公園の方へと2人は歩いていく。
散歩が目的なのだが……公園にも、沢山のカップルの姿があり、アーデルハイトが大きくため息をついた。
そして彼女がわずかに遠い目をしたことに、ザカコは敏感に気づいていた。
「あの暴れてらした時に沢山の人が大ババ様の所へ来るのをみて思ったんです」
「ん?」
「もっと大ババ様の側にいたい。支えになり、頼られる存在になりたい……と」
ザカコの声も顔も真剣で。
それが彼の本心であることが、良く解る。
「この気持ちが何なのかは良く分かりませんが、少なくとも自分は大ババ様の事をもっと知りたいですし、大ババ様にも自分の事を知って欲しいです」
「私は5000年以上生きているからのう。知るのは容易いことではないぞ?」
「全て知りたいという気持ちもありますけれど、ありのままの、今の大ババ様のことが一番知りたいですから」
「そうか……」
小さく答えた後、アーデルハイトは空に目を向けた。
何かを考えているようだった。
今のことか、過去のことか分からないけれど。
ザカコは彼女の前に出て、向かい合いながら言う。
「大ババ様が嫌でなければ、プライベートでは生徒でなく1人の男性として、また一緒に出歩いたりして頂けませんか」
「嫌ではないぞ。男性というか、友として出歩くのもよいじゃろうな」
その返答に、ザカコはほっと息をつく。
「では、プライベートの時はアーデルさん……と呼んでもいいですか」
「構わんぞ」
そう答えて、アーデルハイトは淡い笑みを見せた。
私生活のことや、友人達のことなど、身近なことを語り合った後。
ザカコは大感謝祭で賑わう街中に出ようとアーデルハイトを誘う。
「何だか小腹がすいてきましたね。色々美味しいお菓子もありそうですし、少し見に行きませんか?」
そして、アーデルハイトに手を差し出した。
「繋いでいきませんか? アーデルさんさえよろしければ、ですけれど」
「嫌というわけではないが……子供のお守りをする青年にしかみえんじゃろうな」
「そんなことはないですよ。パラミタには色々なカップルがいますから」
嫌ではないという言葉に、勇気を出して。
ザカコはアーデルハイトの手を掴んで握りしめた。
「こうして手を繋いでいれば、きっと周りの事なんて気になりませんよ」
「遠い昔……色々とあってな。今でも私は……。いや、たまにはこういうのもいいじゃろう。のう、ザカコ」
「……はい」
アーデルハイトの言葉の意味は、今はまだザカコには分からなかったけれど。
大きな力を持つ、小さな少女、アーデルハイトは、今は確かにザカコの隣にいた。
手を繋いで、一緒に歩いている。