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春は試練の雪だるま

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春は試練の雪だるま

リアクション

                              ☆


 鬼崎 朔の『雪だるま王国印のかき氷屋さん』を手伝っていたカメリアは、遊園地の中を歩き出した。
「それでは朔、儂はそろそろ行くぞ。他にも人助けが必要な者がおるかも知れんからの」
 そのカメリアを、微笑みと共に見送る朔。
「うん、後は私とウィンターで充分だ。ありがとうカメリア……喉が渇いたらまた寄ってくれ」
「うむ、またな」

「はっはっは、君がわんこの絵を描くことは、この俺には予想済みだったのです!!」
 と、クロセル・ラインツァートはシルクハットの中から子供が描いた絵と同じ絵を取り出して観客を驚かせている。
 実は描画のフラワシがシルクハットの中で一生懸命同じような絵を描いているだけなのだが、クロセルの巧みな話術と演出で観客は充分に盛り上がっている。
 その傍では、ルイ・フリードの『鉄パイプアート』も絶好調だ。
「いやー、ようやく皆さんが認識できる形になってきたのはいいんですが……誰も持ち帰ってくれませんねぇ」

 カメリアは、そんな様子を眺めながら歩いた。
 すると、前方から見知った顔の二人が走ってくるのを発見した。
「おお、お主ら――」
 それは、水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)天津 麻羅(あまつ・まら)である。二人はパートナー同士だが、どう見ても麻羅が緋雨から逃げているように見える。
 その後ろからは、困った様子のウィンターの分身がついて来ていた。
「ねー麻羅ぁー。いいって言ったじゃなーい」
「ええい、ついて来るでないわ!! 確かに言ったがいくらなんでもあれはおかしい!!」
「お、落ち着くでスノー。人助けはどうなるでスノー?」
 その三人に声をかけた。
「麻羅と緋雨ではないか、どうしたのじゃ?」
 カメリアの姿を確認した麻羅は、緋雨から逃れるようにカメリアの陰に隠れる。
「おお、紅椿。良いところにおった。お主、今日はこの雪だるま娘と共に人助けをしておるのじゃろ? わしを助けろ、緋雨がまたわしを着せ替え人形にしようとしておるのじゃ」
 すると、その様子を見た緋雨もカメリアに救援を要請した。
「あ、ずるーい。ねえカメリアさん、麻羅じゃなくて私を助けてよ。麻羅ったらこの間の偽者騒動以来、私の用意した服を着てくれないのよ。
 今日は遊園地に連れてきたら来てくれるって約束したのに……土壇場になって逃げ出すんだから!!」
 その両者の間でウィンターの分身はオロオロしていた。
「ど、どっちを助ければいいのでスノー? とても困ったでスノー、誰か私を助けて欲しいでスノー」
 とりあえず情報をまとめたカメリアは、背中の麻羅に言った。
「ふむ、話は分かったが……しかし麻羅。とりあえず『着る』と約束したのじゃから、まずは緋雨との約束を果たすのが筋であろう?」
 その一言を聞いた緋雨は、瞳を輝かせる。
「そう! さすがカメリアさん、約束はやっぱり守らなきゃね!!」
 カメリアの向こう側から手を伸ばしてくる緋雨に、麻羅は逃げ出した。
「き、きさま紅椿!! 裏切り者め、おぼえておれー!!」

 だが、カメリアは逃げ出す麻羅を見て、ウィンターに合図した。
「お、逃がすなウィンター!! 緋雨に雪だるマーを着せて麻羅を捕まえるのじゃ!!」
「りょ、了解でスノー!!」
 求められるまま、ウィンターは緋雨に雪だるマーを装着させ、一気に風の力を解放した。
「暴風のブーストでスノー!」
 すると、緋雨は目にも止まらぬ早さで麻羅に追いつき、そのまま麻羅を肩に担ぎ上げる。
「は、早い!!」
 そのまま、空いた片手でカメリアも担ぎ上げ、遊園地の中を爆走する緋雨だった。
「あれ?」
「ついでにカメリアさんもいらっしゃいな、二人とも背格好が似てるから、用意した服がぴったりなはずよー♪」
「わ、儂もかっ!? いや儂はそのー!! 麻羅だけで充分じゃろーっ!! って麻羅、着物を掴むな!!」
「こうなれば紅椿にも付き合ってもらう、逃がしはせんぞーっ!!」
「ま、待って欲しいでスノー!!」
 まさに風のように駆け抜けていく緋雨。その後をウィンターーがぽてぽてと追いかけるのだった。


「おっと、何だ今の? すげえ風だな」
 と、レミ・フラットパインから逃れた鈴木 周は呟いた。どうやらドサクサでウィンターとはぐれてしまったらしい。
「うーん、とは言え、下手に戻るとレミに見つかっちまうし……まあ、少し間をおいてから探すとするか」
 レミの姿はとりあえず近くには見えない。とすれば、周の取るべき行動は一つしかなかった。

 ナンパである。

「よぉ、そこのかっこいいお嬢ちゃん、俺と一緒に遊ばない……って子持ちだった?」
 話かけられたのは木之本 瑠璃(きのもと・るり)。傍らにウィンターの分身を連れた彼女は、3〜4歳くらいの男の子と女の子二人によじ登られて大変なことになっていた。
「し、失礼な!! 我輩はまだそんな年ではないのだ!!」
 瑠璃もまた今日オープンの遊園地にパートナーの相田 なぶら(あいだ・なぶら)と共に遊びに来ていた。
 そこでウィンターの分身に人助けを頼まれ、地道な奉仕活動をしていたのである。
 ちなみに、いまは迷子の親探し。迷子センターで呼び出しをかけてもらってはいるが、まだ連絡がつかないのでとりあえず退屈しないように負達の迷子の相手をしているところなのだ。
 迷子センターに親が来たら、携帯に連絡が来ることになっている。
「あ、コラ髪を引っ張ってはいけないのだ、とても痛いのだぞ!!」
 瑠璃は子供の相手は苦手だ。
「よっしゃー、るり山をせいふくしたぜーっ!!」
 元気な男の子は、瑠璃の束ねられたロングヘアーを引っ張って瑠璃の肩口に乗っかっている。
「おにーちゃーん、わたしもー!!」
 どうやら二人は兄妹らしい。妹も瑠璃に登りたがって半ベソをかいている。
「ああ、泣くでない。親に会えぬ境遇は我輩も同じなのだ。だが、いま少し待てば親御殿もやって来てくれるのだ、だから心配するな!!
 そして痛い、痛いのだ!!」
 瑠璃は今にも泣き出しそうな女の子をあやしつつ、頭の上の男の子を振り落とした。

「……なんか忙しそうだな」
 呟いた周のさらに後方では、その瑠璃と子供達をなぶらが眺めている。周は、なぶらを振り向いて話しかけた。
「あんた、あの子のパートナーだろ? 手伝わなくていいのかよ?」
 その問いに、なぶらは肩をすくめて答えた。
「ああ。本人の希望でねぇ……苦手を克服したいから手出し無用、とね」
 正義感の強い瑠璃は、日々の鍛錬を怠らない。それは精神面においても同様で、今ひとつ子供の相手が苦手な瑠璃はこの機会に苦手を少しでも克服しようとしていたのだ。

 ちなみに子供の相手がうまくいかない理由は、瑠璃の精神年齢が子供に近すぎるので子供が瑠璃の言うことを聞かないのが原因だ。

「へぇ……若いのに感心なこったな」
 素直に感心する周に対して、なぶらは手を振った。
「ま、そういうわけだから瑠璃をナンパしても無駄だよ……他を当たってくれ」
 瑠璃の家族であり保護者を自認するなぶらとしても、周のナンパを容認するわけにはいかない。
「……しょうがねえな、そうすっか。……おっかないお兄さんもついてるこったし」

 瑠璃はというと、頭から飛び降りた男の子が逃走するのを追っかけて走り出していた。
「ま、待つのだ! 我輩にスピードで勝てると思わないことなのだ!! くらえ、必殺の鳳凰のこぶべっ!?」
 うっかり男の子に襲いかかろうとする瑠璃の後頭部に、なぶらが指先から放った光術がヒットする。
「――必殺じゃだめだろ、殺してどうすんの」
 ひりひりと痛む後頭部を抑え、瑠璃は辛うじて男の子を捕まえた。
「うう……痛いのだ……こ、今度逃げ出したら承知しないのだぞ……」
 そんな様子を見て和む周となぶら。そこに、一人の少女が現れる。

「み〜つ〜け〜た〜!!」

 言うまでもなく、周を探していたレミだ。
 見ると既に雪だるマーを装着している。その隣にはウィンターの姿。
「見つけたでスノー! 周を捕まえるでスノー!!」
 それを見て叫ぶ周。
「げ、レミ!! つーかウィンター、いつの間にそっち側に!?」
 慌てて逃げ出す周に、ウィンターもまた叫び返した。
「事情はレミから聞いたでスノー! いつも不特定多数の女性にナンパで迷惑かけているそうでスノー!!
 遊園地の平和を乱す周を退治することが人助けだとレミは言ったでスノー!! レミを助けてスタンプもらうでスノー!!」
 本音がダダ漏れるウィンター。レミは雪だるマーの助けを得て、脱兎のごとく走り出した周を止めにかかった。

「いい加減に観念しなさいっ!! 雷光のブーストッ!!!」
 雪だるマーのブーストで最大限に強化された天のいかづちが放たれ、全力で走っていた周の頭上を襲う!!


「あぎゃおえあーーーっっっ!!!」


 不思議な叫びを上げ、黒コゲで倒れる周。レミはそのまま周を回収し、ずるずると引きずって行く。
「ふー、ウィンターちゃんありがと、助かっちゃったわー」
 見ると、レミから感謝をもらえたことでウィンターのスタンプはまた一つ増えていた。
「わーい、ありがとうでスノー!! 周もよくぞ大人しく捕まってくれたでスノー!!
 大体、良く考えたら最初に私をナンパしたくせに他の女性にも声かけるとか、おかしいでスノー!!」
 それでも、黒コゲのままレミに引きずられていく周の頭を撫でるウィンターだった。
「お、おう……お安い御用だぜ……」

「なんか、いろいろ大変だな……じゃ、こっちも地味に奉仕活動の続きといくか、ほら瑠璃、何愉快な顔してるのさ」
 見ると、今度は女の子が瑠璃に乗っかって、後ろからほっぺたをびろーんと引っ張っているのだった。
「ひ、ひらくてひているわけへはないのら……」


 苦手を克服するのは遠い話になりそうだな、となぶらは呟くのだった。