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【魔法少女スピンオフ】魔法少女クロエ!

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【魔法少女スピンオフ】魔法少女クロエ!

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レッスン8 着替えるまでが魔法少女です。その3


 クロエが魔法少女になったと聞いて。
「魔法少女って困ってる人を助けてくれるんだっけ?」
 スレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)は工房までやってきて問い掛けた。
「そうよ」
 自信たっぷりにクロエが言うので「クロエにぴったりだよ」と優しく言ってやる。
「……なんかきもちわるいわ」
「おまえ。失礼な子だねー」
「なにをたくらんでるの?」
「口も悪いし」
 文句を言いつつ、バレてることに内心でひやり。
 さすがにそれなりに長く付き合っているせいか、スレヴィの行動が読まれ始めているらしい。これは次回までに対策を練らなければなるまい。
「まあ俺は心が広いから聞き流してあげるよ」
 にこやかに言うと、またクロエが胡散臭そうな顔で見る。その頬をむにりと摘んでやりつつ、
「クロエはさ。人助けをするってくらいなんだから、ボランティアとかに誘われたら行くよな?」
「いくとおもうわ。わたしがちからになれるなら」
「うんうん。さすがの心意気だ」
「……あれ? ふつうに、ほめてる?」
 そうか、ここまで初志貫徹していれば疑っていてもまた信じるのか。単純だなぁと思いつつ、「だから最初から褒めてるって」と繰り返す。
「それでねクロエ、ボランティアには炊き出しというものがあるんだ。美味しい料理を作って振舞って、苦しんでいる人の心を少しでも癒そうっていう素敵なものなんだけど」
 あ、とクロエが口を開いた。先に言うなよ、と唇に人差し指を突きつけながら、
「そのときにしっかり役立てるよう、料理の腕を磨く手伝いをしてあげよう」
 もう片方の手で、割り箸を取り出した。
「さ、試食してあげるから何か作ってよ」
「やっぱりたくらんでたんじゃないっ」
「あはは、そんな人聞きの悪い。クロエの料理スキルを上達させるためだってば」
 まあ、そんなのやっぱり建前だけど。
 でも、嘘というわけでもない。スキルアップに繋がってくれれば、と思ってはいる。
 ――ま、からかいの方が強いけど。
 あと、クロエがどんなものを作るのかも気になるし。
 うー、と仔犬が唸るような声を上げるクロエの背中を押して、ほらほら何か作ってよ、とキッチンに押し込んだ。


「クロエは一人前の魔法少女になったら、どんなことをしたい?」
 調理が終わり、皿を並べるクロエへとスレヴィは尋ねる。
「やっぱり、リンスの手伝い?」
「うん。だって、リンスのことすきだもの」
 あけすけに好きというのは、素直な子供特有のものだよなあと思いつつ、聞く。
「それに、ほっとけないの」
「ああ。この前も入院してたんだってね? 心配になるよな」
 頷きながら、ふと思った。
「あのさ。もし俺が困ってたら、クロエは助けに来てくれるか?」
「え? スレヴィおにぃちゃんはだれかをこまらせるがわじゃないの?」
「……うるさいよ。そんなこまかいところを気にしてるようじゃ立派な魔法少女になれないよ」
 グラスに氷と紅茶を入れて、クロエがスレヴィの前にことりと差し出す。皿の上には綺麗に焼けたパンケーキ。冷蔵庫からバターの容器を取り出し、棚からメープルシロップを出し。
「ちょっとクロエ、これ割り箸で食べ辛い」
「フォークもナイフもあるわ」
 てきぱき動くクロエにシルバーを渡された。受け取る。
 手際が良いのは毎日こうしてリンスに作っているからだろうか。
 ――そういえば答えはどっちなんだろ。
 ま、催促なんてしないけど。
「さーてキュアポイゾンの準備もできてるし、いただきまっす」
「しつれいねっ」
 だってクロエを見てるとからかいたくなるんだよ、と内心で笑いながら、ぱくり。
「…………あのクロエ。このパンケーキ、なんか酸っぱい」
「レモンピールをまぜてあるの」
「ああ、そう……」
「? レモンだめ?」
 心配そうに聞かれてしまった。とりあえず、顔を逸らす。レモンがだめというより、酸っぱいものがだめだった。
「なつだからって、さわやかーなかんじにしたかったんだけど……」
 しょんぼりとした声に、まずい、と思う。
「いや? 美味しいよ、うん」
「なみだめよ」
「そこは見ない振りしときなよ。わかってないねクロエは」
 バターを塗ったりメープルシロップをかけたりして、レモンの酸味を誤魔化しつつ完食してみせた。ほら、全部食べれたし不味かったわけじゃないぞ、と。
「ごちそうさま」
「おそまつさまでしたっ。……ごめんね?」
「何が? 美味しかったって言ってるだろ、胸を張りなよ料理人」
 しょげるクロエの額をついて言ってやる。
「それじゃ腹も膨れたし、そろそろ帰るかな。クロエが立派な魔法少女になって活躍する日が来るのを祈ってるよ」
 ばいばい、と手を振って外に向かう。
「あのね、スレヴィおにぃちゃん。わたしね、まほうしょうじょになったら、たいせつなひとをえがおにしたいとおもってるの」
 実にクロエらしい願いに頷いた。それで? と促す。
「スレヴィおにぃちゃんも、わたしのたいせつなひとよ。だから、こまったことがあったらいつでもいって。たすけにいくわ」
「……なんだよ、今更答えるとか。焦らすねクロエは」
「そういうつもりじゃ」
 ないわよ、と言いかけたクロエの頭をぐしゃぐしゃ撫でる。
「クロエもね。もし困ったことがあったら相談に乗るから、遠慮なく言いなよ」
「……なにかたくらんでない?」
「ないよ。疑わしげな目で見ない。本当だってば。一生懸命なところをつついて遊びたいなんて思ってないって」
「さいごのひとことがよけいなのよ、スレヴィおにぃちゃんはっ」
 きぃっと両手を振り上げるクロエにはははと笑い、今度こそばいばいと手を振った。


*...***...*


 そうしてクロエが本日最後の魔法少女活動をしている間に。
「それで、お願いの件なのですがー」
 豊美ちゃんは、リンスに話しかける。
「来週ヴァイシャリーでお祭りがあることはご存知ですかー?」
「うん。お盆祭りだよね? 祭りの終わりには精霊船を流すやつ」
「はいー。その日一日だけ、ナラカとの門が開いて、死者がパラミタにやってこれるのですー」
 話を聞いて、リンスが黙った。何か思うところがあったのかもしれない。
 なので一度先に、
「お嫌ですか?」
 問い掛けた。
 大丈夫、と首を横に振ったので、話を続けることにする。
「ナラカにはヤマラージャという王様が居ます。閻魔大王様、と言えばわかりやすいでしょうかー。お盆ですので、一日だけそういった取り計らいをしてくれるそうです」
「お盆だからね」
「お盆ですからー」
 馬宿も馬子と話がしたいと言っていた。
 豊美ちゃんだって、死んでしまった夫に逢いたいと思う。
 その日だけは。
 本当は無理な、死者との対話が叶うから。
 だけど、きっと身体はないから。
「リンスさんに、人形を作って欲しいんですー」
 依り代の器を作ってはくれないか。
「たくさんかな」
「そうですね。逢いたいと願う方が逢えるように」
「骨だねえ」
「お願いします」
「頑張る。出来るだけ」
 無理はしないよ、というので、もちろんです、と頷いて。
「それではよろしくお願いしますー」
 ぺこり、頭を下げて工房を出た。
 一週間後。
 お祭りの日のことを楽しみにしながら帰途を行く。


担当マスターより

▼担当マスター

灰島懐音

▼マスターコメント

 お久しぶりです、あるいは初めまして。
 ゲームマスターを務めさせていただきました灰島懐音です。
 参加してくださった皆様に多大なる謝辞を。
 また、監修していただきました猫宮マスターにこの場を借りてお礼申し上げます。

 魔法少女になられた方々、おめでとうございますっ。
 そして教えてくれた方にも感謝を。
 おかげさまで、クロエさんが魔法少女になることを決意したようです。
 ……かといって、今後どうなるかはわかりませんけども。また魔法少女シナリオやるかは気分次第になりそうですし。

 それから今回はプロット作成の段階ですんなりと目次が決まりました。ので、作ってみました。
 ストーリー調(というか、ある程度の流れがあるもの)だと、目次を作りやすくて良いですね。
 これでこの阿呆なページ数・文字数でも見つけやすいはず。だと思いたい。
 ……50人シナリオなのにどうしてこんなに書いちゃったんでしょうね。おかしいなあ。

 さて、マスターコメントまで長いとどうなのよ、という感じなのでそろそろ締めの挨拶をば。

 今回も楽しく明るくほのぼのなアクション、並びに私信をありがとうございます。
 クロエがたくさん書けて楽しかったです。おやばかです。本当に以下略。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。