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【2021クリスマス】大切な時間を

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第6章 あなたに休日を

「なんでお前、一人でいるんだよ」
 公園の片隅にいた風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)に、双子の弟の風祭 隼人(かざまつり・はやと)が近づいてきた。
「見えない方が、自然に楽しんでいただけると思いますから」
「んー、お人好しというか、なんというか」
 優斗の答えに隼人は大きく息をついた。
 優斗と空京を訪れたのは、数時間前。
 とある人物と合流をした後、逸れたフリをして隼人は街へと繰り出し、優斗はその人物――ミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)とデートをしていたはずだが。
 公園の中央。
 花壇に囲まれた場所に、人々が集まり、音楽と賑やかな声が響いてくる。
 時々、人々の間から見える踊り子の女性。
 褐色の肌、魅力的なスタイル、神秘的なマスクで顔を覆った女性は、ミルザム・ツァンダその人だ。
「これが、プレゼントですから」
 優斗は優しい目で、ミルザムを遠くから眺めていた。
 東京で多忙な毎日を過ごしている彼女に、パラミタで息抜きをしてもらうためにもと、優斗は彼女をデートに誘った。
 彼からのプレゼントは形ある物ではなくて。
 パラミタで行ってみたい所へ行ける、やってみたい事をやれる、会いたい人に会える。
 そのための、『自由な時間』だった。
 余計なお世話かとも思いながらも、誰かの為に本来の自分を押し殺し、役割を演じている彼女へ、自分のための時間を創ってあげたいと思ったのだ。
 そして。
 彼女が優斗からもらったプレゼントを使った場所は、ここ。
 空京の公園だった。
 流れのダンサーとして、自分の踊りを披露すること。
 それが、彼女が今、やりたいと思っていたことだった。
 輝く本当の彼女の姿をそっと、優斗は見守り続ける――。

「お疲れ〜」
 そんな彼の元を離れて。
 隼人は飲み物を持って、ミルザムに近づいた。
「この季節にその恰好は寒そうだよな」
「いえ、思い切り踊りましたので、暑いくらいです」
 そう答えたミルザムは、清々しい笑みを浮かべていた。
「ん、でも冷えないようにな」
 そう言って、暖かな珈琲を渡した後。
 優斗に咎められないうちにと、隼人はミルザムに急いで質問をしていく。
 思いの人であるルミーナへのクリスマスプレゼントは既に準備をしてあるのだが、家族や友人へのクリスマスプレゼント……や25日が誕生日な優斗へのプレゼントはまだ決めていなかった。
「優斗の分はともかくとして、妹や女友達へは何を贈ったらいいかな?」
 そんな隼人の問いに、ミルザムは汗を拭きながら考えて。
「そうですね。私がいただいたようなものも、良い贈り物かと思います。あ、戴く相手にもよるかと思いますけれど……。あとは、恋人ではないのなら、綺麗なものよりも、可愛いものや、美味しいものが、良いかもしれませんね」
 そんなミルザムの返事を、なるほどなるほどと、隼人は頷きながら聞き。
 ふと、遠くにいる優斗に目を留める。
「っと、そういえばさ、ミルザムさんは優斗のことどう思ってる?」
「え? もちろん、大切な友人だと思っています」
 親しみを感じているということが解る返事だった。
「そっか。それならさ、優斗が自分の人生を大切にできるよう、真っ当に恋愛が出来る人間になれるように、指導とかしてもらえないか? 今の優斗はダメダメ人間でさ、弟としては心配なんだ」
「どこが、でしょうか。素敵な方だと思いますが……」
 ミルザムは不思議そうな目をする。
「ステキかどうかはともかくとして。なんつーか、離れて見守ってるとかそんな姿勢がな。男としてどうよと思うわけで。今日だってデートに誘ったんだろ? けどこれのどこがデートなんだと!」
「は、はい……」
「あいや、踊りが悪いというわけじゃなくてな。こうして近づいてくるのは俺じゃなくて優斗の役目なわけで。……って、断っておくが、もちろん優斗の恋人になってほしいとか、そういう事じゃないぜ!」
 言いながら、隼人は拳を固めていく。
「……というか俺がルミーナさんとラブラブになれていないのに、優斗のヤローが先にカノジョを作ってリア充になるなんて、例え天が許しても俺が絶対に許さん!」
「なんの話です?」
「うわっ」
 いつの間にか、優斗が隼人の背後に迫っていた。
「彼女の自由時間を奪わないでください」
「わかってるって。とゆーわけで、女友達へのプレゼント買ってくるな! アドバイスサンキュー」
 そう言うと、隼人は急いでその場を離れた。
 ……ミルザム、そして兄の優斗が、楽しい時間を過ごせるようにと願いながら。
 ただし、交際は弟として認められないが!
「楽しかったです」
 汗を拭き、優斗からもらった珈琲を飲み干して。
 ミルザムは少女のような笑みを優斗に見せた。
「他にしたいことや、行きたい場所、会いたい人はいますか?」
「そうですね。会いたい人はまた別の機会として、できれば、ダンスのステージを見に行きたいです」
「ステージですか。予約していませんから、少し並ぶかもしれませんが行ってみましょう」
「はい。でも実は、メールでお誘いをいただいた時に、予約をいれておきました。……2席分、なのですが。一緒に行っていただけますか?」
「ええ、御邪魔でなければ……あの」
 一緒に歩き始めながら、優斗はミルザムに問いかける。
「僕の行動が本当に迷惑なようなら、迷惑と言ってくださいね。僕も好きな人に無理に付き合っていただいたり、嫌がられたりするのは望んでいないですから。……隼人によると、最近の僕は色々と誤っているらしいですから」
「そんなことないです。迷惑と感じていましたら、ご連絡いただいた時点で遠慮させていただいています、し。優斗さんは何も間違ってはいないと思います」
「そうですか。そう言っていただけると幸いです」
 優斗とミルザムは顔を合わせて、微笑み合った。
 それから、優斗はポケットの中からプレゼントを取り出す。
 中にはペンダントが入っている。
「クリスマスプレゼントです。ミルザムさんに」
「ありがとうございます。私からも。優斗さんと隼人さんに」
 ミルザムもまた、鞄の中から青い袋を2つ取り出した。
 中身は色違いのカードケースとのことだった。
「もし……」
 互いに礼を言い合った後。ミルザムは隼人の言葉を思い出しながら言う。
「優斗さんにとって、私が意中の人ならばこういう時。一人で、私を誘えばよかったなと。そうすれば、自分だけプレゼントを受け取れたのに。……と、少しでも思うのではないでしょうか?」
「そうですね。そうすれば、ミルザムさんのご負担が軽くなりましたから」
「ふふ……優斗さんはやっぱり、良い人なのですね」
 笑みを浮かべながらそう言って。
 長い髪を揺らしながら、ミルザムは歩いていく。
 2人の距離は友人の距離。
 近づきすぎず、触れ合うこともなく。
 並んで一緒に歩いていく。