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はっぴーめりーくりすます。2

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はっぴーめりーくりすます。2

リアクション



9


 魔法少女の時といい、お盆の時といい。
 なんだかんだで、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)はリンスやクロエの世話になっている。
 ――何か、お礼ができればいいな。
 そう考えて、思いついたのはケーキやお菓子を持って工房に遊びに行くこと。
 ネージュの体験した話を聞かせていたディアーヌ・ラベリアーナ(でぃあーぬ・らべりあーな)も、工房――特に人形に興味があったようだから、二人揃って行くことにして。
「こんにち――」
 ドアを開けた瞬間、コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)の姿をみとめて声が止まった。そして、ディアーヌを連れてきたことを思いきり後悔した。
 ディアーヌも、どうしよう、とでも言いたげにネージュの顔を見つめている。
「あたし……何かとんでもないことが起きるような気がする……」
「ボクもです。……また、ぽぽぽぽーん、されてしまうんですか?」
 少し前の記憶が蘇った。
 いろいろと、大変だったあの日のことが。
「みんなに迷惑かけちゃう行為はだめなんですっ」
 あの日みたいにならないようにと、ディアーヌは意気込んでいるけれど。
 果たしてどうなるものか。
 ネージュは工房で行われている、ミニスカサンタ衣装の押し付け合いを横目で眺めた。


 時間は少し遡り、ネージュがやってくるほんの少し前。
 紺侍が写真を撮りたがっている、と知ったコトノハは、ならば私も協力せんとルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)蒼天の巫女 夜魅(そうてんのみこ・よみ)白夜・アルカナロード(びゃくや・あるかなろーど)を連れて人形工房にやってきた。
「はいっ、どうぞ♪」
 そしてリンスに手渡すものは、
「…………」
 ミニスカートのサンタ衣装。
 衣装を手に、なんともいえぬ表情になったリンスがルオシンを見た。彼もまた、ミニスカートのサンタさん。
「……アルカナロード。その恰好は」
「いいから着ろ。着るんだ、何も言わずその衣装に袖を通すのだ!」
 自暴自棄気味にルオシンが叫ぶ。リンスが一歩退いた。
「え、やだ」
「なぜだ?」
「俺男だし」
「我だって男だ」
「うん、いや、人様の趣味に口出しはしないよ」
「趣味ではない!」
 くわっ、と再び叫び声。
 あ、はい。と素直にリンスが頷いたので、勢いそのままに「さあ着ろ!」と促したが、そこはすっぱり拒否された。中々に難攻不落だと言える。
「クロエも喜ぶぞ!」
「この恰好して喜ばれても何か違う気がする」
 だから返す、とリンスが衣装を突っ返した。
「……どうしても着てくれないんですか?」
 コトノハが、リンスに問い掛ける。
 ハロウィンでは某魔法少女なリンスが見られなかったから、その分見たい気持ちが強かったのだが。
「着ない」
 意見を覆せるような切り札もないし。
 ――引くしかなさそうですね。
 はぁ、とため息を吐く。憂いだ表情を見たらしいルオシンが、
「この際紺侍でもいい、着ろ!」
 矛先を紺侍に向けていた。コトノハが、『男性陣によるミニスカサンタの写真撮影を成功させたい』と言っていたことをしっかり覚えていてくれているようだ。そして叶えようとしてくれている。良い旦那さまである。
「うわっ火の粉こっち来た。無理スよ、人形師に着せようとしてたサイズがオレに合うわけねェし」
「大丈夫だ、お前が着れるサイズも用意してある」
「嫌っスよ」
「似合うんじゃないか?」
「いや絶対ェギャグにしかならねェし。オレそこまで芸人じゃないンで」
「我だってな……っ!」
「わかってますって! わかってますから実力行使に出ようとしねェで!」
 どうにも結果が揮わない。
 再び憂いで息を吐く。そして吸う。と、
「……あら?」
 なんだか、身体が熱くなってきた。熱に浮かされたような、ぼんやりとした目で周囲を見回す。入口に立っていたディアーヌを見て、ああ、彼女の花粉を吸ってしまったのだな、と気付いた。
 が、気付いたところでどうにもならず。
「ルオシンさぁん」
「ん? ……って、コトノハ!!」
 ルオシンの名前を呼んで、抱きついて。身体をまさぐる。
「公衆の面前で何をっ、こらスカートを捲るな! 脱がすなーっ!!」
 止められようとも気にしない。頬にキスして、擦り寄って。
「あんたらね、クロエさんとか夜魅さんとか、小さい子がる場所でそういうことは、」
 紺侍が制止にかかったが、
「あたし、見慣れてるから平気だよ! それにママとパパがイチャイチャしてたらお願い事も叶うかもしれないし!」
「夜魅さんてばこの年でおませさんっスねェ……お願い事?」
「うん、今度は妹が欲しいなーって」
「ぶっ」
 夜魅の発言に、紺侍が噎せていた。が、やはりコトノハは気にしない。
「ほら、夜魅も望んでいることですし。ね……?」
「こ、こらっ……!」
 焦るルオシンの顔を見て、ああ可愛い、と思って、さらに手を――伸ばしかけて、急に我に返った。
「あれ? え?」
 熱が引いていく。と、残ったものは疑問符と、やってしまったかしらという思い。
「そういうことは、ボクたちの前でじゃなくて! ご自宅でお願いしますーっ!」
 ディアーヌが必死の声を出していた。
「ボクの花粉で興奮しても、キュアポイズンがあればすぐにケロリなんですからね! だから、人様に迷惑をかけるようなことはもうさせないのですっ」
「迷惑だなんて、そんな……えっと。……ごめんなさい」
 そう、ここは人形工房。
 いきなり大人の世界に入られたら困る面々も多い。
 なので、素直に謝った。


 騒ぎを見ていた白夜は、「きゃっきゃ」と笑った。
 なんだかよくわからないけれど、面白い。
 コトノハもルオシンも、夜魅も、自分にとって大切な人達がみんな楽しそうだし。
 大きな木には星や雪だるまが飾られていて、きらきら光ってとっても綺麗。
 大きな星に手を伸ばそうと、ふわりふわりとレビテート。
「あっ、こら白夜。危ないよ」
「ぁうー?」
 届きそうなところで、飛んできた夜魅に止められた。
「お星様欲しいの?」
 うん、と頷く。と、夜魅が取ってくれた。
「でも、返さなくちゃだめだからね。それがないとツリーが寂しいから」
 手放すのはおしかったけれど、綺麗な木はこれがなくなったことによって、夜魅が言うように寂しくなってしまった。
 なので、サイコキネシスを使って星を返却した。
「それができるなら最初からそうすればよかったのに」
 ちょっとお転婆さんだねー、と夜魅が笑う。
「あ、でもはしゃいでるだけかな? 去年のクリスマスはママのお腹の中だったもんね」
 夜魅が呟くように言った。首を傾げる。
「そういえば、ママの友達もそろそろ赤ちゃんが産まれる頃かもなんだって。白夜の友達になれると良いな〜」
 ね! と笑った夜魅の顔が、すごく楽しそうだったので。
「ぁい!」
 と、白夜も笑っておいた。