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「輝ちゃん、ありがとうございましたー!」
 ステージ上でスクリーンを観客と一緒に見ていた衿栖が言うと、拍手が起こる。
「混浴は恥ずかしがってる方が多いと思いますけど、親睦を深めるには裸の付き合いと言いますし、皆さんも一度行かれてみてはいかがでしょうか?」
 そう言う衿栖の衣装は、先程までのライブの天使衣装ではなく、今は水着となっていた。
「ちなみに私の今着ている水着は、マネージャーにスタイリストに、撮影にと活躍してました瑠奈さんが選んで下さったものなんですよ? ……そう言えば、カメラには映りませんでしたけど、声が出てましたね……確か、おにぃ……」
 コホンッと一つ咳払いをした衿栖が続ける。
「さて、続いてはあちらに見えますウォータースライダーの体験レポートです! 未散ちゃんが体を張って体験レポートをしてくれます! はい、みんな拍手ー!」
 衿栖の呼びかけに、スクリーンの映像が切り替わり、頭にCCDカメラをセットした水着姿の未散が映る。ただ、その表情はどこか硬い。
 今、未散はウォータースライダーの頂点に座って、静かに発進を待っていた。
「うぅ……私、実は高いところ苦手なんだけど……神楽さん、知ってたよね?」
 愚痴ってはみるが、既に「やるしかない」状態に追い込まれている。
「(しかも、この水着結構きわどくないか……? 紐で結ぶタイプだし外れたらやばいんじゃ……)」
 未散は自分のセパレートタイプの水着をチラリと見てみる。このウォータースライダーは意外な程スピードが出る。つまり、落下時の衝撃も大きい……。これまでの芸能活動の中で幾度となく感じてきた悪い予感がする。
「未散さーん、頑張ってー!」
 未散が見ると、伊藤 若冲(いとう・じゃくちゅう)を、プールサイドに発見する。若冲はこの水着をチョイスしたスタイリストだ。そこには衿栖の飼い犬である南大路 カイ(みなみおおじ・かい)も一緒だった。
 若冲は、未散に手を振った後、周囲を見渡す。プールサイドということあって、水着姿の若い女子が大勢いる。
「若沖よ、スパリゾートの活気に創作意欲を刺激されたと行っていたが……いつもと同じ様に見えるのは私の気のせいか?」
 聡明さを垣間見せるカイが、これから若冲が行おうとしているのはナンパだろうと考えて口を開く。いつものごとく、カイの周囲には、彼をモフモフしたい動物好きの女子が集まっていたし、「カイさんは今日も女の子に人気ですね……」と、先ほど若冲に嫉妬の目向けられてもいた。
 しかし、意外にも今日の若冲は大人しい。
「ええ、気を取り直して今日もモデル探し(言う名のナンパ)に精を出しますよー! といきたいところなのですが……」
 どこか遠い目をする若冲。
「悪いものでも食べたか? そういう時は草を食べて吐き出せばよいと思うぞ?」
「いえ……」
「ああ、若冲さーん、カイさーん! お疲れさまですぅー!」
「瑠奈?」
 カイが見ると瑠奈が浴衣を持ってプールサイドを走ってくる。
「どうしたのだ?」
「お兄ちゃんやお姉ちゃんたちが撮影終わったので、浴衣を届けないとぉーって」
「ふむ……どれ、若冲。キミもスタイリストであろう? 手伝って……ん?」
 カイが提案するより早く、若冲は瑠奈の持つ浴衣を預っていた。
「オレも行きますよ。一人で着付けは大変でしょうから……」
「ありがとうー! 助かるよ、若冲さん」
「いえ……スタイリストですから。オレも」
「……」
 カイがいつにもまして殊勝な若冲と瑠奈を見比べる。獣の嗅覚でいつもの軟派なキャラではない若冲に異変を感じたのだ。
 カイが瑠奈に話かける。
「瑠奈。若冲は何か調子が悪いようだ。可愛い女子を見ても胸が高鳴らんと言う」
「へー。病気?」
 瑠奈が若冲の顔を覗きこむ。
「い、いえ、決してそういう事では……」
「ボクも結構可愛い方だと思うんだけどねぇ。にゃーん!」
「も、勿論。瑠奈さんは素敵だと思いますよ! 当たり前じゃないですか!!」
 若冲の一際大きな声に瑠奈が目をパチクリさせ、ニコリと笑う。
「ありがとう!」
「う……うん……じゃ、行きましょうか?」
 未散はその様子を高台から見守っていた。
「……何をラブでコメってるんだ……おわッ!?」
そう愚痴た瞬間、背後で腕時計を見ていた統によってウォータースライダーへと叩きこまれてしまう未散。
「では未散ちゃん……いってらっしゃ〜い!」
 衿栖の声を合図に、未散は滑り出す。というか、落下していく。