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お風呂ライフ

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お風呂ライフ

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 ここは、薔薇の香りに包まれた薔薇風呂。少し前にキャンティが準備し終えたその風呂にいたのは、安徳 天皇(あんとく・てんのう)獅子神 玲(ししがみ・あきら)であった。
「………なんでしょうね、ちょっとしたこの疎外感。……別に私、付いてこなくても良かったような気がするんですが……正直、二人が眩しすぎてね……」
「おぬしの気持ち、わらわにはよーくわかる」
 手で薔薇の花をすくう玲の呟きに、安徳天皇が同意する。
「わらわ達は今回、全くもってその存在意義の危うきに直面しておるのじゃ。おぬしが誘ってくれなんだら、わらわは……」
「いいえ。安徳様。私こそ安徳様がいなければ、本当にやる事なくして、一言名前を呟かれて終わるところでした……」
「玲……」
「安徳様……」
 ピンク色に染まる湯船に浸かって手を取り合う両者だが、決して『そういう関係』ではない。
 スパリゾートアトラスにて、流浪の旅を続けていた玲と安徳天皇が出会ったのは、つい十数分前の事であった。

「ええ、友美さんとデートです」
 凄い笑顔でそう言って去っていったパートナーを見送った玲は、温水プールに、マッサージと、水着姿のまま漠然と暇つぶしをしていた。
 そんな玲が施設内の食堂の全メニュー制覇に挑んでいた時、ポツンと傍を通りすぎようとしていた安徳天皇に声をかけたのである。
「……安徳様、一緒にかき氷食べませんか?」
「……わらわと?」
 安徳天皇が見つめる玲のテーブルには、山積みになった空の皿と、赤、蒼、黄、緑と色とりどりの今運ばれてきたばかりのかき氷が鎮座ましまししていた。
「おぬし、よく食べるのじゃな?」
「……何と言うか、私ってやる事ないじゃないですか……しょうがないから、屋台のご飯制覇してみようかな、と思って……」
 安徳天皇は玲の前に座る。
「どれがいいですか?」
 玲がかき氷を安徳天皇に見せる。テーブルには玲が頼んだ全種類が並んでいる。
「あ。待って下さい。私、当てて見せます。……えーと、安徳様がお好きなのは……イチゴですか?」
 安徳天皇は玲に首を振り、静かに『ブルーハワイ』を選ぶ。

 シャクリッ。
 安徳天皇がかき氷を食べる様子を玲は不安げな気持ちで見つめていた。玲は、何となく、こんな自分と一緒に居ても楽しくないかもと思ったのだが、安徳天皇は玲を見つめて微笑む。
「美味しい」
「あ、そ、そうですか! じゃあもう一つ食べますか?」
「ううん。それより……」
「それより?」
「おぬしはプールで遊ばぬのか? わらわは折角来たので、プールで遊びたいのじゃ」
「……はい!」
 
 互いにパートナーを無くした(死んではいないけど)二人は、それから幸せな時間を過ごした。
 温水プールでは、一緒にウォータースライダーを滑った。初体験の安徳天皇にせがまれ、玲は上までの階段を幾往復もした。
 ビーチバレーでは、背の低い安徳天皇に付き合って、子供用プールで中腰で遊んだ。
 さらに、マッサージでは、二人して「はぁー、極楽じゃ」とハモった。
 そして、今は温泉巡りをしている。
 仲の良い姉妹のように過ごす時間に、普段は人付き合いの良くない玲も心に何かしらの安らぎを感じていた。