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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~
四季の彩り・冬~X’mas遊戯~ 四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

リアクション

 24−8

「あれ、花びら……?」
 デスティニーランドの名所である城の近くを歩くフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)の頭上から、沢山の花びらが舞い落ちてくる。道行く来園客の中にも彼女と同じように花びらに気付き、空を仰ぐ人々がいた。突然のことに、きょろきょろと周囲を見回す。
「どこから落ちてくるんでしょう」
 フレデリカの隣を歩いていたフィリップ・ベレッタ(ふぃりっぷ・べれった)も、同じように見える範囲を見回してみる。この近辺に、花をつけた背の高い木は見当たらないが――
「……あっ」
 その声を聞いて、フィリップは視線を隣に戻した。フレデリカの両手の中に、小さなブーケが納まっている。ぽすっ、という音がしたのは、気のせいではなかったらしい。
「何か今、空から落ちてきたの……」
 びっくりした顔で、彼女は上空を指差す。その先には下がアーチ状になった石橋があり、未だに残った花びらが、何枚か空中を飛んでいる。
「……あ、そうか」
「? どうしたの? フィル君」
「……いえ。せっかくだから貰っておきましょう。今日の僕達は……幸運みたいだ」
 フィリップはそう言って、フレデリカの背を軽く抱いて歩き出した。彼女がブーケを両手に持っていたから手を繋ぐ代わりにそうしたのだが、その仕草にフレデリカはどきっとした。
「フィ、フィル君……?」
 待ちに待ったクリスマス。彼とどうやって過ごそうかな、とあれこれ色々考えていたら、遊園地に行きませんか? と彼から電話が掛かってきて。
 フィリップから誘ってきたのも嬉しかったけれど、今日の彼は何だか……いつもより少しだけ、積極的だ。
(もし、ちょっと強引に迫られちゃったらどうしよう……)
 そんな、あることないことを考えて、でも心臓は高鳴って。フレデリカは1人、顔を赤らめた。

              ◇◇◇◇◇◇

(む、あのブーケは……)
 セドナは、フレデリカのキャッチしたブーケを見て空を見上げた。花びらの他に『幸せになってね♪』という声が聞こえていたし、きっとあれは、結婚式で投げるブーケなのだろう。
 一緒に歩く和深を見る。家を出る前、彼に自分は『将来の家族』と言ったがそれは恋人になるつもりだ、ということで。彼の隣を歩くセドナ自身がブーケを投げる姿を、歩きながら想像する。
 今でも、和深と月琥と3人で遊ぶことは楽しく、ある意味本当の家族みたいな関係に満足しているのだが。
(その日も、近いかもしれぬなあ)
 とも、勝手に思う。セドナは、和深に妹としか見られていないことに気付いていない。
 和深と月琥が自分を通し、別の人物の影を見ていることには気付いているのだが――それはある意味、兄妹にとって自分が特別な存在であるという照明でもあり。
 だからセドナは、何も訊かずに自分を貫くことにしていた。
「和深、あそこでライブをやるようだぞ。見に行こうではないか」
「ライブ? グッズを買いに行くんじゃなかったのか」
「もちろんそれも後で行くが、どんなライブか気にならんか?」
「そうね、私も聞いてみたいわ。兄さん、行きましょう」
 セドナは和深の腕を引っ張り、月琥も反対の腕を引っ張った。
「お、おいおい……」
 両脇から腕を引っ張られて、和深はたたらを踏みつつ彼女達についてくる。月琥は、セドナと視線を見交わし笑いあった。パラミタで出来たセドナという友人は、冒険を好んだあの友人に似ていていつも先頭を歩き、何故か自信に満ちていて行動に迷いがない。またその自信からか、どこまでも和深や自分が一緒にいることを信じて疑わない子供のような人物でもあった。
 だからだろう。家族水入らずでというこんな日でも、一緒にいることを許してしまう。
 並ぶ顔は同じ。だが昔とは似て非なる、新しい関係があることが嬉しかった。
「ほら、早く行こうよ始まっちゃうよ!」
「はいはい、分かった分かった」
 急かされて、和深も2人と一緒に足を速める。今日は他にもあちこちのアトラクションに付き合わされた。あっちに行きたいこっちに行きたいと三山にわがままを言う彼女達の顔はとても楽しそうで。
(何だか本当に、妹が2人になったような気分だな……)
 そう思い、和深は内心で苦笑する。
 そして、こんな日がいつまでも続けばいいな、と、彼は思った。

              ◇◇◇◇◇◇

 時は、その数時間前に遡る。
「はあ……。何か、調子出ないわね……」
 空京にある公園でギター練習をした帰り、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は、満足の行く音が出なかったことに溜息を吐いていた。とはいえ、原因は解っている。最近、バンド仲間の熾月 瑛菜(しづき・えいな)と、活動についての意見の相違からちょっとぎくしゃくした感じになっているのだ。
 瑛菜はリードギター、ローザマリアはリズムギター。大晦日にライブをする予定の2人は、リズムギターの音の在り様について話し合った。だが、ローザマリアは瑛菜の言う事に納得がいかずにヒートアップし、
『No,No,No――You are wrong.(違う、それはおかしい)』
 と言い返して口論になりかけて口を噤んで、気まずい雰囲気のままで別れてしまった。
 それが1週間前のことで、以来、ローザマリアは瑛菜と連絡を取っていない。
 デスティニーランドの前を通ったのはそこが帰り道であるという単純な理由で、別に、園内に入る予定があるわけでもなかった。
 今日はクリスマス・イブ。遊園地という特別な空間にクリスマスという要素が加わって、更に明るい、幸福な空気に包まれている。
 もう一度溜息を吐いて、ギターを担ぎなおして歩き出す。だがそこで――
「……瑛菜」
「……ローザ」
 向かってくる瑛菜と顔を合わせた。彼女もどこかで練習をしていたのか、肩にギターを担いでいる。入場ゲートを背景に向かい合ったまま、2人は口を開くことなく立ち尽くす。
「…………」
 何かを言いたい。けれど、それが上手く形にならない。
 ――瑛菜も?
 あからさまに何かを言いたそうだが、待ってみても、瑛菜が何かを言うことはなかった。
 お互いに、言葉が見つからない。
「――行きましょう」
 どれだけそうしていただろうか。気付いたら、ローザマリアは瑛菜の手を掴んでデスティニーランドの入場ゲートへ向かっていた。
 何故か、その心に迷いはなくて。
 こうするのが答えだったのだと、すっきりと思うことができた。
 私は、何を怖がっていたのだろう。
 親友なら、仲睦まじいだけ?
(……いいえ、違う)
 意見の相違を、本音をぶつけあった結果、乗り越えられる事もある。
 それならばもっともっと、気の済むまで本音をぶつけ合って、お互いをもっと知っていけばいい。
 それで壊れてしまう関係なら、親友とは呼べないのだ。
 緩やかなコーヒーカップに乗ってみたり、再現されたキャラクターの家に入ってみたり。
「次は、パーッとあれに乗りましょう。きっと爽快だわ」
「う、うん……そうだな」
 戸惑いを見せつつも、瑛菜は汽車を模したコースターの席に座る。そして、コースターが動き出して終わるまでの約3分の間、彼女達は遠慮なく悲鳴を上げあった。降りる頃には、先程まで在った距離感はどこかに消えてしまっていた。
「ああ、気持ち良かったー。あ、ローザ、あそこでソフトクリーム売ってるよ。食わないか?」
 忌憚のない表情で、瑛菜はローザマリアをカントリー調の店に連れて行く。チョコレート味のソフトクリームを2人で買って、道行く人々を眺めながら並んで食べた。
「……ゲリラライブ、やりましょう。瑛菜?」
 その中で、ローザマリアはその言葉をごく自然に口にしていた。
 今なら、最高の音を出せる、そんな気がして――
「うん。――やろう、あたし達2人で」

 ディスティニーランドの一角で、彼女達はギターを出した。準備はすぐに終わり、様子を見た来園客が徐々に輪を成して行く中、ローザマリアは思う。
 ――彼女の背中を手で支えるのではなく……背中と背中を合わせ、支え合う。そんなイメージで、弾いてみよう。
 目で合図をして頷きあい、演奏が始まる。リズムを刻むローザマリアの音に合わせ、瑛菜が思い切り音を奏でる。
 それは、公園でギターを弾いていた時とは違う、素直に楽しいと思える時間だった。瑛菜もまた、はじけるような笑顔で演奏している。
 心が繋がった、乗り越えたんだと、そう思う。
 ――瑛菜。本当の気持ちをぶつけ合い、その上で乗り越えられる。そんな関係って素敵な事なのね……知らなかったわ。
 そして、ローザマリアは最高の笑顔を瑛菜に向ける。

「瑛菜――Thanks a lot my best friend.」