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リアクション
【2】
「空の家『しらなみ』営業中だよー。つめたーいドリンクも、美味しいごはんもあるよー」
皇帝ペンギン型ゆる族のピノ・クリス(ぴの・くりす)はぺしぺしと手を叩き、呼び込みをしていた。
誰も望んでないかもしれないけど、セクシーな空着姿で。
砂浜に立つ空の家にはベニヤ板にペンキで『しらなみ』の文字。色とりどりのパラソルテーブルが並んでいる。
キッチン担当は空着にエプロン姿の白波 理沙(しらなみ・りさ)とノア・リヴァル(のあ・りう゛ぁる)。
メニューボードには、
・ラーメン(醤油味)
・チャーハン
・カレーライス(中辛)
・カツ丼
・焼きそば
・たこ焼き
・焼きトウモロコシ
・唐揚げ
・コロッケ
・かき氷
・クレープ
・冷たいドリンク
料理の得意な理沙のお店だけあって、およそ海の家にありそうなもの大体ある。
おかげで朝からひっきりなしにお客さんが来て、2人は休む暇もなかった。
またピノから声がかかった。
「注文だよー。ラーメンとカレーとあとクレープ」
「はーい」
麺を振りざるに入れてお湯のゆだる寸胴鍋に。
その間にスープの準備をして、それからお皿にカレーを盛りつける。
素材から調理、盛りつけに至るまでこだわった仕事をする理沙の料理は、こう言ったらなんだけどフツウのお店みたいだ。
「海の家……もとい、空の家のメニューは不味いのがお約束とはもう言わせないんだから」
「ちょっと大変ですけどね」
ノアの担当はデザートだ。薄く焼いた生地に、生クリームとイチゴをたっぷり入れて、クレープを作る。
「出来たよー」
「はいはーい」
料理を持っていくピノを見送り、2人はタオルで汗を拭った。
「それにしても大繁盛ですね」
「今が稼ぎ時だから頑張ろ。来月から生活費が厳しくならないようにガッツリ働かないとねっ」
そこに、カイル・イシュタル(かいる・いしゅたる)が買い出しから戻って来た。
「あ、カイル。頼んだもの買って来てくれた?」
「ああ」
「それじゃカイルさんには接客をお願いしていいですか?」
「え?」
「どうかしました?」
ノアは不思議そうに理沙を見た。
「だ、大丈夫かな……」
理沙は頭の先からつま先までカイルを見つめた。
パートナーにこんなことを言うのもなんだが、イケメンだ。浜辺にはあるまじき、清潔感のある端正な甘いマスクだ。
「何をじろじろ見ている。給仕の仕事ぐらい何も問題ない。任せておけ」
カイルはそう言うと、ピノと一緒に砂浜に出て行った。
「行っちゃった……」
「お待たせー。ラーメンとカレーとあとクレープだよー」
ピノが料理を届けたテーブルには、樹月 刀真(きづき・とうま)と黒崎 天音(くろさき・あまね)。
それからブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が一休みしていた。
刀真はニッポン男児の魂“赤褌”を締め、ジャパニーズトラディショナルスタイル。
天音はサンライズブーメランにうさみみパーカー。ブルーズは薔薇の学舎の水着で鍛えた肉体を見せびらかしている。
「それじゃ頂きます」
琥珀色のカレーをスプーンにのせ、刀真は口に運ぶ。
「美味っ!?」
刀真は思わず声に出した。
「辛さの奥から濃厚な旨味が溢れてくる……これはレトルトじゃない。しっかりルゥから作ってる感じだ」
「ラーメンも本格的だぞ。見ろ、この麺。スーパーのひと玉幾らの麺とは違う輝きだ」
ブルーズは麺をすする。
「うむ、コシのある麺。それにスープ。煮干しの芳醇な薫りがたまらんな。醤油も味のしっかりしたものを使っている」
「空の家もなかなか侮れないね」
天音のクレープもシンプルな料理だけど、瑞々しいイチゴを使っていて、とても美味しかった。
「さて、これからの予定だけど、樹月は釣りかい?」
刀真の横には、持参した釣り竿が立てかけてあった。
「ああ。雲釣りが楽しめるって話だからね。ここには珍しい魚が多いらしいんだ。天音とブルーズはどうする?」
「決めてないけど……」
「これなんかどうだ、天音?」
ブルーズは雲島のガイドブックを見せた。
「へぇ雲遊び? 魔法で固められた雲で作る山にお城……か、面白そうだね」
「では決まりだな。樹月とは日が暮れた頃に合流するとしよう」
「ああ。晩ご飯、期待してるよ、樹月」
刀真はフッと不敵に笑い、竿を勢いよくビィィィンと振ってみせた。
「今夜はご馳走だ」
「お兄さん、マジイケメンなんですけど」
「あたしらと遊びに行こーよ」
カイルは浜辺の女の子に囲まれていた。
海に来る女子なんて半分は恋人連れで、半分は男漁り、このイケメンは彼女達にとって絶好の獲物だ。
「あー……やっぱり絡まれてる」
理沙は顔をしかめた。こうなる気はしたがやっぱりこうなった。
グイグイ迫ってくる肉食系女子はカイルの苦手とするタイプだ。あしらうのにも手こずっている。
「俺は仕事が……」
「いいじゃん、そんなの。このリゾートで仕事とか、マジありえないっしょ。遊ぼうよー」
「だからその……」
「カイルじゃ無理っぽい。ちょっと行ってくる」
理沙が行こうとしたその時、
「失せなっ!」
「!?」
巨大かつ豪華な盛り髪が、絡んでいた女子をまとめて薙ぎ払った。
「鏡見てから声かけろ、ブス。お前らにイケメンは百年はえーんだよ」
現れた神守杉 アゲハ(かみもりすぎ・あげは)は同じ肉食系の眼光で女子達を激しく威嚇した。
肉食ヒエラルキーの中ではアゲハのほうが上位。圧倒的存在感の前に、女子は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「……助かった。礼を言う」
「別に。あたしもあんたに用があったし」
アゲハはカイルに顔を近づけ、舐めるように見回した。
「マジイケメンじゃん。これなら後輩に見せてもマジ恥かかねーですむかも」
「何の話だ?」
「あたしと付き合ってよ」
「……は?」
「なに? もしかして彼女でもいんの?」
「そういうわけではないが……」
カイルはちらりと理沙を見た。
「だったら、いいじゃん。付き合……」
「そこまでだ!」
「ぐえっ!」
突然体当たりをブチ込んだブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)によって、アゲハは白砂に顔面から突っ込んだ。
「今のうちに逃げるんだ、青年!」
「あ、ああ……」
カイルはそそくさとその場を離れた。
「何すんだよ、このハガネ野郎!」
砂からブハッと顔を引っこ抜いた彼女は、鋼鉄のブルタの身体にガンガン蹴りを入れた。
「相変わらずだね、アゲハ。でも、ボクに感謝してもらいたいな」
「あにぃ?」
「恋人を募集していることは聞いたよ。けどね、よく吟味もせず顔だけで選ぶのは感心しないな。それで本当にイイ男がわかるのかい?」
「そ、それは……!」
「顔は良くても借金持ち、顔は良くてもマザコン、顔は良くても面白くもない塩男子、そんなヤツはね、この世にゴロゴロいるんだよ!!」
「そ、そ、それは!」
真理かもしれないその言葉に、アゲハはショックを受けた。
「ボクはね、キミにはきちんと誰がふさわしいのか見定めてほしいんだ」
そう、目の前にいるボクこそが最良のパートナーだってことにね、とブルタは心の中でニヤリと笑った。
「ハガネ……あんたって結構いいやつ?」
「フフフ、今までだっていいやつだっただろ。さぁ男を捕まえるいい方法を教えてあげるよ。こっちにおいで」
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