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お月見の祭り

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お月見の祭り
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 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、金 鋭峰(じん・るいふぉん)羅 英照(ろー・いんざお)がニルヴァーナに定例会議でやってくる日、仕事の後に月見ができるように手配をしていた。
「竹林から見る月は、風流ですね」
 散策路を歩いて来たルカたち三人は、ルカとダリルが英照のために手配した庵で休息をしながら月見をすることにした。
「お酒がいいなら軽く杯一杯の月見酒なんてのもありですよ」
「月見酒か。それはいいが、帰りの飛空挺は……」
「あ、飛空艇の送迎はダリルがするから飲酒運転にはならないですよ」
 あは、と笑うルカをダリルがじっと横目で見る。
「気をつけてくださいよ。このタンポポ、結構酒飲みなんで」
「あっ、ひどぅい」
 二人のやり取りを見て、英照はふふ、と笑った。
「それじゃあ、一杯もらおう」
「お注ぎ致します」
 ダリルが英照の持った杯に酒を注ぐ、その横顔をルカはぼんやりと見つめた。
「ダリル、楽しそう」
 酒を注ぎ終えたダリルは、ルカの方を向いた。
「ああ。悪くない」
「ほわ、ダリルが人っぽい」
 珍しくはぐらかさないダリルに、ルカは思わず驚きの声を上げる。
「それより、乾杯しなくていいのか」
「あっ」
 ルカもダリルに酒を注いでもらい、英照と乾杯をした。杯に映った月を眺めて、ルカはその酒をぐいっと一気に飲み干す。
「あー、美味しい!」
「お月見は良い。こうして月を眺めていると、心が落ち着く」
 英照は団子を食べながら、庵の外に見える月へと視線を向けた。
「……そういえば、上海万博で出会ったことがあったな。十年ほど前か」
「そんなに経つんですね……」
 ルカの脳裏に、まだ幼かった頃のルカが出会った鋭峰と英照の面影が浮かぶ。
「あの後、何をしていたのだ?」
「あの後私はアメリカに飛んで幼年傭兵の任務をこなしていました」
「なるほど……」
 英照は杯を傾けて、思案顔になった。
「参謀長と団長は、どのようなことをなさっていたのですか?」
「あの頃の私とジンか。そういえば、ジンは……」
 それからしばらく、ルカとダリルは英照と過去の話に花を咲かせていた。

「そろそろ、団長をお迎えに行って参りますね」
 そう言ってルカがその場を立った。
「……強化人間化は後悔してないと思いますが、施術や研究の後遺症は問題無いレベルですか?」
 ダリルはルカがいなくなってから、ルカの前では聞き辛かったことを英照に訊ねた。
 医師としてダリルは英照の体を心配していたのだ。
「ああ。問題ない」
「サイバーアイになった目も、その結果で?」
 質問に言葉で答えず口元に笑みを湛える英照。
「団長のためとは言え、あまり無理はしないでほしいんですがね」
 そうダリルが言うと、
「似た者同士、ということだ」
 と、すかさず英照が返す。
「確かに」
 ルカのためなら無理を無理と思わないダリルには、英照の気持ちが良くわかる。
 ダリルは英照の言葉に、くすと笑った。


 その頃、鋭峰は董 蓮華(ただす・れんげ)と竹林でゆったりと散策をしていた。
 蓮華と鋭峰は差し込む月光や葉ずれの趣を楽しみながら、月夜の竹林の間を抜ける柔らかな風を身に受けた。
「こんなに明るいなんて……」
 蓮華は、竹の合間から漏れる月明かりを、うっとりと手に受け止める。
「月見に最適な日だな」
 鋭峰も空を見上げて、満月を見る。月明かりの元ではっきりと見える鋭峰の顔を、蓮華は見つめた。
 そんな蓮華の視線に初めから気付いていたのだろうが、鋭峰はしばらく月を眺めてから蓮華を見た。
 それだけで、蓮華の心臓は飛び出しそうなほどドキドキと脈を打つ。
 頑張って悟られないように、と思う反面、きっとそれもお見通しなのだろう、とも思う。
「でも私も1つだけ、団長にも負けない事があるのですよ」
 ふふ、と蓮華は微笑んだ。
「それは、大切な方を想う気持ちです」
「……」
 鋭峰は何も答えなかった。だが蓮華には、鋭峰の表情から「知っている」と思っているのだろう、と感じられた。

「お茶にしませんか?」
 しばらく竹林の散策をした後、蓮華は予め席を設けておいた小さな庵に鋭峰を案内した。
 塩豆餅のような餡子の入っていないお餅を1つずつ用意し、持参したお茶葉でお茶を淹れる。
「夜は少し肌寒いですから、暖かいお茶と美しい月の光とが団長の心の疲れを洗い流してくれるといいのですが……」
「気遣い、感謝する」
 蓮華は鋭峰と視線が合うと、静かに微笑んだ。
「今日が、互いにとって良き日となりますように……」

 そうしてしばらく二人が穏やかな時間を過ごしていると、ルカが鋭峰を迎えにきた。
「私はもう少しここに残りますね」
 そう言って蓮華は、庵に残った。


「団長も休息が取れたようですね」
 ルカは鋭峰の隣に、並んで歩く。
 軍人として個人として、鋭峰と性別を超えた強い信頼で結ばれた関係でありたい。そう願うルカには、鋭峰の顔を見て、蓮華と過ごす時間でリラックスできたのだろうということが分かった。
「来年も来れるといいなあ」
 明るく笑うルカの隣で、鋭峰はそっと頭上を見上げた。
 ダリルたちの待つ庵は、もう、すぐ目の前にある。
 ルカが庵に入ろうとすると、ダリルと英照の話し声がうっすらと聞こえていた。
「ただいま! ダリル、参謀長と何話してたの?」
「……男同士の秘密だ」
 そう言って、ダリルと英照は顔を見合わせ、口元に笑みを描いた。
 夜はまだこれから。こうして、四人での月見が始まろうとしていた。