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第14章 月光浴びながら、公園で

 夕食を終えた後。
 月がとても綺麗だったから。
 冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は恋人の泉 美緒(いずみ・みお)と会いたくなった。
 明日も用事があるから、一緒にいられる時間は限られているけれど……。
「カップルの姿も見えますわね」
 誘い出して連れてきたのは、近くの公園だった。
 公園内には、夕食を終えて訪れたカップルの姿が何組かあった。
 小夜子はいつもの、崑崙旗袍――コンロンの、チャイナドレス姿。
 美緒は、濃い桃色のフレアースカートに、純白のレースがついたブラウスを着ていた。
 色っぽい格好の小夜子と、可愛らしい姿の美緒。
 公園に居たのが、男同士のグループだったのなら、すぐに囲まれて誘われてしまっただろう。
 2人は他のカップルからは離れて、池の側のベンチに腰かけた。
「夜空の月が綺麗……。私が美緒に告白したあの日もこんな月でしたね」
「そうでしたね……」
 うっとりと、小夜子と美緒は空を見上げる。
「あれからもう一年経つのね。思えばあっという間ですわ。あの頃に比べると、美緒も色々成長しましたね」
 小夜子が美緒に目を向けた。
「美緒の目標だった「自立」も、一歩一歩進んでますし……」
「はい」
 返事をして、美緒は小夜子に微笑みかける。
(でも……)
 と、小夜子は美緒のかわいらしい顔と、小さな唇を見ながら考える。
(口づけとかよくするけど、そういうのにはまだ恥じらいがありますわね)
 手を伸ばして、美緒の頭を撫でると美緒は嬉しそうに微笑む。
(これくらいでしたら、照れないのですね)
 小夜子は手を、美緒の顔に落として、指を唇に近づける。
 ぴくり、と美緒は反応し、彼女の顔がほんのりと赤くなる。
「恥ずかしいですか?」
「いえ……。でも少し、緊張しますわ。何度、経験しても……」
「今日は、そう、美緒からしてくれる? いつも私からしてるから……」
 人目が気になるのなら、木陰に移動しましょうか? と問いかけると、美緒は首を左右に振った。
 それから、2人は見つめ合って。
 小夜子はそっと目を閉じた。
 彼女の頬に手を添えて。
 美緒は自分の顔を近づけて……唇に、優しく自分の唇を重ねた。
 顔を離して目が合うと、美緒は恥ずかしそうに顔を更に赤く染めた。
「優しい口づけでしたね。美緒の気持ちが流れてきましたわ」
 素直に恥じらう美緒は、やはり純粋だなと小夜子は感じる。
「お互い持ちつ持たれつ、頼りにされたいと思ってるけれど、私は美緒に頼っちゃう部分が大きいわね……」
 言って、小夜子は美緒を引き寄せた。
「こんな私だけど、美緒が良ければ、これから先もずっと一緒にいたいわ……」
「頼りにしてますよ、小夜子。わたくしの存在が、あなたの助けになっていますか? それなら、とても嬉しいです。これからも、ずっと……一緒にいたいですわ」
 ぎゅっと優しく、強く小夜子は美緒を抱きしめる。
「愛してるわ。美緒」
「私もです、小夜子」
 美緒も、両腕を小夜子の背に回して、強く愛しげに抱きしめた。