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リアクション
第2章 楽しく歌おう
早めの夕食をシャンバラ宮殿で済ませた後。
「アレナちゃん、今日空いてる?」
空京に訪れていた秋月 葵(あきづき・あおい)は、同じロイヤルガード、そして侍女として女王に仕えているアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)に声をかけた。
「風邪、治ったんだよね?」
少し前に電話で話した時、アレナは体調不良で仕事を休んでいた。
だけれど、今日は顔色もよく、元気そうだった。
「期限間近のサービス券があるんだ」
葵が取り出したのは、カラオケのサービス券だった。
「ちょっとだけ歌ってこよ?」
「はい、葵さんの歌、聞きたいです」
着替えて用意を済ませると、2人は宮殿から宿舎に帰る途中にある、カラオケルームに向った。
「うん、今日は誰も来てないね。それじゃ、好きな服選んじゃお〜」
「ええっと、動物さんのお耳がついているのがいいです」
そのカラオケには、コスプレ用の服が置かれていた。
葵は魔法セーラ服少女の格好。アレナはトラ猫耳のメイド服を選んだ。
「星を観に行こう〜♪ 羽根を広げ、空を飛び〜♪」
「星の降る、世界へ〜♪ 私たちは〜旅立つ♪」
葵とアレナはマイクを手に、一緒に歌を歌ったり、片方が歌い、片方がタンバリンを鳴らして盛り上げたりしていく。
葵はアニメソングから、流行りの曲まで。
アレナは、音楽の授業で習った歌を中心に、歌っていた。
「そういえば、優子隊長はどんな歌うたうのかな〜?」
アレナと一緒に歌う曲を選びながら、葵はふと考えた。
優子が歌っている姿……思い浮かばない。見たことがない。
「アレナちゃんは優子隊長の歌、聞いたことある?」
「優子さん、歌……」
アレナはちょっと考えた後。
「高校の卒業式で歌っている姿、見たことあります! あと、文化祭とかのクラスの出し物で歌ってた気がします。カラオケも……行ったことはありますけど、そういえば、滅多に歌わないですね、優子さん」
「全然ではないんだ?」
「特に好きではないみたいです。優子さん、身体を動かす遊びが好きですから。バッティングセンターとかでは活き活きしてますよー」
「そっか……となると、カラオケに3人でって誘っても、来てくれなかったかな」
『私は良いからアレナと行ってくるといい』そう言って、すたすた帰ってしまう優子の姿が思い浮かんだ。
「あとは、スポーツジムとか好きみたいです。格闘技以外のスポーツでは、テニスが好きだって言ってました。ストバスとか、フットサルとかも昔はよく混ざってて、それからアスレチックとかに皆と行った時もとっても楽しそうでした!」
「なるほど、優子隊長はそういう体を動かす遊びなら来てくれそうなのか〜」
アレナと自分も楽しめる体を動かす遊びといったら……。
というより、優子のことを語るアレナはそれだけで楽しそうで。
多分、優子が楽しければ、アレナはそれだけで楽しいだろうから、優子に楽しんでもらえる遊びを考えればいいのかなと葵は思う。
(……なんか組手とか、打ち合いが思い浮かんじゃうんだけど、それは違う、遊びじゃない!)
ぶんぶん首を振って、しごかれている自分の姿を振り払った後。
「それじゃ、次はこの曲にしよ〜。アレナちゃんも聞いたことあるかな?」
「聞いたことあります。最近よくテレビや、街の中で聞く音楽です」
流れ出したイントロを聞いて、アレナが頷く。
「うん! 女の子2人組のアイドルの曲だよー。一緒に歌ってみよ♪」
「はいっ」
「目を見るだけで、不思議〜♪ 心がつながるの〜、不思議♪」
「〜不思議♪」
アレナはマイクを両手で持って、歌いだした葵に合せるよう、歌を歌っていく。
少しだけのつもりが、延長に延長を重ねて。
気づけば、遅い時間になっていた。
着替えて外に出ると、冷たい風がひゅーっと吹き抜けた。
「アレナちゃん、大丈夫? 風邪ぶり返したら大変」
軽く震えたアレナに、葵は心配そうに声をかける。
「大丈夫です。……調子悪かったの、風邪じゃ、ないみたいで……。もう大丈夫ですよ」
アレナは葵に微笑んで見せた。
「そっか、それならよかった。遅い時間まで付き合ってくれて。ありがとう♪」
葵はにこっと微笑んだ。
「実はストレスたまってて発散したかったんだ!
うん、明日もマジカル元気100%頑張るぞ〜」
「はいっ」
アレナはこくっと頷いた。
思い切り楽しい時間を過ごして、2人は宿舎へと戻った。
――それは嵐の前の楽しい、ひとときだった。
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