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若葉種もみ祭開催! ~パラ実分校学園祭~

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若葉種もみ祭開催! ~パラ実分校学園祭~
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第3章 若葉分校、校庭

 若葉分校のホールの外には、そこまで広くはないが庭がある。
 花壇には花が植えられており、分校生達が一応面倒を見ている為、それなりに綺麗に咲き誇っていた。あくまでそれなりに、である。
「さて、ゴミを焼却炉に持っていくぞォ〜」
「重くて台車にのっからねぇぜ」
「お? 動き出した。活きの良いゴミ屑だぜぇ」
 ホールの前で、分校生達がゴミを集めていた。
「お仕事お疲れ様です。ゴミ捨てですか?」
 ぽん。と、関谷 未憂(せきや・みゆう)は黒いごみ袋を結んでいる少年の肩を叩いた。
「委員長! そうっす、ゴミっすよ、きたねぇ、ゴミ屑ですぜ」
「委員長ではありません。役員ではありますけれど」
 未憂はどこか不機嫌そうだった。
 若葉分校生の中で、班長とかクラス委員のようなポジションにいる彼女は、当然のように文化際実行委員にさせられていた。立候補したわけではないのだが。
「それで、ちゃんとゴミは分別を……」
 と言いながら、未憂は黒いごみ袋の中身を確認する。
「なんですか、これは」
 袋を開けると、ゴミ袋を転ばせて中身を出す。
 袋の中には、紙屑のゴミと、缶類が一緒に入っていた。
「こっちはゴミではありません!」
 未憂はどさっと、もう一つのゴミ袋の中の物を落とす。
「ふぐおっ」
 中には、黒縁眼鏡の少年が入っていた。
 ホールから蹴り飛ばされて、ゴミ箱にホールインしたソレを、分校生達は冗談で焼却炉に運ぼうとしたらしい。
「せめて燃えないゴミと燃えるゴミの分別は行ってください。そして、ゴミではないものを焼こうとしないでください」
 笑みを浮かべていたが、未憂の目は笑っていない。
「洒落だよ、冗談!」
「冗談だとしても、せめて生ゴミ扱いでしょう、こちらは!」
 落ちている黒縁眼鏡の少年をびしっと指差し辛辣なことを言う、未憂。
「は、はい」
「了解っす、姐御」
 分校生達はゴミ袋を受け取ると、散らばったゴミを分別して袋に入れていく。
「なんかこえーな」
「アレはアレだ。アノ日ってヤツだ」
「そうか、アノ日か」
「そうそう、アノ日の女は面倒なんだよな」
 ぶつぶつとそんな会話をしながら、分校生達は働くのだった。
「……ったく、さっき行われたブラヌさん達の劇の内容も、聞きましたよ。神楽崎先輩をダシにつかったのですねー……」
 未憂はクリップボードに挟んである、学園祭の出し物のリストをめくる。
「最近調子に乗ってますよね、ブラヌさん。『願い』は神楽崎先輩監修『強化合宿』、生徒会役員全日強制参加って書いておきましょう。
 っと、ほらー! そこもまだ仕事の時間ですよ。サボっていたら午後の自由行動時間、返上してもらいますよ!」
 花壇の隅で、飲んだり食べたりしている役員を見つけて、未憂は掃除をするように指示を出す。マナーの悪い客も多く、放っておくとゴミ畑になってしまうのだ。
 さらに。
「てめー、ガンつけたな」
「あ? てめぇの汚ねぇ面なんか見るかよ、ハゲ!」
「やんのか、コラァ!」
「上等だ!!」
 勿論、ちょっとしたことで喧嘩も起こりそうになる。
「けんか……」
「プリム、お願い」
 ふうとため息をつきながら、未憂はパートナーのプリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)にお願いをすると、プリムはこくりと頷いて、眠りの竪琴で優しい曲を奏でた。
「……おやすみなさい。けんかは、ゆめのなかで」
 胸倉をつかみ合った男達は、そのまま抱き合うように倒れて、すやすや眠っていった。
 と、その時。
「てめーらー!!! イケてる美男美女仮装コンテスト始めるぜェーーー!」
 ホールの外に設けた特設ステージで、若葉分校番長の吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)が大声をあげた。
「仮装コンテストですか。ステージを設けられていたので心配していましたが、仮装コンテストなら、大丈夫ですね」
 未憂はほっとする。
 リサイタルなんぞ開かれてしまったら、閑散としてしまいかねないから。
 それならそれで、仕事が減って楽になるかな……とまで考えて未憂は自分の考えに首をかしげる。
(楽……? 学園際盛り上げたいのに)
 楽をしたい、休みたいとも考えている自分がいることに、未憂は不思議に思う。
「みゆう、てつだう?」
「あ、そうですね。協力しましょう」
 未憂は会場整理を、プリムは楽しそうな曲を弾くことにした。

「エントリーナンバー3 るんるんちゃんだ!」
 竜司のコールと同時に、プリムが明るい音楽を奏でる。
 企画者の竜司はコンテストには出場せず、司会に徹していた。
 この仮装コンテストは未契約者の地球人向けであり、地球から招いた地球人の少年少女が沢山参加している。
 地球人がどうやってここまで訪れたかについては、長くなるので割愛!
「るんるんでーす。魔女の格好をしてみました♪ パラミタの魔女さんってこんなカンジィ?」
 るんるんと名乗った地球人の女の子は、舞台でくるりと回って見せる。
 格好は日本で通販で買った魔女の格好だ。
「そーゆー格好してるヤツもいるなー。ぐへへ」
「これは俺からのプレゼントだー! 女は綺麗なものに弱いっていうからな!」
 ブラヌがステージに駆け上り、花束をプレゼントする。その辺に咲いていた花を束にしたものだ。
「うーん、ビミョー? でもありがと〜」
 るんるんは花束を受け取ると、観客に手を振った。
「続いて、エントリーナンバー4 オールバックくんだ!」
 次に舞台に現れたのは、オールバックの少年だった。
「……おとこの、こ」
 プリムは勇ましい音楽を奏でた。
「うぃーっす。パラミタの奴らってこんなカンジ? モヒカンとかスキンヘッドはちょっとなー、そんな頭だと進学に響くし」
 長い学ランを纏って、ポケットに両手を入れている。
 顔つきがお茶目そうで、不良っぽくは見えなかった。
「スキンヘッドはいいぞ、手入れが楽だからな! 鬘被ればどんな髪型にも対応可能だッ」
「無精な男に魅力は感じないわ」
 ブラヌにきっぱりそう言ったのは、シアルだった。
「あなた、なかなか良い感じよね。パラ実より薔薇学がお勧めよ。真似するのなら、パラ実生より吸血鬼」
 ブラヌを押しのけて、シアルは少年に声をかける。
「ぐへへへ、それじゃ、勧誘になんねェぞ」
 竜司は優勝者には『衣食住の保障』のプレゼント……若葉分校への入学の権利を掲げていた。
 既に若葉分校に所属している人には、若葉分校で超人気者になれるという特典があるそうだ。
 さらに、生徒会長のシアルに認められた人は、(彼女の恋人候補として)、喫茶店でアルバイトする権利も与えられる(かもしれない)という特典があるそうだ。
「学校の所属はパラ実以外で、若葉分校にも所属してもらうのがベストよ」
 シアルは真面目な表情で、仮装コンテスト参加者を値踏……見回している。
「さーて、続いてエントリーナンバー6、みかんちゃんだー!」
 次に舞台に現れたのは、ちょっと背の高い女の子だった。
 可愛らしい格好をしているが、キレイ系の女性だった。
「かわいいかっこうの、かっこいい……おんなのこ?」
 プリムはちょっと迷ったが、楽しい音楽を弾く。
「こ、こんにちは、みかんです☆ パラミタへはお婿さんを探しにきましたー」
「俺を探しに来たのか! そんなに言うのなら仕方がない。それじゃまずは文通から始めようぜ、これ俺直通アドレス! こっちにはサインを」
 ブラヌは結婚誓約書を取り出して、みかんちゃんにサインを迫る。
「はあい。パラミタでは〜、同性婚が認められてるそうなのでぇ、ここで素敵な恋人をみつけて、みかんは専業主夫になるんですぅ」
「なるほどなるほど。俺とは考えが違うが、そこは話しあっていけば……ん?」
 みかんちゃんに近づいたブラヌは、彼女の口の周りに黒いぶつぶつが多いと言う事に気付いた。そして彼女?の性別にも。
「うふふ☆ みかんこんなに積極的にされたの初めてっ。ブラヌさんに惚れてしまいそ〜」
 といいつつ、みかんはブラヌの連絡先を受け取り、結婚誓約書にサインをした。
「う、うん。応援するぜ、お前のこと……ただ、俺はノーマルなんだ。は、ははは。
 っと! そろそろバイク便の時間だ〜。番長! 女の子の写真と連絡先貰っておいてくれよな」
 ブラヌは結婚誓約書をくしゃくしゃにしてポケットに入れると、逃げるように走り去っていった。
「ブラヌは男に結構人気あるんだよなァ。イケメンのオレは男女ともに人気あるけどな!」
 竜司が笑い声を上げる。
「番長もおんなじじゃん。男の舎弟には人気あるけど……恋愛対象としてはねェ……」
 シアルの呟きは竜司の耳には入らなかった。

 そうして仮装コンテストは盛況のうちに終了し、若葉分校所属希望者も増え、シアルはイケてる美男数名の連絡先をゲットしたのだった。
 女の子達は、うん。共に訪れた地球人の男の子達と超仲良しになって帰っていった。

○     ○     ○


「地球人の仮装って、パラ実では普通の格好が多かったね!」
 ミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)は、喫茶店でもらったチーズを食べながら歩いていた。
「ミルミちゃん、ジャム落ちそうだよ。座って食べましょうー」
 一緒にいるのは、友人の牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)だ。
 アルコリアは、鈴子の側にいたミルミを連れ出して、川原の屋台や、イベントを見て回っていた。
「アルちゃん……もしかして、ミルミを食べる気じゃ」
 丸太の椅子に腰かけながら、ミルミがふふっと笑う。
「……っ」
 隣に腰かけたアルコリアは、にこーっとはにかむと、ミルミをむぎゅーと抱きしめた。
「ふほほ」
 ジャムでアルコリアの服を汚さないように、ミルミはジャムのついたチーズを自分の口に入れた。
「……」
 アルコリアはいつものようにミルミを舐めたり、甘噛みしたりすることはなく。
 ただ、黙ってぎゅーっと抱きしめていた。
「アルちゃん?」
 ちょっと不思議そうなミルミの声が響く。
「ん? え、あぁ……うん、ミルミむぎゅー」
 それは、いつもの強引なほどの強い抱擁ではなく、やんわりとした抱きしめだった。
「食べ終わった?」
「……うん。えっと、次は種もみ学院の方、行ってみようか?」
「そうだね」
 言って、アルコリアはミルミの手を引いて立ち上がり、一緒に歩き出す。
「……アルちゃん?」
「ん?」
「なんか、今日元気ない?」
 ミルミがそう尋ねると、アルコリアはミルミに目を向けて。
 また普通にミルミむぎゅーと抱きしめた。
「んーん、元気普通にあるよ?」
 バイク便の出発地点まで手を繋いで歩きながら、2人は楽しそうな人々や、賑わっている屋台を眺めていく。
「ミルミちゃん的には、こういうイベントどうなの?」
 ふと、アルコリアがミルミに尋ねた。
「皆楽しそうでいいよね。ミルミは家族とじゃこういうイベント行かないし、家族が決めたお友達とも行かないし、いつもと違う自分になって遊べて楽しいよ」
「そうなんだねー」
 お嬢様なミルミは、堅苦しいお茶会や、礼儀作法に厳しいパーティなどに良く出席させられるのだろう。
 こういうイベントは、別世界の出来事のように感じているのかもしれない。
「アルちゃんは……もしかして楽しくない? どこ見よーとか言わないし」
「そんなことないよ。私的には美味しいもの食べて、ミルミちゃんいれば幸せーだから、私の好み全開だと毎回そんなのになっちゃうからね」
 だから、こういう好みかどうか分からないイベントに誘ってみたりもするのだけれど。
「育ち方、生き方によって見えてる世界って違うと思うから、そういうのってわかると面白いなって思うの」
「そういえば、アルちゃんの家族のこととか、生い立ちとかミルミよく知らないんだよね。
 美味しいもの食べたり、親しい人と一緒にのんびりしていることとか、日常が幸せって思える人は……辛いこと沢山あった人なんだって、鈴子ちゃんから聞いたことあるよ」
 何故かよく分からないけれど、ミルミは手を伸ばしてアルコリアの頭を撫でた。そうしたくなって。
「アルちゃんには、どんな世界が見えてるのかな?」
 アルコリアは瞬きをした後、人々を、目の前に広がっている世界を見ながら言う。
「私の見てる世界はね、いろんなことあって全部楽しくて、全部下らないの。
 心ではね、みんなみんな楽しくて素晴らしくて、頭では詰らなくて下らないって感じてるの、両方ホントなの」
 そして、ミルミに目を向けてにっこり笑って。
 むぎゅーとミルミを抱きしめる。
「ただ、今日はちょっと感情が、心の方が表に出てるのかも。
 楽しくて、いつもみたいに照れてそれを誤魔化さなくてもいいかなってくらいには」
 そう言うと、ミルミの頬に顔をすり寄せて、いすものようにすりすりする。
「そかそっか、つまんないんじゃなくて、楽しいんだね。楽しくて感動しているアルちゃんなんだ、今日のアルちゃんは!」
「ふふふ……」
 ミルミの言葉にアルコリアは軽く笑みを漏らす。
「うん。そうなんです。……たまにはいいよね『私幸せです』的な事を口に出したって」
「いつもだっていいんだよ? アールちゃん♪」
 ミルミもぎゅっと抱きついてきた。
 いけないなんて思っているのは、アルコリア自身だけだということも分かっているけれど。
 許しを請いたいような、そんな気持ちがあった。
「ふー……」
 お風呂でゆっくりする時のように。
 アルコリアは大きく息をついた。
 心の中が満たされていき、穏やかな感情が広がっていく。
「それじゃ、種もみ学院へゴーゴー♪ あっちにはどんな美味しいものがあるかな?」
 ミルミがぐっとアルコリアの手をひっぱった。
「ミルミちゃんのお口に合う食べ物あるかな〜?」
 高級料理じゃないのに。
「こうして歩き回って、外で食べる料理って何故か美味しんだよね。
 だけど1人で歩き回っても、つまんないんだろうなーって思うよ」
 誘ってくれてありがとう! と、ミルミは笑顔でアルコリアを引っ張り。
 アルコリアは背後からまた、ミルミをむぎゅーっと抱き締めた。