リアクション
終わったかのように見えた戦いの宴。
だが、まだ終わりを迎えてはいなかった。
「――――ぁぁあああっと!」
「――――っ!」
二人の少女が、何もない空間から現れる。
少女二人を運んだ空間の綻びは徐々に薄れ、消えていった。
二人が着いた場所。そこには何もない、誰もいない、無機質な空間が広がっていた。
「……見渡す限り真っ白だなぁ」
腰ほどまで伸びるツインテールが特徴的な少女、小鳥遊 美羽が辺りを見渡して感想を漏らす。
「……」
それを無言で見つめるのは双盾を持つ少女、弩 重霧。
美羽の自然な立ち振る舞いから、強者の雰囲気を感じ取る。
「……貴方が……最後の相手ですか」
話しかけられた美羽も重霧から漂うオーラを感じ取りながらも、不敵に笑ってみせる。
「ふっふーん! そうみたいだね! 私は蒼空学園の小鳥遊 美羽だよ!」
「弩 重霧……です」
どうしてこんなところへ来たのか。二人にとってそれは重要なことではない。
重要なのは、この相手に、如何にして勝つのか。それだけだ。
「……誰が相手だろうと……私がするのは……護り潰すのみ、です……」
対の盾、『凡護』と『無畢』をどっしりと構えて、臨戦態勢に入る重霧。
「それなら私は誰が相手だろうと! 攻め潰すのみ!」
その容姿とは裏腹に完成された超人的肉体にやる気を注ぎ、しっかりと重霧を見据える美羽。
この何もない空間は最後の宴の場。
誰にも邪魔されない、介入されない、濃密で贅沢すぎる最後の戦い。
全学最強 契約者代表『小鳥遊 美羽』 vs 三千界最強 特異者代表『弩 重霧』
勝つのは怒涛の攻めか、堅牢な護りか――――。
その戦闘はゴングの音も、開始の合図もなく、極自然に開始された。
「私の攻めは先手必勝!」
真っ先に動いた美羽。その移動速度は信じられないほど素早く、目で追うのも難しい。
だが護りに徹する重霧には見えている。盾の後ろから美羽の動きを注意深く観察する。
「ちょっと眩しいよ!」
光精の指輪から光の人口精霊が現れ、突如として周囲を照らす。
盾の後ろ側で目を細める重霧だが、盾を握る手には力が込められている。
目を細めている重霧を確認した美羽が、試しに自重を豊潤に乗せた右足で思い切り盾を蹴りつける。
「……やっぱりじーんとする〜!」
だが、痺れを感じたのは美羽だった。重霧を護る二対の盾を突破すること、容易ではない。
攻撃の手を緩めた美羽を見た重霧が反撃を開始。
会得した武術の心得を自分の頭の中で反芻させながら、美羽の足目掛けて鋭い蹴りを放つ。
その動きを予測していた美羽はあえて受け止める。
「……!」
「覚悟を持ってして相手を制す!」
「ぐっ!」
重霧の左腹部に美羽の痛烈な蹴りが炸裂。この瞬間、チャンスを逃さず美羽は更に攻め立てる。
一方の重霧もすぐさま盾での護りに回るが、左腹部に走る痛みに、うまく踏ん張ることができない。
「護り潰さないなら、このまま攻め潰しちゃうんだから!」
「……」
じりじりと追い詰められていく重霧。と、美羽の蹴りが重霧の腕と『凡護』を弾き、ガードを空ける。
トドメの一撃、と言わんばかりに更に一歩踏み込んだ美羽。
だが、次の瞬間美羽の体中をアラートが駆け抜ける。
重霧は踏み込んできた美羽を見て、『無畢』を何よりも強く握り、最速で突き出す。
何のことはない盾での攻撃。しかしそれの真の目的は、怯み。
「……手応えが、薄い」
「こ、れくらい!」
重霧の反撃、並みの相手ならばこれで終わっていたほど見事な一手。しかし。
相手は並みではない。最強を手にした者、小鳥遊 美羽が相手。
美羽は即座に後退を決断。だが、後退前に重霧から蹴りをもらう。それは奇しくも同じ左腹部。
「お、おかえしってやつ……?」
「……目には見えない、護りですか」
「あたたっ……バレちゃった? まあでももう関係ないよね! ……全力で行っちゃうんだから!」
「……面白い、です……何があろうと……護り切って見せますです」
再び二対の盾を構える重霧に対し、美羽はまたも不敵に笑って。
手にしていた腕時計に手を伸ばした。
刹那、美羽の姿が消える。いいや、そう見えただけ。実際には存在している。
だが、あまりの速度に重霧は美羽の姿をほとんど見失っていた。
それでも重霧は退かない。あくまで盾士として、相手の攻撃を受けきり、そして潰す。
それが彼女の信ずる戦い方。
1秒――――――
美羽が重霧に蹴りを放つ、放つ、放つ。
2秒――――――
先ほどの攻防よりも更に疾く、重く、鋭い蹴りが重霧の盾へ無数に撃ちこまれていく。
3秒――――――
次第に重霧の手は麻痺していき、利き手ではない手に持っていた盾を手放してしまう。
間髪入れず、護りの薄くなったところへ美羽の蹴りが鞭のように襲い掛かる。
4秒――――――
それでも重霧の瞳は死なない。腕、足を中心に蹴りの嵐にその身を晒すが、盾だけは手放さない。
両手で盾をしっかり握り締め、この乱舞が終わったその一瞬に、全てをかけるため。
長い長い数秒間を相棒と共に護り続ける。だが、
盾が。
弾かれ、重霧の姿が露わになる。
「―――5秒! これで、終わり!」
美羽のラストの一撃。狙いは重霧の頭部。空気を押しのけて、風切り音を鳴らす勢いで放たれた蹴り。
「……そうは、いきません!」
その攻撃を、最後の力を振り絞ってしゃがんで受け流す重霧。
紙一重、だが美羽の攻撃は重霧の頭部をかすめるだけに終わる。
弾かれた盾と自分の腕をなりふりかまわず強引に戻して、攻撃し終わった美羽の腹部目掛けて盾を突き出す重霧。
「……それも、予測してたよ」
「……! き、え」
重霧の前から美羽が消え、よろける重霧。美羽はどこへ。
「これでぇ……本当に本当にぃー……!」
重霧の背後から美羽の声が聞こえる。慌てて重霧が振り向くと、瞬間移動で背後に回りこんだ美羽が駆けてくるのを視認する。
先ほどよりも遅い速度。しかし重霧の体も鉛のように重く、対応が間に合わない。
「終わりなんだからぁー!」
自分の体の鈍さも忘れた美羽が跳び、右足を突き出して重霧の顔面をとらえる。
モロに攻撃を受けた重霧。護りの達人である彼女だが攻撃を受けてしまっては意味がない。
最後に美羽のスカートの中をぼんやりと見た後、重霧は意識を失った。
全学・三千界最強者 小鳥遊 美羽
数十分後。美羽の介抱により重霧の意識が戻った。
「おっ、おはよー! 大丈夫だった?」
「……問題ない、です」
「そっか! でもすっごい護りだったよ! 一瞬だけ、崩せないかもなんて思っちゃった」
「……重霧は、負けてしまった……ですか」
美羽の膝の上で、右手をかかげてぼんやりと見つめる重霧。
そんな重霧に美羽がふっふっふ、と笑った後にこう言った。
「実はね……私も鉄壁のスカートを穿いてるんだ〜。だから、私の鉄壁勝ち? なーんて……」
「……? ……先ほど、なんとなく……見えましたが」
「えぇ〜!? 嘘だよー! ……ほんとに?」
「……ぼんやり、ですが」
重霧の言葉を聞いた美羽が悔しそうな顔をする。
「うぅ、まさか見られちゃうなんて……これが強者の実力なのかな……」
「……関係ないと、思います」
そんな風に、二人がしばらく話していると、何もない空間が歪んでいく。
左に一つ。右に一つ。
左には空京スタジアムが、右にはワールドホライゾンが見えていた。
「ん〜! お迎えが来たみたいだねっ。重霧ちゃんとの闘い、すっごく! 楽しかった!」
「……次は美羽に……護り勝ちます」
「うんっ! 私も次はぜ〜ったい、スカート見られないように勝っちゃうから!」
そう言って、二人は視線をかわす。最後に―――。
「またいつか会おうね。戦ったり、のんびりしたり、色々しようっ!」
美羽は特大級の笑顔で。
「……はい、です」
重霧は精一杯の小さな微笑で。
約束の握手をして、それぞれの世界へと戻っていた。
この何もない地で、また誰かと誰かが心から楽しんで戦えることを、祈ります――――――。
ご参加いただきありがとうございました。
執筆を担当しました、森水鷲葉(もりみずしゅうば)です。
このたびは、リアクションの公開が遅くなり、申し訳ありませんでした。
参加者の皆様には、大変、ご迷惑をおかけいたしました。
■
今回のシナリオでは、まさに夢の対決、といった形で、
たくさんの胸躍る戦いがありました。
『蒼空のフロンティア』も最終シリーズですが、
そのスタートにふさわしい、力のこもったアクションを多数いただきました。
最初期から参加しているマスターのひとりとして、
今回、こうして皆様の戦いを描かせていただけたことは、とても幸せでした。
本当にありがとうございました。
『蒼空のフロンティア』最終シリーズ、
引き続き、皆様とともに、思い出に残るものにさせていただければと存じます。
どうぞ、最後まで、何卒よろしくお願いいたします!
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本大会優勝者の方に関連したオリジナルスキルが入手可能な
本選出場者の方が登場するキャラクタークエストの公開は3月中を予定しております。
また、クリエイティブRPG『三千界のアバター』で同日開催される、トーナメントシナリオの優勝者とのエクストラマッチについて、シナリオガイドでは「後日、特設ページにて公開されます」となっておりましたが、予定が変更となり、
3月中に本リアクションの最終ページに追加される形での公開となります。ご了承下さい。
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■3月19日
エクストラマッチのページが追加されました!
また、小鳥遊美羽様には関連した称号をお贈りさせていただいております。
こちらの執筆は流月和人マスターとなります。