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魂の研究者・序章~それぞれの岐路~

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魂の研究者・序章~それぞれの岐路~

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 第3章 『未来』の話は後半で

(ま、まさか、そんな事が起こるとは……)
 フィアレフトの話を聞き終え、誰もが口を噤んでいた。大なり小なり、話の内容を受け止め、考えを纏めるのに時間が掛かっているのだ。それだけ彼女の話は突飛であり、現実離れしているように感じられた。勿論、100%有り得ない、とは言えないのだろうが――
 マニュアル作成の手を止め、エヴァルトもまた少なからぬ驚きを感じていた。同じリビングに居る以上、話は否応なく聞こえてくる。
 その中で初めに声を発したのはやはり朔だった。
「分かった。私も協力しよう……その『未来』も防げるなら防ぎたいし、ピノくんが死ななくても未来を変える方法があるかもしれない。というか、今の話を彼女にすればそれで済むんじゃないか? 未来を知った彼女が『行動』を起こさなければ……」
「はい……その可能性はあると思います。でも、それで殺される危険を知ったピノさんが明るいままでいられるのか、といえば難しいと思います。だから、彼が現れるまでは――」
 全員の視線が、自然と玄関のある方へと向けられる。
 呼び鈴の軽快な音が響いたのは、それから間もなくのことだった。

              ⇔

「イコン部品盗難事件についての心当たり?」
「……も、あるが、さっき言った通り、巨大機晶姫の左足が盗まれた件についての心当たりだ」
 ファーシーの家に着いたレン達は、落ち着くと共にラス達に用件を伝えた。エヴァルトもまさか、と話に入る。
「それって、いつぞやの未完成の、破壊されてつま先しか残らなかったあれか?」
「……ああ、そうだ」
 レンが答えると、エヴァルトはどこかはっとしたような顔になった。と同時、メティスを含めた3人の間に何となく気まずい空気が流れる。その理由が解らず訝しみながらも、ラスはレンに確認した。
「要するに、盗難事件についての心当たりだろ。つーか、巨大機晶姫の足って何の事だ?」
「知らないのか? ……そういえばあの時、同行していなかったな」
 今回の子守を放り出すわけにもいかないが、次はつま先の事件を追わないといけない――そう思っていたエヴァルトは、意外に思いながらも当時の事を思い出す。確かに、あの地下探検行にラスの姿は無かった。つま先の説明からする事になるとは思っていなかったレンも、その時のメンバーを思い出しつつ記憶を探る。
「どうしてだったか……。ああそうか、あの時はミイラに……」
「ミイラって言うな! ……んで? 結局その足って何なんだよ」
 ラスに続いて、フィアレフトも興味を持ったようでレン達に訊ねる。
「私も気になります。左足とかつま先って何の事ですか? 巨大機晶姫って、何があったんです? ミイラって……」
「ミイラはいいから」
 かくして、レン達はかつてパークス――ファーシーの故郷の地下に作られていた製造・研究施設について。そこに遺されていた巨大機晶姫について。その作製理由と、ファーシー、アクアとの関係性について。最後に、その機体が何故壊れたのかを、順番に語った。
「……そんなものが……」
 それを『物』と呼んでいいのか『者』と呼んでいいのか判らないままにフィアレフトは呟く。自身の過去についても、本当の父親についても、ファーシーは娘に殆ど話していなかった。『かっこよくて、優しい人だったのよ』と笑って言うだけで。笑顔の奥に深い何かが隠れているようで、それ以上の事は訊けなかったけれど。ファーシーが語れなかった理由が、話を聞いて少し解ったような気がした。その『戦争』でファーシーと父――ルヴィの間に何かがあったのだ。言葉にすると辛くなるような、何かが。
「ふぅん……破壊、ねえ……」
 一方、ラスはどこか冷ややかな視線をレンとメティスに向けていた。真っ向から否定しようとも思わないが、だからと言って「気にするな」という気分にもならない、そんな行為だ。私利私欲の為の破壊では無いようだし、他者の為にそこまで実行する、というのはある意味で凄いとも思うが。
 否――巨大機晶姫を戦闘に使って欲しくないというのは、使命感と同時に2人の私欲でもあったのかもしれない。
「私は……哀しく思っています」
 話の間、ずっと顔を伏せていたメティスがゆっくりと話し出す。
「今回の件は、亡くなった人の墓を暴くような行為です。犯人の目的が何であれ、決して容認してはいけないことだと思います。その上で、もし……もし、レンの推察が当たっていたら、私が何としても食い止めてみせます」
「推察……ですか?」
「ああ、まだ話していなかったな」
 フィアレフトを始め、何の事かという顔の皆に対してレンは再び説明した。環菜と陽太に話したのと同じ危惧を伝えると共に、皆の顔が緊張を孕んだものになっていく。『悪意』という言葉には、それだけの力がある。
「……ようやく、なんですよ?」
 そう言うメティスの声は、僅かに硬い。
「色々苦労して、ようやく皆が手に入れた穏やかな日々――その、大切にしなければいけない時間が壊されて良い道理はありません」
 悲哀の中に犯人への憤りと決意を滲ませて話したメティスは、昼寝中のイディアの頬にそっと手を置いた。彼女達が来る前にお腹いっぽいごはんを食べたということで、日常とは離れた話が続く中で満足そうな表情を浮かべて眠っている。
 指先に『生』の証である温もりが伝わってくる。そのあたたかさを感じながら、メティスは静かに寝息を立てている口元を見て強く願う。可愛いこの娘に幸せな未来を見せてあげたい、と。
「――私が、必ず守ります」
「…………」
 それを聞いて、フィアレフトはきゅっと唇を引き結んだ。メティスの決意が、心に痛い。つま先の件は兎も角としても、この時代の家族達に――仲間に、トラブルを引き込もうとしているのは多分自分達なのだ。
 そう考えた瞬間、彼女は1つ、ピンと来た。だが、本当に“そう”なのか判らずに考え込む。その向かいで、レンは改めての問いを投げかけていた。急に来て事情を話せというのは悪いかとも思うが、一応確認する必要はある。
「で、心当たりは無いのか? 俺が気を回し過ぎなだけなら変な話をして申し訳なく思うが、もし思い当たる節があるなら話をして欲しい」
「知るわけないだろ。ただの偶然じゃないのか?」
 黙ってしまったフィアレフトの隣で、どうでも良さそうにラスが言う。つま先の事件にはあまり興味が湧かないらしい。
「大体、こっちはそれどころじゃねーんだよ」
「それどころじゃない? 何かあったのか」
「何かっつーか、色々、今年の事とか……あー……フィー、お前話しとけよ。ちょっと、親父に電話してくるから」
 携帯電話を持って立ち上がると、ラスは2階へと上がって行った。一瞬だが、その表情に不安めいたものを見て取ってレンは呟く。
「どうかしたのか?」
「あ……えっと、さっき、不吉な話をダブルで聞かせてしまったので、サトリさんの事が気になるんだと思います。大丈夫だとは思うんですけど……」
 別の未来に同じ結末を辿ったと聞けば、電話の1本もしたくなるだろう。満月はサトリの死にまでは触れなかったが、詳しく聞けば『サトリも死んだ』と答えるのではなかろうか。それが、ラスにも分かったのだ。
「実は、今年……」

 ピノ達が帰ってきたのは、その話が終わって10分程が経過した頃だった。
「ただいまー! 公園で遊んでたら遅くなっちゃった。あ、今、レンさん達と挨拶したけど、来てたんだね!」
「また戻ってきますよ。冷蔵庫の食材が足りないって買出しに行かれたので……」
 犬形態に戻ったミンツ、ブリュケと一緒に洗面所に行き、手を洗っているピノにフィアレフトは声を掛ける。
「食材?」
「はい。夕食を作るって言ってました」
「夕食? ……そっか、いつもはファーシーちゃん達の分だけしか材料ないもんね!」
 納得したらしいピノはリビングに戻り、続き部屋になっている隣の部屋へ行くと設置してあるこたつに入った。外ですっかり仲良くなったらしいブリュケも一緒に入る。
「ブリュケ君、ごはん楽しみだね! レンさんのお料理、美味しいんだよー」
『…………』
 こたつに置かれたお菓子を食べる2人の組み合わせに、朔と満月、エヴァルト、1階に戻っていたラスはつい注目してしまっていた。先程聞いた話を思い出しながら、声には出さないままフィアレフトに問い掛ける。4人の視線を受け、彼女はこくこく、と頷いた。そんな皆の様子を不思議に思いつつ、ルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)とつい先程訪れ、ミニ機晶犬『うー』の調整をしていた隼人・レバレッジ(はやと・ればれっじ)は彼女に言う。
「なあ、君はうーに追加すると良さそうな機能って思いつくかい?」
「追加機能、ですか?」
「ああ。これから少しずつ、増やしていこうと思ってるんだ」
 夏にこの家の一員となった『うー』は、優斗のパートナーが製作したものだ。今日はその製作者に頼まれてメンテナンスをしに来たのだが、ある程度自分達で改造してミニ化させたこともあり、これからも継続して関わっていこうと思っていた。
「一応、今、候補として考えているのは、録音した童話を流すとか、イディアちゃんが危ない目に遭いそうな場面を目撃するとアラートが鳴ったり、登録した人物へ通信が飛ぶ機能とか……まあ、そんな感じかな。イディアちゃんの成長に合わせて、『うー』も成長させていこうと思うんだよね」
 ファーシーにも帰ってきたら尋ねてみようと思っていたが、フィアレフトの意見も聞いてみたい。
「んー……あと、増やすんだったら、録画機能とかでしょうか。記録が残っていると、何かと便利ですから」
 何かを思い返すような表情をしてから彼女は答える。それから、「役に立たない方が良い機能ですけど」と付け加えて苦笑する。
「……でも、あればいざという時に便利だよな」
 苦笑を返しつつ、フィアレフトの提案を記憶に留める。そういえば、この子とはあまり話したことが無かったなと思った隼人は、続けて彼女と話をすることにした。
「そうだ。この前、雪が降っただろ? その日、ルミーナさんと2人で外を歩いていたんだけどさ……」
「ふふ、あの雪像の事ですね。着色までされていて驚きましたわ」
 何を話そうとしているのか分かったのか、イディアを撫でながらルミーナが微笑む。
「つい立ち止まって見てしまったんです。写真も撮ったんですよ」
 携帯電話に保存された画像には、本物と見紛うような見事な雪像がいくつも保存されていた。その出来の良さに、フィアレフトは「わぁ……」と声を上げた。普通の住宅街に並んでいるのに、何かの企画物のようだ。
「俺達も帰ってから作ろうかとチャレンジしたんだけど、割と普通の雪だるまになっちゃったよな」
「難しいですよね。私も小さい頃、雪がたくさん降った時は夢中になって像を作りましたけど、こんなに細かい模様はつけられませんでした」
 頑張って作っていて、手伝おうとしたファーシーに残念な感じにされたこともあった。
「フィアレフトさんの故郷はどんな所なんですか?」
「私の故郷……ですか? そうですね……」
 ルミーナの言葉に、フィアレフトはうーん、と考える。
「過ごしやすいし、楽しい場所でしたね。少し遠出すれば自然もいっぱいありましたし……その辺りまで行くと野生のモンスターとかも出て危ないんですけど」
 ここですとも言えないし、とツァンダでの日々を思い出して子供時代に感じた事をそのまま話す。その時、レン達が食材を買って戻ってきた。
「夕方になってしまったな。ファーシーが帰ってくるまでには間に合うと思うが……」
 ネギやごぼうがはみ出た大きな袋を持った彼は、時計を見て少し黙考してからフィアレフトに言った。
「フィアレフトと言ったか。俺の料理を手伝って貰えると助かる」

              ⇔

「アイビス……もしその心当たりが当たっていたとしたらどうするの? フィアレフトさんがあのイディアちゃんの未来だって言うのは……」
 その頃、ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)と2人でツァンダの住宅街を歩いていた。フィアレフトに確かめたいことがある、とアイビスが言い出したのは数時間前の事だ。彼女の勢いにつられてここまで来たが、思いもかけない関係性を示されたルシェンは戸惑いを隠せなかった。まさかという気持ちがまだ強く、本人に確認する、ということに躊躇を覚えてしまう。
(……でも、確かに何処か私の事避けてるというか、恐れてるというか……)
 ふと、泣き顔になるイディアの姿とフィアレフトが重なった。それと共に、これまでの彼女達の様子を思い返しているとそこでアイビスが口を開く。
「そうしたら、彼女を安心させてあげたい、かな。きっと、不安なこともあると思うから」
 そして、彼女は立ち止まる。
 話しているうちに辿り着いた一軒家からは、何人かの声が漏れ聞こえてくる。フィアレフトの居場所を確認しようとファーシーに電話した時、子守を頼んだと聞いて来たのだけれど子守は1人ではないらしい。
 何をやってるのかな、と思いながら、アイビスは来訪を知らせる釦に手を伸ばした。

「ドルイド試験?」
「うん! 今月に受けるんだよ!」
 夕食作りの手伝いをしているという事で、フィアレフトはリビングに居なかった。朔を始めとした何人かがイディアに絵本を読み聞かせている横で――登場人物毎に役割を振って読んでいる――ルシェンは玄関で出迎えてくれたピノと話を続けていた。アイビスと共に読み聞かせに参加しようとしたが、前に座ったところでイディアが泣きかけて慌てて離れたのだ。
「そう。ドルイド試験……どんな生物を充てられるかは分からないのね」
 瞳をきらきらさせて言うピノは、気負った様子も無く試験への期待を膨らませているようだった。心からドルイドになりたいという気持ちが伝わってくる。彼女には受かって欲しい。何かアドバイス出来ることはないかと考え、ルシェンは言った。
「どの種類の生物が来ても、絶対守ってほしいのは『決して恐れちゃいけない』って事ね」
「? 動物さんは、可愛いよ?」
「生物は可愛いばかりでもないからね」
 きょとん、とするピノに、ルシェンはどう説明しようかと少し考えてから話を続ける。
「外見もそうだし、肉食だったり、そもそも人に好意的ではなかったり。でも、分け隔てなく対等に接してあげれば向こうもきっと分かってくれる……筈」
 つい、最後の方で断言出来なくて目が泳ぐ。
「筈?」
「あ、だけど、ピノさんなら『筈』じゃなくてちゃんと分かってもらえると思うわ。……私の場合はよく解らないけど、向こうが怯えるのよね。……そんなに怖い雰囲気出しちゃってるのかしら。イディアちゃんには相変わらず泣かれちゃうし」
 つい先程のイディアの様子を思い出してとほほ、と心で涙する。じーっとルシェンから目を逸らさずに話を聞いていたピノは、小首を傾げてイディアと彼女を見比べた。「んー……」と何事かを考え、ルシェンに言う。
「目をつぶってれば恐くないから大丈夫だよ!」

(読み聞かせかあ……、楽しそうだな)
 皆の声を聞きながら、フィアレフトはのんびりとそんな事を思った。いつの間にか手が止まっていたのだろう。隣で菜箸を動かしていたレンが声を掛けてくる。読み聞かせに参加したがっている、と思われたようだ。
「すまないな。量が多くなりそうだったから手伝いがほしかったんだ」
「いえ、料理をするのは好きですから。あの、それで、レンさん……」
「ん、何だ?」
 視界の片隅で鍋の具合を見ながら、フィアレフトはここでレンに話しておくことにした。ピンときたその直感が正しければ、彼が話を聞きに来た盗難事件も無関係ではないかもしれない。
「巨大機晶姫のつま先の件ですが、もしかしたら彼が関わってるかもしれません。……えっと、私が未来人だということは、おじさんについての話で分かってますよね。朔さん達には話したんですけど、私が警戒しているのは……」

 料理が出来るまでという制限時間付きだっただけに、朔達に話した時より多少大雑把になってしまったのは否めない。必要な事は伝えられたと思う。ただ――
(私がイディアだってことは、何か伝えそびれちゃったな……)
 ここまで話して今更隠すことも無いのだが、犯人“かもしれない”者の名前や未来の世界情勢について話していたら言いそびれてしまった。自分でも驚いたが、事情を説明するだけなら正体を明かさなくても問題無く出来てしまうのだ。
「フィアレフトさん」
 アイビスに名を呼ばれたのは、テーブルにお皿を運ぶ、その最中の事だった。子供達2人にはそれぞれ1人ずつが付き、食事の準備の手伝いで他の皆は動いている。誰かが誰かに注目することの無いような状況の中、アイビスは続けて彼女に言った。
「あなたに1つ聞きたい事があるの」
「……分かりました。ちょっと待ってください」
 言葉の調子から、それが雑談の粋を超える何かだと気付いたフィアレフトは食器を置くと室内をきょろきょろと見回した。ベランダに出るか2階に上がるか一寸迷って、階段を上る。薄いガラス戸を隔てただけの場所より、個別に扉がある空き部屋の方が良いだろうというのもあったし、外は寒いという純粋な理由もあった。
 何となく、自分が“以前”使っていた部屋を選んで中に入る。ベッドがあるだけの殺風景な室内で向かい合うと、アイビスはこう切り出した。
「ええと……イディアちゃんだよね?」
 一瞬驚いてから、フィアレフトは頷いた。既にこの家に居る殆どが知っている事実だが、ピノの存在を考えると2階に来て良かったとも言える。
「……はい。でもどうして……」
「イディアちゃんと同じ、『機晶石』の反応がしたから」
「機晶石……?」
 フィアレフトは手を胸に当て、視線を落とす。それは、思いもかけなかった言葉だった。
「あなたが近付くとイディアちゃんが泣き出すのは、恐らく、自分と同じ『機晶石』を感じ取ってるからだと思うの。私達機晶姫の『機晶石』は、決して同じ物は存在しない、人格や生命そのものですから」
「……そうか……」
 胸に右手を当てたまま、これまでの事を振り返る。そう考えると、確かに奇妙な感覚が無かったわけではない。子供は感覚が鋭敏だ。その為、フィアレフトが気にしない程度の共鳴でも不快に感じていたのかもしれない。
「私は、緊張してたから分からなかったんだ……」
「あなたは何をしに……ううん、何かを『護る』為にこの世界に来たんだと思うから……」
 小さく首を振ったアイビスは膝を落とすと、まだ驚きの中にいる彼女に微笑みかけた。
「あなたは1人だけじゃないという事を忘れないでね。どんな時でも、違う世界でも、私にとって大切なお友達だからね?」
「…………」
 目的をあえて聞かなかった彼女の優しさを、協力出来るという気持ちを感じる。茫然とした表情のままアイビスを見返していたフィアレフトは、やがて、彼女に笑顔を返した。
「……ありがとうございます」
 機晶姫であるアイビスが、いつまでも仲間と過ごせる未来。この『世界』をそんな未来にするという心を新たにする。

「わー! すっごい美味しそう! これレンさんが作ったの?」
 部屋を出ると、階下からはファーシーの声が聞こえてきていた。
 話をしている内に、帰ってきていたらしい。階段を降りながら、フィアレフトは言う。
「私も手伝ったんですよ! さあ、冷めないうちに食べましょう!」