リアクション
「ダリル! 大丈夫か」
 アレナを抱きしめて連れ出した康之が戻った時、ダリルは波動から2人を守るために、扉の近くで待っていた。
「大丈夫だ……お帰り」
 攻撃を逸らせながら、ダリルは2人に笑みを向けた。
「一先ず、離れよう! あの封印もアレナには無用の長物だ」
 康之はダリルの腕をつかみ、意思の力を爆発させ、噴射機を発動してその場から離れた。
「アレナ……いや、お前だけではない」
 ダリルは康之の腕の中のアレナを見てから、何も存在しない空を見上げた。
「この世界をつかさどっているアレナ。お前は、どうしたい? あの星弓の封印を」
「……いら、ない」
 康之の腕の中のアレナが、そう答えて……消えた。
「アレナ!」
「この世界と……アレナの精神と一体化しただけだ」
「わかってる。けど、心臓に悪いぜ」
 康之は懐中時計を一人で握りしめ、虚空を見つめた。
「ねー、アレナちゃん消えちゃったんだけど、大丈夫だよね?」
 続いて葵が近づいてきた。
「大丈夫。封印されていた彼女の心と、今までのアレナの心が一つになったんだ」
 康之は黒い炎に覆われた扉の方に目を向ける。
「アレナはいらないと言った。アレナがいらないのはズィギルの封印だ。普通の剣の花嫁になるにせよ、十二星華としての使命を背負い続けるにしても、あの封印だけは不要だ!」
「……そうだな」
 ダリルはアレナが自分の体内にある星剣を必ずしも復活させたいと思っていないことを知っている。
 光条兵器を出せるようになりたい。
 だけれど、彼女が欲しいのは星剣ではない。普通の光条兵器だ。
「星弓もアレナの一部で否定すべきものではないし、星弓があろうとも神楽崎の剣として生きる事は可能だと思うんだがな」
 軽く苦笑しながら、ダリルは康之と共に黒い炎で覆われた扉のもとへ飛んだ。
「だが、元々は十二星華ではなかったのなら……星弓は返してもいいのかもしれない」
 アレナがそれを望むのなら。
 パートナーの神楽崎優子も望むのなら。
「アレナの決意をふいにはさせない!」
「ズィギル……」
 扉の側には、出てきたばかりの呼雪と、今にも消えそうなユニコルノがいた。
 呼雪は、自らの想いのたけを、ズィギルの封印に向けて、撃ち込んだ。
 だが、呼雪の身体から離れた途端、矢は消えてしまう。
「もっと、接近しなければ……」
「呼雪」
 呼雪を庇うために、ユニコルノが前に出る。
 波動が彼女に襲いかかる。あと一撃、受けてしまったらユニコルノの心は消滅してしまう……。
「行くぞ! あれはアレナの身体の中に、残しておく必要はない!」
 康之とダリルが2人の前に出た。
「これで、最後だ」
 ダリルは意思の力で長く大きな大剣を作り出し、波動を浴びながら扉に叩きつけた。
 攻撃が止んだ隙に、康之と呼雪は精神波を放つ。
 その2人が放った波動が、ひとつの姿となった。
 それは――今の、アレナ・ミセファヌスの姿。
「はああっ!」
 幼い姿になってもダリルは大きな精神の剣を操り、ズィギルの封印に叩き込んでいく。
「お前の満たされなかった思いは、俺が引き受ける! いつか生まれ変わった時に、明るい道を歩めるように」
 ユニコルノを残し、呼雪が扉に接近する。
「あなたも悲しみや寂しさに囚われていたのでしょうね」
 攻撃をするだけの精神力がないユニコルノは、ただ扉を見つめていた。
 ダリルが繰り出す精神と康之と呼雪の精神は、アレナに導かれて黒い炎に覆われた封印にぶちあたった。
「でも、今はもう、どうか錆びついてしまった想いを解き放って」
 ユニコルノが目を伏せた。
 黒い炎がはじけ飛び、扉は消し飛んだ……。
○     ○     ○
「呼雪……ユノちゃん……」
「ダリル……」
 大切なパートナーに呼ばれて、呼雪とダリルは目を覚ました。
「はあああ……心配したよ。ユノちゃんはまだ目を覚まさないけど、大丈夫かな?」
 
ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)は、呼雪に腕を添えて起こした。
「少し、時間がかかるかもしれない。でも、大丈夫だ。……ありがとう」
 自分に精神力を送りつづけてくれていたであろう、ヘルに呼雪は礼を言った。
「うん♪ 皆から話聞いたよ。アレナちゃんの目覚め、楽しみだね」
 呼雪は穏やかな顔で頷いて、眠ったままのユニコルノのことを、軽く撫でた。
「アレナは」
 目覚めるなり、ダリルはアレナの姿を探した。
「大丈夫、もうすぐ目を覚ますだろうって、彼女の師匠が言ってたわ」
 答えたのは、
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)だった。
 ダリルから話を聞き、駆け付けたルカルカは、ヘル同様、ここでパートナーに精神力を送り、サポートをしていた。
「……おはよう、アレナちゃん!」
 葵はベッドの傍らで、アレナの帰りを待っていた。
「葵、さん」
 目を覚ましたアレナが、不思議そうな顔で起き上がる。
「私……私……は」
 次の瞬間、アレナは戸惑いながら自分の手を見た。
 何かが違う。
 その理由はわかっている。
 自分の身体の中に手を伸ばして、ずっと掴めなかったものに触れた。
「葵さん、私、私は……」
「アレナちゃんは、アレナちゃんのままだよ。もし、これから優子隊長と会って、アレナちゃんの外見や性格が変わったとしても私達の友情は不変だよ♪」
 葵のその言葉に、アレナの緊張した顔が少し和らいだ。
「アレナ」
 康之が腕を伸ばして、アレナを抱きしめた。
「どんな風に変わっても、アレナはアレナ……俺にとって世界で一番大切な女の子に変わりはないんだ」
「……康之、さん」
 アレナの腕が康之の背に回った。
 彼女は少し震えていた。その震えが止まるまで、康之はアレナを優しく抱きしめていた。
○     ○     ○
 その日も、
神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)は通常通り、仕事をこなしていた。
「優子さん」
 友人達と共に、優子の元に戻ったアレナは、迷わず優子に飛びついた。
「アレナ、仕事中だぞ」
「緊急事態なので、いいんです。私、決めました」
 優子を放して、アレナはまっすぐ優子を見つめた。
「私は優子さんの剣の守り手です。女王様にお仕えしているのは、優子さんがロイヤルガードとして働いているからです。私の人としての使命は、あなたの剣を守ること。
 そして、人として普通の幸せも優子さんや大好きな人達と、築いていきます」
 彼女中に存在していたが、抑えられていた気持ちが、表に出ていた。
 優子と触れ合っても、アレナの外見は変わらなかった。
 それは……。
「わかった。これからもよろしくな」
 優子は優しく微笑んだ。
 アレナは、優子にとって既に大切で、大好きな、なくてはならない存在になっている。
「はい! 私は……あなたを、大切な人を、守りたい」
 そしてまた、アレナは優子を抱きしめた。
 言えずにいたけれど、今まではずっと優子に抱き締められたい、甘えたいと思ってきた。
 だけれど今は――抱きしめたい、守りたいという気持ちが、強くなっていた。