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栄光は誰のために~火線の迷図~(第1回/全3回)

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栄光は誰のために~火線の迷図~(第1回/全3回)

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 その頃、樹海の外では、教導団の生徒たちが続々と樹海へ送り込まれていた。輸送用の小型トラックは三十台ほどあるのだが、人も物資も運ぶとなると一度に全部は運べず、ピストン輸送を行っている。バイクや自転車で樹海の入り口まで向かい、空になったトラックに愛車を乗せて戻ってもらう、という生徒も居て、樹海の入り口のベースキャンプはかなりの混雑になっていた。
 「これなら、潜入するのも難しくはないかも知れませんね」
 草むらの影に身を潜め、波羅蜜多実業高等学校の遠野 御龍(とおの・みりゅう)は、パートナーの機晶姫龍神丸 秋桜(りゅうじんまる・こすもす)に囁いた。
 「油断は禁物ですよ、御龍様」
 秋桜は御龍に釘を刺す。
 「わかっています。そのために、コスプレ用の『なんちゃって』だけど教導団の制服も手に入れたし、こうやって、行動パターンを観察しているのでしょう?」
 御龍は、制服を着ていないことを教官に咎められている蒼空学園の影野 陽太(かげの・ようた)とパートナーの魔女エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)を顎で示しながら言った。陽太とエリシアは、もちろん蒼空学園の制服を着てはいないのだが、軍ものっぽく見えなくもない程度のカーゴパンツと半袖のTシャツという格好で、全員教導団の制服を着用している集団の中では、明らかに浮いて見える。
 「だって、こんな炎天下に、下はともかく上も長袖なんて……。俺は熱中症を起こしやすい体質なんです、この格好での参加を許可してください!」
 エリシアに頭が上がらない陽太は、何とか連れて行ってもらおうと必死に訴えるのだが、
 「樹海の中には毒虫や毒蛇もいるし、道なき道を進めば、そんな格好じゃすぐに腕が傷だらけになる。幾ら新入生でも、そのくらい判るだろう。それに、全員が同じ服装をするのは、見通しの悪い場所での戦闘で、味方に対する誤射を防ぐためだ。どのような理由であろうと、制服以外の服装での参加は許可出来ない。所属する隊の隊長に申告して、帰校するように」
 と、教官の態度は変わらない。
 「あの、でもですね……」
 エリシアがフォローしようと口を開いたが、
 「くどい! これ以上言うなら、風紀委員にお前たちの身柄を預け、強制的に帰校させるぞ」
 と一喝されてしまい、すごすごと引き下がった。
 「なるほど」
 御龍たちと一緒に潜んで様子をうかがっていた大崎 織龍(おおざき・しりゅう)が呟いた。
 「だったら、制服着てるあたしたちは、『味方』だと思ってもらえるよね? ……そろそろ行こ、ニーズ」
 織龍はパートナーのドラゴニュートニーズ・ペンドラゴン(にーず・ぺんどらごん)に合図をして、潜んでいた草むらから歩み出た。ニーズと、御龍、秋桜もその後に続く。ちょうど樹海へ出発しようとする歩兵科らしき部隊を見つけ、隊列の後ろに何食わぬ顔で並んだ途端、御龍の背中に何かが突きつけられた。振り向こうとするより早く、
 「逮捕ッ!!」
 命令一下、四人は引き倒され、地面に押さえつけられた。隊列を組んでいた生徒たちがその周囲を囲み、一斉に銃口を向ける。
 「いったい何なんですか? 我たちは、何もしていませんよ?」
 口元に笑みを浮かべ、冷静を装って、御龍は自分を見下ろしている眼鏡をかけた男子生徒に訊ねた。
 「お前たちは、この隊の者ではないだろう。と言うより、教導団の生徒ではないな?」
 冷ややかな声で、男子生徒が答えた。その腕には、黒地に金糸で「風紀」と縫い取られた腕章がある。
 (「氷の風紀委員長」李鵬悠(り・ふぉんよう)か……)
 御龍は内心歯がみをした。厄介な相手に目をつけられたものだ。どう対応するかと考えを巡らせている間にも、四人は次々と武器を取り上げられ、拘束されて行く。
 「……だから、何で逮捕なんかするのよ! ちゃんと制服だって着てるし、御龍も言ったけど何も問題起こしてないじゃない!」
 織龍が鵬悠に噛み付く。
 「これから起こすつもりだったのだろう? ……機晶姫、パートナーに怪我をさせたくなければ、大人しくしていろ」
 鵬悠は御龍に銃口を突きつけ、秋桜を牽制しながら言った。
 「この小隊にドラゴニュートの生徒は居ない。それに、お前たちを加えると、隊の人数が多すぎる」
 「隊の編成をいちいち全部覚えていると言うの……」
 額に落ちかかる紅の髪の間から、御龍は鵬悠を睨み上げた。
 「さすがに全部はな。だが、人数の少ないドラゴニュートは目立つ。それに、隊の人数がいきなり四人も増えたら、不審に思われて当然だろう。それに、制服も、制式のものではない。つまり、お前たちは教導団の生徒を装った侵入者である……違うか?」
 やはりコスプレ用のなんちゃって制服では、生地の質や細かい作りが違っていたようだ。
 その問答の間に、四人はぐるぐる巻きにされて再び地面に転がされた。
 「とりあえず、全員が無事に出発するまで大人しくしておいてもらおうか。連れて歩いても、水や食料の無駄だ」
 数人の風紀委員に見張りを命じ、鵬悠は立ち去った。
 
 「うわぁ……」
 その様子を別の物陰から見ていた蒼空学園の九牙 宗地(くが・そうじ)と、パートナーのヴァルキリーアリエッタ・ブラック(ありえった・ぶらっく)は、同時にため息をついた。
 「人数が多ければ簡単に紛れ込めるかと思ってたけど……教導団の制服準備しててもだめなのかよ……」
 宗地は着てきた私服を見下ろす。
 「大人しくしていれば危害は加えられないようですが、拘束されてしまうのでは、紛れ込もうとする行動自体が無意味ですね。ここはいったん引いて、準備を整えて出直しませんか?」
 アリエッタの言葉に、宗地はうなずいた。
 「そうだな。遺跡に未練はあるけど、捕まったら遺跡には入れないもんな」
 そして、二人は大人しく帰って行った。