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砂上楼閣 第一部(第1回/全4回)

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砂上楼閣 第一部(第1回/全4回)
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「なぁ、あれ。あのままにしておいていいのかな?」
 雷堂 光司(らいどう・こうじ)はゴミ箱の中を調べていた手を止めて、窓硝子の外を指さした。
 待合室の窓からは、観光客向けのホテル街へと続く道が見えた。街路樹が植えられた美しい道のはずだが、今日はいつもと様子が違っている。
 そこには黒々とした墨汁で「パラミタに地球の政治問題や宗教問題を持ち込まないで!」と書かれた横断幕が取り付けられていたのだ。その近くでは、ミニスカートをはいた二人の少女、黒岩 和泉(くろいわ・いずみ)アーニャ・クローチェ(あーにゃ・くろーちぇ)がビラ配りをしている。
 イスラエル外務大臣のパラミタ来訪は、今朝のニュースで報道されている。「抗議活動に出る者もいるだろうから注意をするように」と雪之丞も言っていたが。実際に目の当たりにすると、無理矢理にでも止めさせた方がいいのか、それとも立ち去ってくれるようやんわりと注意するだけに留めておいた方が良いのか。迷うところだ。
「雪之丞様に報告した方がいいかなぁ?」
 麻野 樹(まの・いつき)の提案も尤もである。一般の社会においてよく言われるのが「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」の徹底だ。一般生徒に過ぎない樹達には、責任者である雪之丞に報告し、判断を仰ぐ義務があった。
 しかし、樹の契約者の一人天草 四郎(あまくさ・しろう)は別の意見があるようだった。
「樹はイエニチェリになりたいんですよね?」
 唐突に聞かれた樹は一瞬キョトンとした表情を浮かべるが、すぐに満面の笑みで答えた。
「もちろん!」
「ならば、こんなときにどういった行動を取るかも、イエニチェリになるための査定のうちなのではないですか? 誰かの指示をもらわないと動けないイエニチェリなんていないでしょう?」
 四郎の言葉に樹の心は揺らぐ。イエニチェリの定員は13人。狭き門などという話ではない。他人と同じことをしていては、絶対にダメなのだ。
 樹はしばし無言で考えた後、結論を出した。
「とりあえず止めるように声をかけようかぁ。やっぱり女の子に暴力は振るいたくないしねぇ」
 そう言うと樹は光司達とともに少女へ近づいていく。
「すみませ〜ん。横断幕を片付けてもらっていいですかぁ? 今日はちょっと偉い人が来るんで、美観を損なうようなことは止めて欲しいんですよぉ」
 ビラを配る少女達を驚かせないよう、樹は笑顔で話しかけた。
 しかし、少女から返ってきた言葉は友好の欠片もないものだった。
「偉い人が来るからこそ、やるべきなんじゃない!」
「それはそう…なんですけどぉ…」
 少女の剣幕に押されそうになる樹を庇うように、四郎が少女の前に進み出る。
「ニュースでは大げさに報道されていましたけど、外務大臣はタシガンに観光にいらっしゃるだけです。だったら、少しでも良い印象を持っていただいて、観光を楽しんでいただいた方がパラミタの今後にとっても良いのではないでしょうか?」
 当然のことながら口から出任せである。
「嘘ばっかり!」
 少女もまた四郎の言葉に騙されなかった。
「例え表向きが観光でも、タシガンの偉い人と話し合いとかもするんじゃないのっ?!」
「あくまでも歓待です!」
「そんなの言い訳よっ!」
 少年少女が堂々巡りの言い争いを始めたそのとき。
 ドーンという大きな音とともに足下が大きく揺れた。
「なんだっ?!」
 咄嗟に音が聞こえた方角に視線を向けると、空港内部から煙があがっているのが見えた。
「今のうちに行くわよっ!」
 爆発音に気をとられた間隙を狙って、少女達は樹達の横をすり抜けると空港とは反対の方向に向かって走っていく。
「あっ、待て!!」
 明らかに不審者である少女達を見失うわけにはいかない。慌てて追いかけたが、細い路地へと走り込んだ少女達は、隠してあった小型飛空艇に飛び乗った。小さな起動音を立て飛空艇が空へと上がる。
 飛空艇に括り付けられていた横断幕が吹き流しのように空を舞う。
 そこには永楽銭の旗印とともに、こう書かれていた。
「我ら第六天魔衆は、地球人のパラミタ入植を断固として拒否する」