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狙われた乙女~別荘編~(第3回/全3回)

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狙われた乙女~別荘編~(第3回/全3回)
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リアクション


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 水が時々流れ込んでくる。
 ジンギス・カーン(じんぎす・かーん)は、その冷たさにはっと目を覚ます。
「むぐ……!?」
 そして何故か瓦礫の下敷きになっていることに気付く。
「ぐむ……」
 しかし、口は猿轡をかまされたままであり、喋ることができない。
 救助の人達がいったりきたりしているというのに。
 自分も発見されていたかもしれないが。
 縫ぐるみと思われスルーされていたようだ。
(うう、これも全てベアさんのせいだ……後でこっそりソアさんに告げ口してやる!)
 そう思うも、痛みで体を動かすことさえ出来なかった。
(ああ……お花畑が見える……)
 ジンギスの意識はまた遠くなっていく。

「んーと、リサイクル、危険ゴミ、ゴミ、有害物質、と書いてありますぅ〜」
 イルミンスールのシャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)は、引きずり出した不良を引っ張りながら、分別に迷っていた。
「味方さんはリサイクルで、化粧の濃い女性さんと黒い悪魔さんは危険ゴミ、不良さんはゴミ、変態さんは有害物質って、聞きましたけどぉ〜。で、でも台所の黒い悪魔ことGさんは兎も角、パラ実生さんと不良さんと変態……え、変態……? そ、それをすてるなんてとんでもない……ですぅ……?」
 少し迷った末に、シャーロットは不良にヒールをかける。
「ま、まぁいっか……とりあえず、この3つはリサイクルでも良いと思うんですよねぇ」
 ゴミと書かれた看板の下に、不良を置く。
「そうですよね、勿体無い。貰ってもいいでしょうか? それとも先に召し上がります?」
 にこにこと現れたのは優梨子だ。
「要りません〜。私は後でいいですぅ」
「それでは、先に戴きますね。後で一緒にお茶しましょう」
「はい、片付け終わったら行きますぅ〜」
 シャーロットは、優梨子とお茶の約束をした後、再び崩れた別荘の側へと戻る。
「はあ……それにしても、別荘さんお亡くなりになってしまうなんて、残念ですぅ。掃除すればまだまだ使えそうだったのにぃ。全てアレが悪いんですよねぇ〜。黒い悪魔、黒い悪魔さんさえいなければこんなことにはならなかったはずなんですぅ〜! 台所の黒い悪魔さんはすぐ処分するべき。そうするべき!」
 瓦礫を持ち上げようとしたシャーロットの足元に、その黒い悪魔がちょろりと顔を出す。
「!!?? バ、バニッシュを、バニッシュしたい、とってもバニッシュしたいですぅ」
 シャーロットは2歩後に下がって、崩れ落ちた。
 リサイクル品や危険ゴミ、ゴミを発掘しすぎており、そのたびヒールを使っていた優しい乙女のシャーロットに余分な精神力はなかった。
「うううっ、精神力を、精神力を下さいですぅ〜。精神力ぅ〜!」
 シャーロットは天に向かって叫ぶ。それは乙女の切実な願いだった。

「鏖殺寺院の毒ガス攻撃……な、なんて恐ろしいことを……」
 イルミンスールのソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)は、青ざめながら、作業用のテントと別荘があった場所を行き来していた。
 パートナーのジンギスの姿がずっと見当たらないのだ。先に避難したのなら、いいのだが……。
「ご主人、大変だっ! 鏖殺寺院の奴等、食料と手紙を届けに行ったジンギスを、非情にも捕らえやがった!」
 雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)の突然の報告に、ソアは驚きの表情を浮かべる。
「羊の肉が食えるとか言って喜んでたし、このままじゃジンギスが羊鍋にされちまうぜ!」
「えっ? でもジンギスは羊じゃなくて、ゆる族ですし……」
「とにかく助けに行こうぜ!」
 ベアは自分が仕出かした悪戯については一切説明をせず、混乱しているソアの手を引いて別荘の方へと向かう。

「お姉ちゃんとジュレちゃん……死んじゃったよぉ」
 八坂 トメ(やさか・とめ)は、別荘の側に大きな石を運んで、マジックで「カレン」「ジュレ」と名前を書き、摘んできた花とお菓子を供えた。
 2人が気掛かりで、すっとんできたトメだけれど合流することは出来ず、トメは別荘の倒壊を目の当たりにした。
 ぐすぐすと泣いていたトメだが、ふと自分が何ともないことに気付く。
 パートナーが死んだら、自分にも影響が出るはずなのに。
「もしか、して……」
 すくりと立ち上がり、別荘に目を向けた途端、飛び込んだのは知り合いのソアの姿だった。
「大変なの! お姉ちゃんとジュレちゃんが埋まってるかもしれないの〜!」
「トメさん? こちらもジンギスが埋まっているかもしれないんです」
「よし、一緒に探そうぜ!」
 ベアはトメのパートナーであるカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)と、ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)がジンギスを不良達に引き渡したことを目撃している。これ幸いとトメの手を引いて、一緒に勝手口があった付近からパートナー達を探し始める。
 そこに……。
「羊さん、羊さんはリサイクルですかぁ〜。食べられますぅ、貴重な食料ですぅ〜! ヒールしないで洗ってそのまままな板の上でしょうかぁ〜。分別に迷いますぅ……」
「ま、待ってください!」
 羊を掘り出して分別に迷うシャーロットの元に、ソアたちは駆けつけた。

「ね、ネズミさん達のピンチじゃ! こうしてはおれぬのじゃ!」
 血相を変えて駆けつけた蒼空学園のセシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)は、瓦礫を前にそわそわうろうろうろうろしていた。
「こうしている間にも、ネズミさんがネズミさんがっ。皆、頑張るのじゃ〜!」
「落ち着いて下さい。しかし、ネズミより大切なものが埋まっていそうですが……」
 パートナーのファルチェ・レクレラージュ(ふぁるちぇ・れくれらーじゅ)は、時折セシリアの様子を見ながら、瓦礫を取り除いていく。
「……ネズミが好きなんて正気なのかしら、おねーちゃん」
 手伝いに訪れたミリィ・ラインド(みりぃ・らいんど)はちょっと不思議そうな顔をしながらも、転がっていた椅子のようなものをえいっと持ち上げる。
「まあ良いわ、契約主の為に黙って尽力するのも大人の醍醐味よね! そして、人を救う為には自らの手を汚す事も厭わない……これこそ大人の醍醐味よね!」
「早くするのじゃ、ネズミさん、ネズミさん……っ」
 セシリアは瓦礫が動かされる度に覗いてみるが、瓦礫の下に彼女の愛するネズミさんの姿はまだ見られない。
「よっと。子供はあまり重いものを持つなよ? 怪我したら元も子もないからな」
 蒼空学園のレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)は、パートナーのフィーネ・ヴァンスレー(ふぃーね・う゛ぁんすれー)とともに、壁の一部だったものを持ち上げて、瓦礫の外へと運ぶ。
「皆、風の向きには注意してね。多分、この裏側辺りが危険地帯だと思うの。セシリアさん、そろそろ魔法お願いっ」
 水鉄砲を構える蒼空学園の朝野 未沙(あさの・みさ)は、青ざめている。
 事態を知って直ぐ、同じ学校で知り合いのセシリアとレイディスに未沙は泣きついて協力を求めたのだ。
 事情も……その、パートナーの朝野 未羅(あさの・みら)朝野 未那(あさの・みな)に、洗剤の散布を任せたところ、どうやら塩素系洗剤と酸性洗剤を同じ場所にまいてしまったらしいことも、全て話してある。
「お水、ここに置いておくの。もっと汲んでくるの」
「水鉄砲にぃ、お水入れたですぅ」
 未羅と未那は、事態が分かっていないようだが、未沙の指示の元、救助の為に一生懸命動いてくれている。
「ありがとう、ありがとね、未那ちゃん、未羅ちゃん」
 可愛い妹達を犯罪者にするわけにはいかない。もちろん自分も!
 未沙は水鉄砲を構える。
「それじゃ、水撒くね」
「ちょっと待った!」
 レイディスが未沙を止めて、瓦礫を持ち上げる。
「少年を1人発見した」
 フィーネが、レイディスが持ち上げた瓦礫の下に入り、頭から血を流している少年に手を伸ばす。
「な……んだ、てめぇら……ッ」
 手を払いのけた少年の体にフィーネは腕を回して瓦礫の下から引っ張り上げる。
「手伝います」
「運んでおくね」
「ああ、サンキュ」
 ファルチェとミリィがレイディスが持ち上げた瓦礫を受け取って、塀の方へと運んでいく。
「自分じゃ歩けないみたいだな」
 レイディスはフィーネが起こした少年にヒールをかけた。
「生き埋めにしたのはそっちだろうが。偽善者気取りか? 手柄にしようってか? ケッ」
 少年が吐いた唾を避けて、レイディスは汚れた彼の手を引いて、立たせた。
「俺、たまたまこの付近通りかかっただけだし。別に良いじゃねぇか。誰だって痛ぇのイヤだろ? ほら、さっさと避難しとけよ。お前らを狙ってるやつが居たら大変だぜ」
「うるせぇ!」
 レイディスを突き飛ばそうとする少年の腕を、フィーネがぐいと掴む。
「……あんた結構根性あるさね。空回りしてるけどさ。ほら、肩貸してやるから治療受けにいくよ」
「っ……」
 痛みに顔を顰めながらも、少年はフィーネの腕を振り解こうとするが、フィーネは強く少年の腕を掴み肩にかけて、決して放さない。
「ちゃんと治療してもらえよ」
 レイディスはそう声をかけると、未沙に目を向けた。
「もうOKだぜ」
「それじゃ、放水を開始するね!」
 未沙は水鉄砲を発射し、水を撒いていく。
「ネズミさん、しっかりするのじゃー!」
 セシリアはアシッドミストを発動した。酸の威力を最大限弱めて。
「結構重労働ですね……。終わったらメンテしましょう」
 戻ったファルチェは息をついた後、次の瓦礫に手を伸ばす。
「あっ……」
「ネズミ」
「何じゃと!」
 ファルチェとミリィが小さく声を上げた途端、セシリアが駆けて来る。
 躓いて転んで、膝を擦りむきながらも必死に駆けつけて、瓦礫の下でぐったりとしているネズミに両手を伸ばし持ち上げた。
「こんなにぐったりしてしまって……くっ、私が留守にさえしていなければこんな目には……」
 優しく包み込んで、頬を寄せるセシリアの様子に、ファルチェとミリィは顔を合わせて肩をすくめた。
 セシリアはハンカチを取り出して、ネズミを安全な場所に連れて行き、寝かせるとすくりと立ち上がる。
「待っておれ、私がお主達の友達も助けてやるからじゃ!」
 再び、瓦礫の元に戻り、セシリアはアシッドミストを放つ。
「効果の程は少ないようですが、頑張って下さい」
「ほら、今回これでしか役に立たないんだからしっかりやってよね!」
 ファルチェとミリィは、それぞれSPリチャージアリスキッスでセシリアに力を与えてゆく。
「ありがとう2人とも、ネズミさんの為に! ネズミさんもきっと喜んでくれるのじゃ」
「……んーと。まいっか」
 ミリィはファルチェと顔を合わせ、苦笑し合うと瓦礫の撤去作業に戻る。ネズミは兎も角、ぐったりしている人間は早く運び出さなければならない。
「ファルチェさん、ミリィさん、この水を撒き終わった辺り、お願い。えっと、ガスのにおいがしたら、直ぐ離れてねっ」
「分かりました」
「了解」
 未沙の言葉に、ファルチェとミリィが返事をした。
「お水、汲んできたの」
 未羅は、はあはあと息をしながら、バケツに水を汲んで現れる。
「空になった水鉄砲預かりますぅ。お水入れるですぅ」
「2人とも、ありがとね。頑張ろうね」
 未沙は空になった水鉄砲を未那に預け、満タンに水が入っている水鉄砲を持ち上げる。
「大丈夫なの。お水沢山出てる場所あったの! 川も沼もあるの。頑張るの!」
 疲れた様子ながらも、未羅は空のバケツを持ってまた走っていく。
「うん、未羅ちゃん……っ」
 一瞬目頭を押さえた後、未沙は再び放水を開始する。