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横山ミツエの演義(第3回/全4回)

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横山ミツエの演義(第3回/全4回)

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 和希曰く『武雲嘩砕』を間近で見ると、改めてその雑多さを知ることができた。
「生徒もそうでないのもごっちゃに出店が並んでるみたいね」
 賑わう通りを少し歩いた後にミツエが気づいたことだった。離れたところにある本部からの眺めではわからなかったことだ。
 店を出したい者がそれぞれ好きなところを陣取ったのだろう。
 それなりに人の通れる道ができたのも偶然と思われた。
 活気に溢れる通りでは、いたるところで客の呼び込みが行われている。
 動物の骨から作ったお守りや、各部族の食べ物、衣服、武器や楽器。中にはどこから集めてきたのか、地球の雑誌や漫画も売られていた。
 珍しそうにそれらを見ながら歩いているミツエに、ナガンが提案した。額の大きな絆創膏は先ほど文鎮をぶつけられたためである。
「その大事そうに持ってる印売れば、お金貯まるんじゃないっすか?」
「何を言ってるの、ダメよ。絶対ダメ! これは国を作るための大切なものなんだから! だいたい、大事そうにって言いながら売ればいいって、どういう了見なの!?」
 ミツエはナガンの視線から守るように、伝国璽を入れてあるポシェットを胸元に抱きしめた。
「その印璽を持つ者が国を統べる……でしたっけ?」
 その通り、と優斗の言葉にミツエは大きく頷く。
 いつの間に買ったのか、和希が骨付き肉をミツエに差し出しながら質問した。自分の分を食べて毒見済みである。遅効性だったら厄介だが、安全そうな出店かを判断して買ったから問題はないだろう。
「どうして中原制覇しようなんて思ったんだ?」
 和希の素朴な疑問は、誰もが一度は思うことだろう。
 受け取った肉をかじるミツエはその美味さに夢中になっているように見えたが、実際彼女は頭の中で言葉をまとめているところだった。
 やがて半分ほど食べ終えたところで、ようやくミツエは口を開いた。
「……今の中国がどんなふうだか知ってる?」
「え? さ、さぁ……?」
 逆に問われて戸惑う和希。
「経済急成長のためのやりたい放題の環境破壊でメチャクチャよ。確かにお金持ちになって生活は豊かになったけど、みんな何かしら病気を抱えてるの。このままじゃあの国は自分で吐いた毒で滅ぶわ。だから、あたしが新しい国を作って立て直すのよ」
「この前は、あの男を十三億の頂点から引きずりおろすのよ、と言ってなかったか?」
 その時のミツエの真剣さを思い出しながら和希が言った。
 ミツエは苦笑する。
「それもそうなんだけどね」
「なるほどなるほど。ミツエ様は高い志をお持ちだったわけでございますね。国を憂いて国民を救おうとなさっていると」
 わざと丁寧な言葉遣いをするナガンを軽く睨むが、すぐ後には何故か少し照れたように小声で付け足した。
「みんなとの国を作りたいとも思うのよ」
 反応はそれぞれだったが、和希はミツエの背中をバーンと叩いた。
「照れんなよっ。いいじゃねぇか中原制覇! でっかい夢は気持ちいいよな! まったく教導の金は見る目がねぇよな。俺が金だったら迷わず結婚して一緒に天下取りの夢を追いかけるのによ」
 もしここにイリーナ・セルベリアがいたら、どんな顔をしていただろうか。あいにく彼女は今、見回りに出ていていないのだ。
「中原をまとめたら、このシャンバラからエリュシオン、ポータラカ・マホロバまで行くか?」
「壮大な話ね。でも……ううん、今は中原だけを見るわ」
「では未来の皇帝には、まず始まりのこの地を高いところから眺めてもらいましょうか。この下僕が肩車をいたしましょう」
「ぎゃーっ、ちょっと! 子供じゃないのよっ」
 持ち上げようとするナガンと暴れるミツエ。

 そう遠慮なさらず。してないっての! まあまあまあ。はーなーせー!

 仲が良いのか悪いのかわからないやり取りだが、関が原の時よりはずっと打ち解けているような雰囲気であった。
 その様子を見て笑っていた孫権の携帯がメールの着信を告げた。
 発信者は周瑜 公瑾(しゅうゆ・こうきん)だった。
「なあ、公瑾のとこでやってる店に誘われたんだけど、行ってみないか?」
「そうね。朝ごはんもまだだし、行きましょう」
 ナガンとの攻防をいったん止めて答えるミツエ。
 孫権は「ちょっと大人数だけど」と付け足して、店を訪れる旨を返した。