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世界を滅ぼす方法(最終回/全6回)

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世界を滅ぼす方法(最終回/全6回)

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 束になって蠢く邪霊達は、一見ゾンビの群れにも似ていて、特に強敵でもないように見えたが、形が、同じ黒いヴァルキリーの姿をしているだけで、中味はそれぞれ全く別物らしく、比較的楽に倒せる相手もいたものの、殆どが、個別に倒すには強敵で、攻撃方法も違っていた。
 しかしケンリュウガーは、周囲の邪霊達には一切構わず、ただ一直線にジェイダイトに向かおうとした。
 目的はひとつ。
 ハルカとの約束を果たし、2人を真の意味で「再会」させることだ。
 その胸には、戦いの前に、五条武から預かった、4枚に分けたカードの1枚が入っていた。
 誓いの証。
 サルファに向かう武から、自分の分も、じいさんを頼む、と。

(だから……こんな所で倒れてられるかっ……!)
 リリィからの魔法援護もあり、雪国ベアに護られながら、ソア・ウェンボリスが後方からヒールをかけてくれている。
 しかし、受けた負傷は多く、一向に敵が減らない。
「武神先輩!」
 そこへ、後を追って来た、仮面ツァンダーソークー1に変身した、風森 巽(かぜもり・たつみ)が追い付いた。
「仮面ツァンダーソークー1……! 来てくれたのか!」
「援護します! 武神先輩は、おじいさんを!」
「お前、大丈夫なんだな?」
 様子がおかしかったと聞いていた。はい、とソークー1は頷く。
「じゃ、頼むぜ!」
 改めて、邪霊の群れを切り抜けて、ジェイダイトの元へ辿り着く為に、ケンリュウガーは立ち上がった。

 ――コハクを、自分に重ねていたのだ。
 目の前で姉を亡くした巽は、だから、アズライアを救うことで贖えると、きっと心の底で思っていた。
 だが、ヒーローになりたかったのは、贖罪の為などではない。
 ヒーローとは、大切な人の笑顔の為に、どんな強敵であっても立ち向かうのが、あるべき姿のはずなのだ。
 その姿こそに、自分は憧れた。
 それを、思い出した。だからもう、迷わない。

「面白い成りをした者がおるようじゃのう」
 サルファを待つ間、することもないので、ジェイダイトは佇んだままあちこち眺めていたが、猛然と自分に向かってくる、突飛な格好をした2人に目を留めた。
 そしてそれから、その横に。
 派手に戦うソークー1とケンリュウガーは、邪霊達の意識を引き付けて、その隙をぬって、樹月刀真が着実に距離を詰めてくる。
「何か、わしに用かね」
 本当に解っていないのか、そんなことを言うジェイダイトに、刀真は返した。
「貴方の持っている”種”をください」
「そりゃあ、できん相談じゃの」
 なるほど、と肩を竦めつつ、当然そう言ったジェイダイトに、刀真の瞳が険しくなる。
「――なら、お前を殺して奪うだけだ」
「それは物騒な話じゃな」
 口調が変わったことにも臆する様子はない。
 この辺は、生来の呑気さが残っているのだろう。
 返ってそれが、忌々しく感じた。
「お前はお前の都合でハルカを殺した。
 なら俺が俺の都合でお前を殺しても、文句はないだろう」
「なるほど。それも道理じゃな」
 危機感を感じていないのか、感情の、色々な部分を失ってしまったのか、ついに辿り着き、振り上げられる剣先を見てさえ、ジェイダイトが取り乱す様子はなかった。


 あちこちきょろきょろと世話しなく、ある意味で隙がなかったジェイダイトの注意が定まった。
 少しずつ邪霊の数も減りはじめ、近くの邪霊達はソークー1やケンリュウガー、刀真達に意識を向けている。
 今しかない、とゲーは思った。
 一旦取り出したところを見て、ジェイダイトがどこにそれをしまったのかも、把握している。
 ゲーは背後からジェイダイトに飛び付き、”核”を奪い取った。
「!?」
 流石に、ジェイダイトは驚く。
 正面から剣が振り下ろされようとしているところで、後ろから来るとは全く思わなかったのだろう。
「――やった!」
 すかさず、ゲーはジェイダイトから離れ、真っ先に目についたソアとベアに、”核”を投げ付ける。
 まともに戦って勝てる自信など、全くない。
「ゲー!!」
 敵陣の真ん中から離脱するゲーを援護する為に、ハルカの側についていたパートナーの藤波 竜乃(ふじなみ・たつの)が、雷術を放って援護した。

 ”核”をキャッチしたベアは、ソアを小脇に抱えて踵を返し、ハルカの元へ向かった。
 これで、怪我をさせることもなく、おじいさんと戦わなくてもよくなった、とソアは内心で安堵する。
 あとはおじいさんを説得できれば――
「やめろッッ!!」
 ケンリュウガーが叫んだ。
 ”核”を奪ったことで、振り上げられた、刀真の冷静で冷徹な剣が止まることはなかった。
 特別なスキルを使うまでもない。
 目の前にいるのは、ただのひ弱な老人だった。
「死ね」
 剣が振り下ろされる。

「――おじいちゃん!!」
 ハルカの叫びが響き渡った。


「……これが死か。中々痛いものじゃのう」
 倒れ、霞む視線の先に、ハルカの姿が映る。
 今のジェイダイトに、この期に及んでも後悔も罪悪感も、抱く感情は失われてしまったが。
 ハルカの周囲を、ハルカを案ずる者達が囲んでいるのを見て、訊ねた。
「もう、寂しくは、ないのかね」
 ハルカはふるふると首を横に振る。涙が散った。
「とっても、楽しいのです」
 それはよかった。
 ジェイダイトは笑った。



 ジェイダイトが斃れ、彼の命令に従ってハルカを狙っていたサルファは、目的を失ったはずだった。
 これで終わったと葉月ショウが安堵したのも束の間、ジェイダイトの方を見ていたサルファはすぐに視線を戻し、再びハルカに向かってくる。
「お前っ……! もう意味がないだろう!」
 思わず叫べば、サルファは顔色ひとつ変えずに、
「命令の撤回は受けていない」
と言い放った。
「融通の利かねえ奴だ!」
 パラミアントが、吐き捨てるなりサルファの前に立ち塞がる。
 続けざまの連続二段攻撃を仕掛けたが、両腕でそれを受け止めたサルファは、そのまま両手を組み合わせ、ズシンと激重の一撃を、パラミアントの頭上から叩き落とした。
「ぐっ……」
 目が眩む一撃に、パラミアントはうつ伏せに地に沈む。
「武!」
 イビーが、とどめを刺そうとするサルファに攻撃を仕掛ける。
 足元を狙い、サルファが後退するように図った。

「――こっちだぜ!」
 その隙をついて、素早く背後に回り込んだ気配。
 サルファはばっと振り向く。
「スタートアップ! パラミアント バーストフォルム(ぱらみあんと・ばーすとふぉるむ)!」
 ヴァルキリーの光翼を広げ、バーストダッシュでサルファの懐に飛び込む。
 が、彼はまだ、弱すぎた。
 バーストフォルムはサルファの振り返り様の片手の一撃で払われ、べしゃっと倒れ伏した。


 ケンリュウガーの戦いが終わろうとしているのをみて、自分の役目は終わったと、リリィは密かにその場を離れた。
「色々あるけどやっぱり、牙竜は、正義の味方として戦う時が、一番かっこいいよねっ」
 リリィはふふっと笑って独りごちた。
「次はあれを正面から見たいな。敵として牙竜の前に立って」
 うん、次は敵として来るねと、終わったら、帰る前にちゃんと伝えなきゃ、とリリィは微笑んだ。