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ゴチメイ隊が行く1 カープ・カープ

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ゴチメイ隊が行く1 カープ・カープ

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「で、ここにもオプシディアンは来なかったんだ」
「いやあ、なんのことか分からないんだが。いつもの獣人さんなら、この前も釣りあげた錦鯉を売りに来たけどねえ」
 七尾蒼也に聞かれて、以前生け簀を破壊された養殖業者は首をかしげるだけであった。
 彼の話では、深夜のうちに突然多人数に襲撃されて、あっという間に生け簀を破壊されてしまったのだと言う。おかげで、養殖していた錦鯉はすべてヴァイシャリー湖に逃げてしまったらしい。そのため、ヴァイシャリーで一番だった生け簀も、今では二番にまで落ちぶれてしまっていた。
 それでも、錦鯉以外の生け簀は別の場所にあったため無事で、なんとか錦鯉の生け簀も修復することができたそうだ。
 逃げ出した錦鯉はうちの物だと主張しても、捕ってきた者たちは頑固に野生だと言い張るので、しかたなく買い取りにしているらしい。それをあてにして、売りに来る者たちも多くいたので、意外と立ち直りは早かったとのことだ。
「とはいえ、酷い目に遭ったのは確かでして、なんとしても犯人に報いは受けさせたいというのが本音なのです」
「分かります。まったくおっしゃる通りです。我がだごーん様秘密教団としても、そういう不埒な輩は許しておくことができません」
 生け簀の経営者と話しながら、いんすますぽに夫は、じっと湖を見つめた。
「ええ。お願いします。私たちとしては、同業者が怪しいとは思っているのですが、なにぶんにも証拠がありませんので」
「だごーん様なら、それも見つけてくださいますでしょう。必ずや、錦鯉たちの仇はとってごらんにいれます。そのさいは、御寄付の方をよろしく」
「ええ、もちろんですとも」
 経営者は、いんすますぽに夫に約束した。満足そうに、いんすますぽに夫がうなずく。
「いあいあ、だごーん」
「いあいあ、だごーん」
 そう言い合って、二人は礼を交わした。
 
    ★    ★    ★
 
 湖面に浮かぶ生け簀は、幅三メートル、長さ二〇メートル四方ほどの四角い渡り板に囲まれている。それが五つ、十文字に配置される形で並んで浮かんでいた。もっとも、中央の物は生け簀の上のほとんどを板で覆い、その上に管理小屋が建てられている。水中は、網とシートによって二重に湖水から隔てられていて、大事な錦鯉が逃げ出さないようになっていた。これらの生け簀に、大きさ別に錦鯉たちが飼育されている。
 ゴチメイたちが守っているこの生け簀は、現在ではヴァイシャリー湖で最大級の物となっていた。
「さあ、餌だよー。こーいこいこいこい……」
 フリードリッヒ・常磐(ふりーどりっひ・ときわ)が生け簀に餌を撒くと、無数の錦鯉が水面を波立たせて集まってきた。
「うわー、すごいなのー」
 そのすさまじさに、朝野 未羅(あさの・みら)が目を丸くする。
「ほんっと、元気なんだよねー、こいつら」
 生け簀の端に座って足をぶらぶらとゆらしながら、リン・ダージ(りん・だーじ)が言った。小柄なリン・ダージがそういうことをしていると、まるで水辺で子供が遊んでいるかのようだ。
「ふむ、今日も元気だぜ。バイトを始めてしばらく経つが、日に日にかわいくなってくるな」
 別の生け簀で餌を撒きながら、朝霧 垂(あさぎり・しづり)は錦鯉たちの元気さに満足気だった。
「あはははははは、餌だよー。餌なんだもん。えさえさー」
 きっちりと餌を柄杓で均等に撒く朝霧垂とは違い、パートナーのライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)は、わきゃわきゃと朝霧垂の周りを走り回りながら、餌袋の中に手を突っ込んでつかみ取れただけを豆まきのようにしてばらまいている。
「こら、そんなふうにふざけていると危な……」
 ぽちゃん。
 注意しようとしたそばから、ライゼ・エンブが生け簀に落ちた。すかさず、餌と勘違いした錦鯉たちが群がってくる。
「た、助けてー。食べられちゃうんだもん!」
 あたふたと、ライゼ・エンブが生け簀の中でもがいた。
「おっさかなさん、おっさかなさん、いっぱいたべて、元気だしてくださいです♪」(V)
 すぐそばで、それに気づかないヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が、のんびりと餌を撒き続けていた。
「まあ、大変!」
 微笑ましくライゼ・エンブの様子を見ていた夜霧 朔(よぎり・さく)が、あわてて手をのばして助けに行った。朝霧垂と一緒に、えいやと水の中から助けあげる。
「あーん、びしょびしょ」
「もう、しかたないですね。お風呂に行って着替えましょう」
 そう言うと、夜霧朔はライゼ・エンブを連れて行った。
「やれやれ、今日も平和……だといいがな」
 朝霧垂は、それを見送りながら言った。
 
    ★    ★    ★
 
「どうだい、なかなかにいいチョイスだろー」
 ピンクのミニ着物を着たアスクレピオス・ケイロン(あすくれぴおす・けいろん)が、隣にいるチャイ・セイロン(ちゃい・せいろん)に言った。彼は男であるのだが、襟や裾にふんだんにフリルのついたピンクの和ゴスファッションで今日という日に挑んでいる。
「そうですねえー。悪くはないと思いますよー」
 アスクレピオス・ケイロンが自慢げに指し示した島村 幸(しまむら・さち)の姿を見て、チャイ・セイロンが感想を述べた。
「に、似合ってるかなあ」
 つけ袖の広がった袖口のレースをちょっとひらひらさせながら、島村幸がちょっとはにかんだ表情で言った。黒いゴチックなドレスは、ロリータと呼ぶにはそれなりに大人っぽく、かつかわいい。ドレスの上は、ノースリーブでスレンダーな島村幸の身体にぴったりとしている。やや女性らしさにかけるラインが、逆に清楚に感じになっていた。レースを重ねた短めのティアードスカートも、足の長さを強調してくれている。
 なんだかアスクレピオス・ケイロンに無理矢理着慣れない服を着せられてここに連れてこられたのだが、来てみれば似たような服を着た女の子がたくさんいるではないか。結婚を控えてドレスなどにも興味がわいていた島村幸は、一気に何かに目覚めてしまったのだった。
「ふふふ、けいかくどーりー。これで、ゴス趣味がまた一人増えた」
 陰で一人ほくそ笑む、アスクレピオス・ケイロンである。
「なんだか、さすがにちょっと派手じゃないですか……」
 もしこの格好で式に出ると言われたらどうしようかと、ガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)は内心ドキドキしていた。
 もっとも、ウエディングドレスという物はもともと派手な物であるし、幸がいいというのであれば文句を言う筋合いではないのだが。いや、むしろ、いろいろと綺麗な格好をしてくれるのは正直嬉しい気もするし。かといって、自分たちの歳を考えると、いかがなものであろうか。とはいえ、そんなことは口が裂けても幸の前では言えない。じゃあ、今目の前にいる幸が綺麗ではないなんてとんでもないし、いや、むしろ綺麗だ。だが、ここでそんな台詞を口にしたらどうなることか。むしろ、言ってしまえば楽になるかも。いやいやいや。そんなことをすれば、ビオスの思うがままだ。あー、もう、どうしたらいいんだ……。
「でも、に、似合ってますな……」
「なぜ、そこでつっかえる。で、それだけですか?」(V)
 んもうっと、島村幸が肘で軽くガートナ・トライストルをつついた。
「これなら、私もあなたたちの隊に入れるかなあ」
「その必要はないんじゃないか」
 島村幸が訊ねると、ココ・カンパーニュ(ここ・かんぱーにゅ)はあっさりとそう答えた。
「なんて言うかさあ、幸せな奴は、私たちにかかわんない方がいいかなって。ちょっとだけ思ったりするんだよなあ。守ってくれる人って言うか、入隊するとこが違うんじゃないかなって」
 そう言って、ココ・カンパーニュは、チラリとガートナ・トライストルの方を見た。
「それから、これこれ、これがないとうちらの仲間の印にならないからねえ」
 自分たちのかぶっているミニシルクハットをちょんちょんとつつく。普通に市販されているシルクハットではない、あくまでも、ミニシルクハットだ。
「いいなあ、みんな」
 思わず出してしまった耳をピコンピコンさせながら、神代 明日香(かみしろ・あすか)がつぶやいた。
「明日香さんのエプロンドレスだって、かわいいですわよ」
 ちょっと慰めるように、神代 夕菜(かみしろ・ゆうな)が言った。確かに、神代明日香のメイド服も充分にかわいいのだが、それを褒めてくれる人がいるといないとではずいぶんと違う。
「だったら、私も入隊できるかなあ」
「うーん、今でさえ厄介者で手一杯なんだから、これ以上おもりはできないぞ」
 ぽりぽりと、ココ・カンパーニュが頭を掻いて困る。
「今、なんか酷いこと言ったでしょー!」
 どうやってそれを聞きつけたのか、リン・ダージが怒濤の勢い出かけてきた。そのまま、とぅっとキックをかます。あわてず騒がず片手でそれをさばくと、ココ・カンパーニュは、リン・ダージの乱れた前あきスカートの裾をさっとなおしてやった。
「お姉さんに対して、子供扱いしない!」
「はいはい」
 むくれるリン・ダージを、ココ・カンパーニュは軽く受け流した。
「賑やかですね」
 にこにこしながらやってきたロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が、ココ・カンパーニュに挨拶をした。
「そう言えば、どこかで会ったことがあるかな」
「以前、百合園女学院の放送室の前で」
「ああ、あのときの」
 思い出して、ココ・カンパーニュが納得する。
「こんな所で再会できるとは思いませんでした」
「まあ、いろいろあって。詳しくは聞くな」
 そう言うココ・カンパーニュに、ロザリンド・セリナはそれ以上聞かないようにした。とりあえず、何かあったらと、自分の携帯番号を書いたメモをココ・カンパーニュに渡す。
「ラズィーヤ様の所クビになったんだよね」
 ミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)が余計なことを言って、ココ・カンパーニュにちょっと睨まれた。
「なんでそれを知ってるんだ」
「百合園じゃ、結構有名な話だよ」
 聞き返すココ・カンパーニュに、ミネッティ・パーウェイスがあっけらかんと答えた。
 さすがに、ココ・カンパーニュが苦虫を噛み潰したような顔になる。いっそ証拠隠滅で、百合園女学院ごと吹っ飛ばしてバラ実のような校舎にしてやろうかという考えが頭をよぎったが、さすがにそれは自重することにした。
「どうしてここにいるんだい?」
「生活費は必要だものな。学生だって、食い扶持分ぐらいは働かないと」
 しつこいミネッティ・パーウェイスの質問を、横からフォローするように高村 朗(たかむら・あきら)が言った。
「なにせ、養う仲間がたくさんいれば、人知らぬ苦労なんてのもな」
 そう言って、意味ありげに高村朗はココ・カンパーニュに目配せした。
「まあ、そういうことだな」
「なによ、私だって、ちゃんと働いてるもん」
 あっさりと認めるココ・カンパーニュに、リン・ダージが文句を言った。
「まあまあ」
 すかさず、チャイ・セイロンがなだめる。
「皆さん、お茶はいかがですか」
 そこへ、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)とともに、紙コップに入ったお茶を持ってきた。
「あらあら、お気遣いありがとうございます」
 チャイ・セイロンがお礼を言って、紅茶を受け取った。
「用意がいいのね」
「生け簀に落ちた人がいたんで、暖まるように紅茶を淹れたのですけれど、せっかくですから皆さんの分も配ってるんです」
 一言言ってから受け取るリン・ダージに、ナナ・ノルデンは答えた。そのままみんなにお茶を配ってから、ココ・カンパーニュのそばにやってきて腰を下ろす。
「うん、おいしい」
 女の子としてはちょっとはしたなく胡座をかいて座ったココ・カンパーニュが、紅茶を飲んで言った。
「よかったです。でも、ココさんはメイドでいらっしゃるのに、なんで生け簀の警備なんかしているのですか」
「またその話かい」
「いえ、私も元はメイドで、今はモンクの修行中ですから、いろいろと気になって。似ているところもあるかなって。私は、パラミタのいろいろと隠された謎の答えが知りたくてここにいるのですけれど、ココさんはどうしてパラミタにやってきたのですか」
「まあ、いろいろあってね。所属が未だにパラ実ってことで察してよ。ちょーっと、地上で暴れすぎちゃって、妹を残して単身こっちへあがって来たのさ。まあ、幸い、気のおけない仲間もできたし、毎日好きにやってるよ」
「そうですか。でも、メイドは主あってのものですから、いずれどこかで落ち着けるといいですね。それに、ちょっと手合わせしたいなんて思いもありますし」
「それはいいけれど、私は手加減できない性格だから、やめといた方がいいよ」
 そんなココ・カンパーニュの言葉に、そばで静かに話を聞いていたズィーベン・ズューデンはうんうんとうなずいた。
「あまり無謀なことはしないでほしいんだよね」
「あら、心配性ですのね」
 心配するズィーベン・ズューデンに、飲み終わった紙コップを返しながらチャイ・セイロンが言った。
「いっつも、後で魔法でフォローするのはボクなんだから」
「あらあら、一緒ですわあ」
 軽く頬に手をあてながら、チャイ・セイロンが同情するように言った。
「へーえ、どんな魔法を使うの?」
 興味を持ったらしく、ズィーベン・ズューデンがチャイ・セイロンに訊ねた。
「まあ、いろいろと」
 ちょっとだけ、チャイ・セイロンが言葉を濁す。
「ほんのちょっとですけれど、すぐに威力の強い魔法を使ってしまうので。前にリンちゃんにちょっかいを出した悪い人がいたときも、ちょっと力が入りすぎてしまいまして、関係ない周囲一帯を焼け野原にしてしまいましたわ。嫌ですわねえ、ほほほほほ」
 屈託なく笑いながら話しているが、よくよく内容を考えるとちょっと恐ろしい。
「でも、今はメイドなので少し力はセーブされているから大丈夫ですわ。現在のあたしの魔法は、ココのためにあるのですから」
 そう言うと、チャイ・セイロンは意味ありげに微笑んだ。
「ああ、見たことある人じゃん」
「ええ、本当じゃん」
「ほんとだ」
「ビデオにそっくりですわ」
 どやどやと騒がしく、一様に分厚いケープマントを羽織った羽高 魅世瑠(はだか・みせる)たちの一団がやってきた。
「いったいなんの話だ?」
 ココ・カンパーニュが怪訝そうな顔をする。
「知らないのかい。パラ実で出回っている、ビデオじゃん」
「国頭先輩リリースの裏ビデオじゃん」
「な・ん・だっ・て」
 羽高魅世瑠とフローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)の言葉に、ココ・カンパーニュがぴくりとこめかみをふるわせた。こんな格好をしているためか、意外と勝手に写真を撮られることは多い。もちろん、そんな奴はネガごと消毒してやっているが。
「ヴァイシャリーの戦いという、パラ実生なら血湧き肉躍る格闘ビデオですよ」
「なあんだ」
 ラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)の言葉に、ココ・カンパーニュはほっと胸をなで下ろした。
 ローアングルからスカートの中写しまくりの銭湯ビデオ、もとい、戦闘ビデオだということは言わなくていいのかと、アルダト・リリエンタール(あるだと・りりえんたーる)が羽高魅世瑠に耳打ちしたが、黙っていろとあしらわれた。
「とりあえず、後で、その国頭とかいう奴のことを教えてくれ」
「どうするん?」
「もちろん、悪はこの世から消毒してやるのさ。きれいさっぱりと!」
 聞き返す羽高魅世瑠に、ココ・カンパーニュは拳を握りしめて答えた。