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リアクション
「さて……ミルフィのためにがんばりますか」
神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)は水城真菜のチョコ作りに参加し、パートナーのミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)のためにチョコを作った。
でも、チョコ作りには有栖だけが参加していた。
ミルフィには内緒で準備したかったからだ。
エアインチョコをコーティングした可愛い一口サイズのチョコトリュフが出来上がると、有栖はそれを綺麗な箱に詰め、かわいくラッピングして持っていった。
行き先はミルフィとの待ち合わせ場所だ。
一方、ミルフィは有栖のいない間に、念入りにデートコースの下調べをしていた。
「商業組合のお勧めのところも割といいですわね」
バレンタインコンサートに夜景の見える場所に……と携帯をいじりながら、ミルフィはチェックを進めていく。
そして、時間になり、ミルフィも待ち合わせ場所に行った。
「有栖お嬢様〜♪」
ミルフィは待ち合わせ場所にやってきた有栖にうれしそうに手を振った。
大きな胸が揺れるくらいに元気に手を振るミルフィに、有栖はやさしい微笑で応える。
「おまたせしました、ミルフィ。それじゃ行きましょうか」
「はい!」
2人はバレンタインコンサートに行き、その後、レストランで食事をした。
コンサートは楽しく、ミルフィが選んでおいた食事も素敵なもので、2人の気分は盛り上がった。
食事が終わると、ミルフィがバイクを持ってきて、有栖にヘルメットを渡した。
「ツーリングに行きましょう、お嬢様」
「は、はい」
有栖はちょっとドキドキしながら、バイクに乗り、ミルフィにしがみ付いた。
ミルフィが有栖を連れて行ったのはヴァイシャリーの夜景の良く見える場所だった。
「わあ、素敵です……」
地上の星を眺め、有栖が微笑を浮かべる。
そして、有栖は今日作ってきた手作りチョコをミルフィに渡した。
「ミルフィ、これを」
「わたくしに……?」
ミルフィの確認に有栖は頬を染めてこくんと頷いた。
「うれしい……すごくうれしいです」
感激したミルフィはチョコを大事そうに抱きしめた。
ミルフィが喜んでくれたことを有栖も喜び、緊張しながら、そっと小さな声でミルフィに言った。
「ねえ……ミルフィ……」
「はい?」
「私達、いままで演技でキスをした事はあったけど……本当のキスって……した事、ありませんでしたよね」
有栖の問いかけにミルフィは頬を染める。
そして、問いかけた方の有栖も、頬を赤くしていた。
「……お嬢様……?」
ミルフィが有栖を見つめると、有栖はそっと目を閉じた。
ドキドキと緊張しながら、ミルフィはそんな有栖を優しく抱き寄せ、その唇に本当のキスをしたのだった。
「もう……信じられない!」
プリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)は待ち合わせ場所でナンパしていた恋人を見て、怒りに震えた。
ところが、ナンパしていた毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)はプリムローズを見て、何事もないかのように笑顔を向けた。
「やあ、プリムローズ」
しかし、プリムローズは答えずに、踵を返して行ってしまった。
およっという顔をして大佐は追いかけたが、大佐が後を追うと、段々とプリムローズの歩くのが早くなり、互いに早足になって、気づくとプリムローズが駆け出して巻かれてしまった。
「……拗ねたか」
そう思いながら、大佐はプリムローズを探す。
一方、巻いたほうのプリムローズは『バレンタイン限定・スイーツ食べ放題!』に駆け込んでいた。
「せっかくチョコも用意したのに……!」
泣きそうになりながら、ケーキやチョコを口に放り込んでいく。
健啖家のプリムローズは食べ放題の元が取れる……というか、お店の人が青くなるくらい食べまくった。
しばらくすると糖分が頭に回ったのと、お腹がいっぱいになったので、少し気持ちが落ち着き……。
「はぁ……」
今日はバレンタインなのにどうしようと思いながら、プリムローズは溜息をついた。
しかし、ずっと食べ放題にいるわけにもいかないし、街に一人でいても寂しいので、プリムローズは結局、百合園の寮へと帰ることにした。
「やれやれ、やっといた」
一人とぼとぼと歩くプリムローズの背中に声がかかった。
「え……」
プリムローズが振り返ると、そこにパッと花束が差し出された。
桜草とガーベラの花束を向けられ、プリムローズは黒の目を丸くして驚いた。
「これはいったい……」
「いったいって、プリムローズのために買ってきたのだよ。あと、これもね」
大佐は手の上に三日月の形にファイアーオパールのイヤリングを置いて見せた。
「誰かさんが方向感覚が鈍いから、何処にいるかも分からなくて……探すのに苦労したよ」
「…………」
探していてくれたんだ、とプリムローズは心の中で思い、じっと大佐を見た。
「どうした?」
「いいえ、その、これを……」
プリムローズはおずおずとチョコを差し出した。
それは用意しておいたハート型のチョコだった。
「うん、ありがとう。それじゃ帰ろうか」
大佐に手を差し出され、プリムローズはその手に手を重ね、仲直りして残り数時間のバレンタインを一緒に楽しむことにしたのだった。