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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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リアクション

 樹たちが大騒ぎしている間に、戦いは進んでいた。
 カーシュ・レイノグロス(かーしゅ・れいのぐろす)橘 恭司(たちばな・きょうじ)に倒されて、『天誅』と書かれたチョコと共にハルトビート・ファーラミア(はるとびーと・ふぁーらみあ)に回収され、百々目鬼 迅(どどめき・じん)は「その嫉妬心を狙い撃つ!」という浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)相手に善戦をしていたが、思わぬ伏兵が現れ動揺した。
 公園にリフル・シルヴェリア(りふる・しるう゛ぇりあ)が現れたのだ。
「あ、おう、リフル!」
 それまで走り回っていた迅が急に止まり、おろおろとする。
「…………」
 自分を見つめるリフルに(といってもリフルは単に見ただけなのだが)人は顔を赤くし、続いて弁解を始めた。
「い、いや、俺は何もしてねえぜ! そりゃ板チョコは大好きだし、色めき立ってる奴らを見てると、自分には何もないのが悔しいけど……彼女イナイ暦=年齢な俺には確かに鬱憤はあるさ! でも、ここまで来るのだって単にバイクで暴走してただけだ! 『チョコを巻き上げてやるぜ!』っていきがっちゃみたが、結局、一つもそんなこと出来てないし……」
 リフルが聞いてもいないのに、迅は必死に弁解する。
 基本的にリフルは他人にあまり興味がないので、よほど積極的にアプローチをかけてきた相手でもない限り、なんとも思ってないし、気にもかけない。
 だが、迅のほうは、リフルを可愛いと思っていて、恋心を抱いていたのだ。
「……狙い撃つ!」
 翡翠はその隙を見逃さず、攻撃をした。
「ぐはっ」
 迅、撃沈。
 翡翠のパートナー永夜 雛菊(えいや・ひなぎく)は迅に『天誅』と書かれたチョコを置いた。
 しかし、それだけでは哀れと思った翡翠から預かった市販のチョコの小包も迅の手に握らせてやり、雛菊は去った。

「水渡さんからチョコをもらったか……裏切りか、メガネ!」
 いつの間にかシャンバラン・神代 正義(かみしろ・まさよし)の攻撃は山葉に向いていた。
「いや、見てのとおり、投げつけられただけだろうが! それとも、こんなんでもうらやましいか!」
「だだだ誰がうらやましいって!?」
「あー、もういいから寝ろ、シャンバラン」
 ケンリュウガー・武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)がシャンバランの頭を殴って止めた。
「何をする、うわっ!」
「これは……熱い思いを込めた拳だ!」
 ケンリュウガーは、君が泣くまで僕は殴るのをやめない勢いで殴り、自らも仮面の下で涙を流した。
 フルボッコにされたシャンバランは空中に向かって手を伸ばし、嫉妬刑事らしい最後の台詞を言った。
「……覚えておくがいい。嫉妬を駆る者も、いつか自らも嫉妬の炎に燃やされる日が来る。二兎追うものは一兎をも得ず。山葉のようになるな、ケンリュウガー……」
 パタリとシャンバランが倒れる。
 そのシャンバランの上に『天誅』と書かれたチョコが置かれた。
「さて、どうする? 暗黒卿リリィ」
 残ったリリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)にケンリュウガーが問いかけると、リリィは武器を下ろした。
「負け戦を続けても、意味などないわ」
 戦いの場所が公園になってしまい、廃工場にダンボールを積んで作ったアジトは無駄になってしまったが、ギャラリーの多いところでケンリュウガーがヒーローらしくできたのは、リリィにとっても悪くないことだった。
「人質は解放するわ。それじゃ」
「あ、あれ、いつの間に香鈴が……」
 山葉は納得行かないようだったが、その山葉の前にケンリュウガーが立ち塞がった。
「これで……終わりだ!」
「ヒャッハー! トリをヒーローがとろうなんて事は、このモヒカンがゆるさねえぜ!」
 かっこよく最後を飾ろうとしたケンリュウガーの前に南 鮪(みなみ・まぐろ)が現れた。
 そして、その傍らには花音が居た。
「か、花音!?」
 驚く山葉を見て、鮪はご満悦な表情を浮かべた。
「何を驚く〜? さあ、見るがいい! この絆値を! お前は10! 俺はお前の倍の20! この意味が分かるか! メガネ!」
「い、意味って何だよ!」
「絆ってのはなぁ、大事な人と上げるんだよ。今回、デートしてるカップルどもを見るがいい! 人によっちゃ、50とか70とかありえない数字になってるぜ!」
「それキャラクエ廃人の数字だろ! だいたい絆なんてただの数字だろ。そんな数字に意味があるのかよ!」
「はぁ〜ん? お前がさっきチョコ配りの姉ちゃんのパートナーに言ったとおりさ。たかがキャラクエ、されどキャラクエ。使いやすいスキルを持った自分よりレベルの高い、それほど仲の良くない奴を連れて行くか。プロフィールに表示したいがために、どんなレベルの離れた恋人でも一生懸命連れていくか。そこに相手を思う気持ちとか、大事にしてるのとかが現れるんだよ!」
 クックックッと鮪が笑う。
「絆ってのは怖いぜ〜。いろんなものが露呈するからな。世の中、レベル10のNPCでも必死に連れて行って愛を示す奴もいるのさ。そして、この絆値が示すことは……俺のほうがお前よりも2倍花音のパートナーにふさわしいってことだ! ヒャッハー!」
「くっ……」
「いい時代になったものだ。廃人は心置きなく欲しい絆を手に入れることが出来る。さあ、花音、俺との絆の方が高いと言ってみろ」
「高いわね」
 あっさりと花音は認めた。
「ヒャッハー! 聞いたか山葉、女の心変わりは恐ろしいのう! 置き土産にこれをやろう!」
 鮪はチョコを投げつけ、山葉の胸に七つのチョコを北斗七星のごとく並べた。
「置き土産……?」
 この変なチョコの染みかと思った山葉だったが、そのチョコからにょきにょきと何かが生えてきた。
「え……えええっ!」
 生えてきたのは土器土器 はにわ茸(どきどき・はにわたけ)だった。
 頭に花音の顔写真は貼られ、体には花音と書かれた文字が張り付いている。
「くやしいのう、くやしいのう、わしらはただの当て馬なんじゃ」
 にょきにょきと生えたはにわ茸がどんどん大きくなる。
「まったくもっていい時代になった。最近ではNPCのLC化と言うのがあるからな。花音は俺のLCにしてやろう」
「本当?」
 見つめてくる花音に鮪はうんうんと頷く。
「安心しろ。俺には機晶姫、ゆる族、英霊、アリス、ハーフフェアリー、地祇しかいないから、剣の花嫁は花音だけだ。大事に扱ってやる」
「それなら安心だわ」
「さあて、じゃ、帰ってどんな光条兵器がいいか考えるか」
 鮪が花音の肩を抱いて行こうとする。
「ま、待ってくれ、花音!」
 山葉が止めようとするが、にょきにょきと体から生えたはにわ茸が大きくなり、重くなって動けない。
「わしはお前の嫉妬を吸って大きくなる。お前の汚い心を吸って大きくなる……」
 呪いのような言葉と共に、はにわ茸はますます大きくなる。
「そのの新しい花音を大切にしろよ」
 ハーリーに花音を乗せて、鮪は去っていった。