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リアクション
着信音
突然倒れた孫権に動揺しつつもカリン・シェフィールド(かりん・しぇふぃーるど)はバズラとの勝負に集中するよう努めた。
その結果、カリンは満身創痍になりながらもバズラに一矢報いることに成功した。
「この……っ」
だいぶ深い一撃を食らったバズラは、足元をふらつかせながら後退していく。
膝を着いたカリンもこれ以上動くのは無理そうだった。
受けた傷が深く、退却を余儀なくされて悔しさに顔を歪めるバズラへ、カリンは不思議な親しみのこもった微笑を見せた。
「あんたのことが嫌いってわけじゃないんだよね。どちらかというと好きな奴だからこそ、覚えられたいんだ」
「あたしはアンタなんか嫌いだよ! 次に見かけたら息の根止めてやるから覚悟しろ!」
捨て台詞の残し、バズラは引き返していった。
もちろん、ただ引き返すだけではない。金剛へ増援の要請に行くのだ。この時点ですでに剛次がその準備を進めていることは、まだ伝わっていなかった。
一時退却の支持を飛ばすバズラの傍に桐生 円(きりゅう・まどか)達がいた。
遅ればせながら防衛部隊を整えたヨシオが、孫権が倒れたという知らせにますます顔を青くしながら駆けつけた時、円達の中に探していた立川 るる(たちかわ・るる)の姿を見つけた。
瞬間、今まで見かけだけは毅然としていたヨシオの中身にも変化が訪れた。
それを感じ取れたのは、あの後追いついた吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)やずっとヨシオについていた百々目鬼 迅(どどめき・じん)だった。
「あれは生徒会軍……やつらがるるさんを。竜司先輩、迅さん、あいつらからるるさんを取り戻すっすよ! 力を貸してください!」
口調は素のヨシオになっていたが、発言内容はお願いではなく命令だった。
るるさーん、というヨシオの声に、るるの頭の中を覆っていた濃い霧が消えていく。
「おや、戻っちゃったか」
たいして気にしたふうでもなく円が呟いた時、るるが火術で周囲の者を退け逃げ出した。
その頃、すっかり静まり返ったミツエ軍では、いまだ意識の戻らないミツエと劉備を囲みため息をつくしかない仲間達の姿があった。
誰かがもう何度目かのため息をそっとこぼした時、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が息を切らせて駆けつけてきた。
ドージェからの伝言を持ってコンロンから帰って来た歩だったが、青白い倒れているミツエを見ると負けないくらい真っ青になってその傍に膝を着いた。
「……こんなことになっても、戦う相手ではなかったって言うの!? ドージェさん!」
ミツエの手を取っても、まるで死んでいるかのようにひんやりしていた。
「ミツエさん、ドージェ……達也さんからの伝言だよ。『俺は先に行く。お前はまだ寄り道する気か?』だって。聞こえてる?」
ミツエはひんやりとして顔色も悪いが死んでいるわけではない。
劉備が言っていた反動が、伝国璽を壊されたことで出たものと思われる。
達也さんからの伝言、という言葉に反応したのかミツエの指先がわずかに動いた。
「ミツエさん!」
歩がきつく手を握り締めて名前を呼んだ時、長いこと鳴らなかったミツエの携帯が鳴った。
ミツエの英霊達が意識不明である以上、送信者は一人しかいない。
ドージェだ! という周囲の叫びと同時にミツエの目が開いた。今まで昏倒していたのが嘘だったかのように。
ガバッと起き上がったミツエは、小物などが詰まっている鞄を忙しなくあさり携帯を取り出した。
受信したメールを確認したとたん、ミツエの表情に活力が戻る。
素早く返信したミツエは、携帯を握り締めたまま気まずそうに仲間達の顔を見回した。
そして一言、いつもの愛想のない顔で。
「……ごめん」
と、ぶっきら棒に言った。
続けて劉備も目を覚ました。
酷い目にあいました、とか何とか呟きながらこめかみのあたりを揉んでいる。
ひながミツエに現状を簡単に説明した。
イリーナが、ヨシオに同盟を求めに行った者達を追ってミツエ自身も行くべきだと進言する。
「イルミンの制服を着ていけばいいだろう。良雄は敵より味方にしたほうがいい。私も行こう」
「ようやく正気を取り戻したか。わしもイリーナ殿に賛成じゃ」
やれやれ、といった顔で水洛 邪堂(すいらく・じゃどう)が言えば、大野木 市井(おおのぎ・いちい)や和希、優斗もそれがいいと勧めた。
ライバルと手を組むのか……と、ミツエはしばらく考えたが、やがてその意見を認めて立ち上がった。
「あたしは今からヨシオに会うわ。ひなと天華、優斗にはここを頼むわね。それと、天華の悪い噂も消してくるわ」
イルミンスール魔法学校の制服に着替えたミツエは、歩やイリーナ、邪堂、市井達と共に陣営を抜け出した。
道中、イリーナと七瀬 巡(ななせ・めぐる)がミツエを気遣って言った。
「ミツエ、我慢せずに泣いてもいいんだぞ」
「うんうん。『しつれんしたときはがまんせずにないたほうがいいよ』って、この前テレビでカッコいい人が言ってたー」
イリーナはともかく直球な巡の発言に、ミツエはツンとして言い返した。
「別に我慢なんかしてないわ」
「じゃあさ、野球やろうよ! コンロンからの逆輸入大物るーきーのボクの球が打てるかなー?」
ミツエの態度などまったく気にしていない笑顔で、ピッチングポーズをとる巡。
『野球』と『コンロン』にミツエの眉がピクリと揺れる。
「まさか、達也さんから直々に指導されたんじゃないわよね……?」
「フフフフーン♪」
「む……。フン、どんな球だって、あたしにかかれば全部ホームランよ!」
騒ぐ巡とミツエに、歩はホッとしたように微笑んだ。
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