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嘆きの邂逅~闇組織編~(第4回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第4回/全6回)
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「のわはははははっ、出られんぞ!」
 勝手口の方から、作戦立案者である青 野武(せい・やぶ)がパートナー達と突入をする。
「この先は出口ではありません。深い暗闇です」
 黒 金烏(こく・きんう)は野武と共に、闇黒ギロチンを構えて勝手口の前に立ちふさがり。
「人を呼んだらダメですよ。満席ですから」
 青 ノニ・十八号(せい・のにじゅうはちごう)が、情報攪乱で集っている者達の連絡を妨害していく。
「動くなって行ってんだろ!」
 仲間を呼ぼうとしていた者達が脱出を図ろうとするが、アクィラがドリルを手に突進してくる。
「の、のののみに来ただけだっ」
「いい仕事もなかったし、ちょうど帰ろうと思ってたとこだぜ」
 男達は壁に背をついて手を上げる。
「どけどけどけどけ」
「冗談じゃねェぜ!」
 客達が出入り口に押し寄せてくる。
「ダメじゃん!」
 アンドレが体当たりで突き飛ばして、阻んでいく。
「こちらも通行止めです。一般客かどうか、判断がつきませんからね」
 紋章の盾を押したて、シラノ・ド・ベルジュラック(しらの・どべるじゅらっく)は野武と金烏の護衛をしている。
「拡声器か、貸せェ!」
 竜司が拡声器をみつけて、奪い取り、口に当てた。
「ぐぉばおえぇぇぇー、ごあぎぃぃぃー、どあごあげぃぃぃー!」
 歌っているつもりなのは、恐れの歌だ。
 歌のせいか、歌声のせいか、店にいる者たちが震えあがっていく。
 混乱して窓から逃げようとして、店側が仕掛けた罠にはまる者も出だした。
「店長はあの方ですわ」
 戦いながらジュリエットが指差したのは、カウンターの下に蹲り様子を伺っている八郎右衛門だ。
「手前は雇われ店長にすぎません」
「ぬあらば、雇っている相手のことを聞くまでじゃ」
 野武が言い、金烏が闇黒ギロチンを八郎右衛門に向ける。
「ひっ……無抵抗な小市民になんたるなんたる蛮行……」
 なんとか脱出できないものかと八郎右衛門は周りを見回すが、血気盛んな者達は全て倒され、手を上げている客ばかりだ。
「ここでの尋問はご近所の迷惑になりますな。連行しましょう」
 金烏は、八郎右衛門を捕らえて縛り上げ、十八号に身柄を押し付ける。
「あ、やっぱり僕が担ぐんですね。うぐぐっ」
 十八号は八郎右衛門を担ぎ上げると、シラノに護られながら裏口から脱出していく。
「撤収!」
 野武が声を上げた途端、一同出入り口、飛べるものは天井の穴から脱出していく。
「すっきりしたぜェ、帰るぞ!」
 竜司は拡声器を投げ捨てて、裏口へと走る。
 耳をふさいでいた舎弟達も竜司に続いて裏口へ向う。
「ざっとこんなもんさ」
「この土木作業員のような格好はいただけないけど」
 アクィラとアカリはそう言葉を残して、入り口から外へ走り出る。
「はわわわわ、置いていかないでくださぁい〜」
 クリスティーナは遅れそうになりながら、皆の後に続く。
「よし、金庫を……じゃなかった、これらは戦利品としていただくじゃん!」
 カウンターの奥にあった帳簿のような束や依頼書をアンドレは回収してから皆の後を追う。
「申し訳ありません……」
 ジュスティーヌは振り返りながら、巻き添えになった明らかに客でしかない人物にヒールをかけた。
「いそぎますわよ!」
 ジュリエットの厳しい言葉が飛び、ジュスティーヌも急いでその場を離れていく。

 亜璃珠は外部から、野生の蹂躙で敵の逃走や追跡を阻んでいた。
 その表情には、少し迷いがある。
 組織の注意をこちらに向けさせることが、この作戦を支持した理由だけれど……。
「!?」
 気配に気付いた時には、背後から首に手を回されていた。
 短刀が頬に押し当てられる。
「引いてはくれまへんか?」
「用が済んだら引くわよ」
 慎重にそう答える。相手は女だった。
「……気をつけて。指揮官なんやろ。護衛つけなくてどないしはるの」
 そう女は言うと、亜璃珠の手に紙を握らせる。
 手を引き、亜璃珠を突き飛ばすと、女は身を翻して駆けていった。
 敵、ではないと判断し、亜璃珠は攻撃を仕掛けなかった。
 黒い着物に、紫の紗羽織姿の少女だった。
 手の中の紙を開いてみる。
 組織の――賞金首のリストだ。
 そのリストの中には、ラズィーヤ・ヴァイシャリーや……アレナ・ミセファヌス、神楽崎優子の名前もあった。
 くしゃりと紙を握り締めて、亜璃珠は店から飛び出した皆と合流をする為、闇の中を走っていった。

 黒い着物姿の少女――橘 柚子(たちばな・ゆず)は、遠く離れてから振り返る。
 亜璃珠達、闇の中に消えていく神楽崎分校生の方に目を向けた後、店の方へと歩き出す。

〇     〇     〇


「パラ実の神楽崎分校の奴等、ナメた真似しやがって……!」
 柄の悪い痩身の男が、裏口から飛び出し携帯電話を取り出した。
 兼ねてからこの酒場にいた男。
 ツイスダーという男の舎弟だった男だ。
 直後――。
 その男の体が吹っ飛ぶ。
「はあっ!」
 起き上がる前に、遠い当てを放った少女、桐生 ひな(きりゅう・ひな)が飛び込み、男の体に轟雷閃が打ち込む。
「ふぐっ」
 男が口から血を吐いた。
 すっと、タキシードを着た男性が近づき、倒れた男を見下ろす。
「死ぬ覚悟があってここにいるんですよね」
 月明かりの下で、タキシードを着て男装したナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)が軽く、微笑みを浮かべた。冷たい目を見せながら。
 そして、トマホークを振り下ろす――。

「はよーです」
 翌朝、何事もなかったかのような笑顔で、ひなはマスクと呼んでいる青年と合流をした。
「1人じゃ運べないので、来てほしいですっ」
 そう誘って、ひなはマスクを裏路地へ連れて行った。
 人気のない場所に、段ボールが一つ置かれている。
 その箱をひなが開けてみせると、中には――。
「ピエロ?」
「ナガンですっ」
「!?」
「……の、偽死体ですー。良く出来てるでしょ? 本人がメイクしたんですー」
 ナガンの姿はもうここにはなかった。「墓くらい立ててやる」と、肉体の一部を持って、去っていった。
 死体の右腕には機晶姫の腕がついている。左手は岩巨人の腕だ。
 右足は膝下が義足になっている。
 ……損傷が激しい死体だった。
「……」
 マスクは青くなって突っ立っているだけだった。
 ひなは段ボールを閉じながら、少し心配になる。
「大丈夫ですか〜? 組織に運びますよ?」
「あ、ああ……」
「ん〜」
 ひなは眉を寄せながら聞いてみる。
「こういう仕事苦手そうなのに、どうして組織に拘るんです?」
「こういう仕事ばかりじゃないだろ。ひなこそ似合わない。足を洗った方がいいよ」
 逆に、心配そうな目で、マスクはひなを見たのだった。
 そして、一緒に段ボールを持ち上げて、とりあえずマスクの宿泊先に運び込み、組織からの連絡を待つことにした。

「そーしん。にひひ」
 ナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)は、ひなからちょっと離れて、ついていきながら、いつものように、友人達とメールのやりとりをしまくっていた。
 亜璃珠からは、今回の襲撃の話などの連絡を受けていた。
 その見返りとして、タキシードをまとって颯爽と歩いていたあの人物を隠し撮りした写真を送っておく。
「無理し過ぎない様に気を付けるのじゃぞー、っと」
 黎明へのメールの最後には、そう気遣いの言葉を入れる。
 隆光とは連絡がつかなかった。
「さて、にゃがんは大丈夫かのー」
 ナガンが消えた先に目を向けた後――ナリュキはひなとマスクを走って追いかけ、段ボール運びに手を貸すのだった。