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パラ実占領計画 第二回/全四回

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パラ実占領計画 第二回/全四回

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太平洋の孤島


 面倒だ面倒だ、と口癖のように言いながらも高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)はチーマーに見えるような服を調達し、彼らに接触した。
「なーなー、この前レンクンが突き落としたでけーのいたじゃん? あれの兄弟って今どこにいんだっけ? 地球のダチが見たいって言ってさー」
「んあ? 病人を見たいのか? 変わった奴だな。空京の病院だぜ」
「あれ?」
 予想と違う返答に、一瞬目を丸くする悠司。
 地球人からすれば非常に珍しいだろうティターン族だから、見世物っぽい扱いを受けていると思っていたので、空京の病院というのは意味がわからなかったのだ。
「……そうか、病院か。サンキュ」
 ついでに病院の位置も教えてもらい、悠司は空京へ向かった。

 病院に着き、面会を申し込めば看護士に案内された。
 廊下を歩いている時から変だなと思っていた悠司。
 どう見てもふつうの人間サイズの作りの建物だ。
 立ち止まった看護士のノック音で病室のドアに視線を移す。
 悠司と同じように、隣ではレティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)が不思議そうにしていた。
 看護士が病室を出て行き、ベッドの上の人物と目が合ったとたん、悠司はどう反応していいのか戸惑った。
 普通サイズだ、と驚けばいいのか、ガイアと似てないと叫べばいいのか。
 目の前の病人は、長いこと外に出ていないせいで抜けるような色白の女の子だった。
「こんにちは。ボク達ガイアさんのお友達のレティシアと悠司だよ」
 悠司が反応に困っている間にレティシアが進み出て、にこやかに挨拶をする。
 彼女の明るい雰囲気とガイアの名前に安心したのか、少女の緊張が解けたのがわかった。表情にもやわらかさが窺える。
「こんにちは。ガイアお姉ちゃんは、元気?」
「えと、うん、元気だよ」
「あんたの様子見てきてくれって頼まれたんだ。来れなくてすまないってさ」
 笑顔が引きつりそうなレティシアを少女からは見えない角度から小突き、悠司が嘘を言う。言いながら、自分の表情も硬くなっていないかと気にしながら。
 しかし、少女は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。私も元気……だよって伝えてくれる?」
 途中で詰まったのは、自分が病室から出られないことを思い出したからか。
 それから彼女は寂しそうに、何かに堪えるように眉を八の字にする。
「お姉ちゃん、私の病院代のために無理してないかな……。ここに移ってから凄く良くなったけど……わがまま、言っちゃダメだよね」

 病院を出た悠司は、うーんと唸った後、このことを吉永竜司へメールした。
「あれじゃ、連れ出したらこっちが悪者だ」
「でも、ちょっと寂しそうだったね」
 人質なら連れ出してしまおうと思っていた。そうすれば、ガイアの憂いはなくなる。
 けれど病人で、それも難しい病で入院しているとなるとそうもいかない。
 たとえ、治療費を払っているのがレンだとしてもだ。
「めんどくせーなぁ、トロールめ……」
 せめて、ささやかな八つ当たりくらいしかできなかった。

卍卍卍


 場所は変わって海京。
 港の海鮮市場を歩く賑やかな四人組──いや、賑やかなのはその内の二名か。
「アルー、ワシ腹減ったぎゃ! どっかの居酒屋で飯でも食わないぎゃ? あそこが美味そうぎゃ!」
 後ろでまとめた髪を跳ねさせながら、あそこあそこと一軒の居酒屋を指差す子供。見た目は子供だが実際は二十歳を越えている。地祇の特徴なのだが、すれ違う人達は『お父さんの真似をしている子供』を見るような、どこか温かな目で見ていった。
 その場合、この見た目子供の親不孝通 夜鷹(おやふこうどおり・よたか)のお父さんはアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)になってしまうわけだが。
 代わりに答えたのはヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)だった。
「真昼間から居酒屋が開いてるわけないでしょ。おばかさんね」
「ばかじゃないぎゃ! なぁ、アルー、ヴェルー何か食うぎゃー。マグロ、マグロ! おごってくれなきゃヴェルを『カマ』って言うぎゃー!」
 とたん、ヴェルがキッと目を吊り上げた。
「なんでアンタに『カマ』呼ばわりされなきゃなんないのよ! ちょっとゾディ、こんなとばっちりいやぁよ、アタシ」
 ヴェルの言葉遣いは女性的だが、身も心も男性である。
 話をふられたアルテッツァは苦笑して夜鷹をなだめた。
「ヨタカ、はしたないですよ、こんなところで大騒ぎなど。……ですが、そうですね、せっかくですからお寿司でもいただきましょうか」
 夜鷹はぴょんぴょん飛び跳ねて喜び、とうとう六連 すばる(むづら・すばる)に押さえつけられた。
 そうして入り込んだ食堂の並ぶ通り。
 どんどん奥へ行く夜鷹をアルテッツァが引きとめた。
「このお店にしましょう」
 今の予算では一番高い寿司屋。
 もっと奥に行けば行くほど値段が高くなる。
 夜鷹は今度は騒がずにアルテッツァに従った。
 四人がのれんをくぐった時、後ろを通り過ぎていく男女二人があった。
 シャンバラ教導団団長の金 鋭鋒とこの前フマナで龍騎士の一人を倒したという横山ミツエだ。
 ミツエがその時に借りたイコンを返しにきて、その後鋭鋒がここの寿司屋に誘ったのだ。
 二人はどんどん奥へ行く。
 結局鋭鋒が案内したのは、ここでもっとも高級な寿司屋だった。

 そしてアルテッツァ達はというと、それぞれが注文した寿司に舌鼓を打ちながら聞こえてくる話に耳を傾けていた。夜鷹だけは鉄火丼に夢中だったが。
「ふぅん、太平洋の棄てられた米軍基地にイコンねぇ。ねぇゾディ、そのイコン……」
 妖しく微笑むヴェルにアルテッツァも興味深そうな顔で頷く。
「成功すれば学院の益になりますかね?」
 すばるを見やれば、異存はなさそうだ。
 と、その空気をぶち壊すように夜鷹のおかわりを求める声があがった。


 パラ実四天王が集められているらしい太平洋の孤島まで乗せてくれるというパラ実OBのマグロ漁船に乗り込もうとした時、トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)の携帯が鳴った。
 携帯に出ると聞こえてきたのは連絡を待っていた魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)からで。
『石原校長ですが、裁判中で会えませんでして。そちらは今どこにいます?』
「これから船に乗るところ。そうか、仕方ないな。わざわざすまない」
『いえいえ。お気をつけてくださいね』
 通話を切ったトマスは、一息つくと船に乗り込んだ。
 子敬には東京に行って石原肥満校長に協力してほしい旨を伝えてもらおうとしたのだが、裁判中に相談できるわけもなく。
 無駄足を踏ませてしまったことを申し訳なく感じた。
 全員が船に乗り込むと、船は静かに出港した。
 船長のパラ実OBが落ち着いたのを見計らい、吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)は孤島について尋ねた。
「いつの間にか妙なやつらが住み着いてたんだ。けど、基地にさえ近づかなけりゃ何もしてこねぇしな。最近噂のイコンもいるみてぇだし……。だがどうもキナ臭ぇんだ」
「廃棄された軍事基地に勝手に住み着いてる時点でキナ臭ぇだろ」
 そりゃそうだ、とOBは笑う。
「四天王を集めだしたってのはいつだ?」
「わりと最近だな。ほら、おめぇらが甲子園で野球やったろ? あの少し後だ」
「……そうか」
 計画自体は、新入生歓迎の時の【瞑須暴瑠】をした時からあったのかもしれない。あの時、ガイアはすでに様子が変だったから。
 竜司は苛立ちで舌打ちした。