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ゴチメイ隊が行く4 ひょっこり・ぷっかり

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ゴチメイ隊が行く4 ひょっこり・ぷっかり

リアクション

 
 

光る塔

 
 
「それ、先週の没ハガキだから、ちゃんと倉庫に保管してね。大谷さん、手伝ってあげて」
「は、はい」
 シャレード・ムーンに命じられて、大谷文美が段ボール箱をかかえた日堂 真宵(にちどう・まよい)をパタパタと手伝いに行く。
「それで、そっちの方は原因が分かった?」
 放送機器の接触を確認しているアーサー・レイス(あーさー・れいす)に、シャレード・ムーンが訊ねた。
「うーん、まだデース。機械におかしい所はないみたいなのデースが……」
 いじくっているわりには機械関係のスキルを持たないアーサー・レイスであった。
 最近、とみに放送機器にノイズが入るようになって、ラジオ・シャンバラではちょっとした問題になっていた。
 それなら、わが輩に任せなサーイということで名乗りをあげたアーサー・レイスであったが、その時点で何を任されるのか自覚していないところが凄い。
「で、結局……」
「よく分かりまセーン」
 はははっと、あっけらかんと笑いながら、アーサー・レイスが答えた。
「こうなったら、カレーデース。カレーをかければ、すべての機械はたちどころに修理さ……」
「確実に修理が必要になるわよ! この無能バイト! この、この、この!」
 口は災いの元、カレーは自滅の元。アーサー・レイスは、シャレード・ムーンにハイヒールでゲシゲシと踏まれていった。もちろん、本人が喜んでいたのは言うまでもない……。
 
    ★    ★    ★
 
「ったく。アーサーのせいで、また生活費を稼ぐはめに……。働けど働けど、我が暮らしカレーのために楽ならず。じっと手を見る……」
「大変ですねえ」
 はあっと大きく溜め息をつく日堂真宵に、大谷文美が同情するように声をかけた。
「あなたもいつもバイトしてるけど、生活大変なの? まさか、毎回バイトクビになって、ふらふらの文美さんだったりするとか……」
「そういうわけではあ。派遣会社に登録してるのでえ、いつもいろいろなとこに回されちゃうんですぅ」
 よいしょっと、倉庫の棚の上に段ボール箱とたっゆんを載せて大谷文美が答えた。一瞬、日堂真宵に殺意が芽生える。
「派遣ねえ。先日のメイドコンテストでも仕事してたわよね。いろいろな仕事してるみたいだけど何か面白いバイトとか知らないかしら? 知ってたら何か紹介してほしいのよね」
「そうですねえ。そうそう、そういえば、なんでもゴチメイの人たちが宝探しに行くとかで……」
「何、それ、なんの話!?」
 宝探しという言葉に過剰反応して、日堂真宵が大谷文美に詰め寄った。
「いつ、いつなのそれ?」
「ええとお、この間の投稿ハガキにありましたからあ、確か今日かとお。もう、出発しちゃったんじゃないでしょうかあ」
「しまったあ! 出遅れたあ。お宝があぁぁぁ!」
 日堂真宵が、両手で頭をかかえて悔しがる。何もそこまで悔しがる必要はないのに……。
「うるさいわよ。さぼってないで荷物運びしなさい。それから、大谷さんはちょっとこっちへ」
 アーサー・レイスを踏むのに飽きたシャレード・ムーンが、大谷文美を手招きした。
「ここへ行ってきてちょうだい」
「なんですぅかあ?」
 渡されたメモを見て大谷文美が小首をかしげた。
「面接に行ってきてほしいのよ」
「面接ですかぁ。無理です。無理、無理、無理。だいたい、なんの面接なんです」
 ぷるんぷるんと全身を震わせて大谷文美が拒絶する。
「いやあ、バイトの面接だと思って受けたんだけれど、なんだか、むこうはラジオドラマのオーデションと勘違いしているようで……。ほら、ミニドラマコーナーで、送られてきた音声を適当にリミックスして、でたらめドラマにしているのがあるじゃない」
「ああ、あれですかぁ」
 以前の放送を思い出して、大谷文美がうなずく。
「とりあえず、音素材はほしいから、また送ってくださいって回答でいいから行ってきて相手してきてね」
「私より、シャレードさんの方が……」
「あたしが行ったら、また優遇されたと勘違いされかねないでしょ。適当に距離をおいて対応してきてね。じゃ、任せたわよ」
「はわわわわわ……」
 押し切られる形になって、大谷文美はしかたなくラジオ局を出ていった。
 
    ★    ★    ★
 
「御苦労であったな。わざわざラジオ局の外の喫茶店で事前説明とは。それで、オーデションはどこでいつ行われるのだ?」
 待ち合わせ場所の喫茶店のカフェテラスで、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)がテーブルの上に身を乗り出して大谷文美に訊ねた。
「ええとですぅ、それは勘違いでぇ。あのドラマは応募された音声をつなぎ合わせてドラマにしているので、スタジオ収録はしていないんですぅ。ごめんなさいっ!」
 オーバーアクトで謝った大谷文美が、ゴツンとテーブルに額をぶつける。
「いったあい……」
「おおっと……」
 テーブルが倒れそうになって、悠久ノカナタがあわててテーブルを押さえた。大谷文美も、少し遅れて椅子を蹴って立ちあがると、一緒になってテーブルを押さえる。いや、どちらかというと、悠久ノカナタが押さえたテーブルのバランスを再度崩そうとしたというのが正解だろうか。あわてて、悠久ノカナタがバランスをとりなおす。
 二人の女の子がバタバタとしているあおりを食らって、悠久ノカナタが必要になるかもと思って持ってきていたバッグが蹴っ飛ばされて倒れた。中から転がりでたのは、用意してあった魔法少女の衣装ではなく、シス・ブラッドフィールド(しす・ぶらっどふぃーるど)だ。
 もともとは、ひなたぼっこしていながらラジオを聞いていたシス・ブラッドフィールドが、悠久ノカナタに「オーデコロンの話をしていたにゃ」と番組内容を言ったのを、悠久ノカナタが「オーデションの話があるにゃ」と聞き間違えたのが誤解の発端である。
 その後、寝床によさそうなバッグの中にわたげうさぎと共に潜り込んだまではよかったのだが、眠っているうちに空京にある喫茶店まで運ばれてしまったというわけだ。
「むにゃむにゃむにゃ……」
 気持ちよさそうにわたげうさぎをだきしめたまま、団子になったシス・ブラッドフィールドがごろごろと転がっていく。そのまま、コロンと側溝に落ちた。驚いて目を覚ましたわたげうさぎが、水のない側溝を走りだしていく。おそらくは、雨のときの排水口だろう。
「ああ、待つにゃ!」
 わけが分からず、シス・ブラッドフィールドは走りだした。なんとかわたげうさぎを捕まえると、あらためて周りを見回してみる。
「ここはどこにゃ?」
 長く厳しい家路の始まりであった。
「とりあえず、あっちに見える塔みたいな物の方へ行ってみるにゃあ」
 そうつぶやくと、シス・ブラッドフィールドは、ランドマークになりそうな鉄塔を目指してとことこと歩きだした。