校長室
冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)
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第5章 チャンドラマハルの死闘【紅蓮編】(3) 「おーい、大丈夫か? しっかりしろ?」 伊達イタリアンシルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)は戦場をこっそりと渡り歩く。 今回、サルベージ担当を買って出た彼は、戦いに倒れた仲間の回収に力を注いでいる。 ルミーナの奪還に成功したとしても、抜け出したガルーダが気絶してる誰かに憑依してしまうかもしれない。 無用な面倒ごとを避けるため、こうして負傷者をガルーダから引き離してるわけである。 「……しかし、なんでこいつら裸なんだ?」 至極の当然の疑問に首を傾げつつ、負傷した総司と翔を抱きかかえる。もう一人、武尊もいるが手が足らない。 どうしたものかと考えてると、見えない力が武尊を持ち上げて倒れた柱の影にまで運んだ。 「どうなってんだ……?」 後を追うと、柱の影に本郷 翔(ほんごう・かける)の姿があった。 見えない力は彼のサイコキネシスらしく、ふわふわと浮かぶ彼をゆっくりと地面に寝かせる。 彼は負傷者の治療を迅速に行うためのサポートを行っていた。怪我人を回収し治療出来る仲間の元に運ぶ。一見すると地味だが、負傷しても治療してもらえる体制があるのは全体の士気に関わると考え、執事らしく立ち回っている。 「そちらのお二人もそこに寝かせてください」 「ああ、ここでいいか?」 「……すいません。何故、この方たちは全裸なのでしょう?」 「さあ。煙幕が凄かったから、中で何があったかまではちょっと……」 見たところ、総司と武尊の傷はそこまで深くはない。 翔はただでさえ重症なのに無理がたたって悪化している。無理はさせられない。 「とりあえず、弥涼様と国頭様は多少傷を癒して差し上げれば戦線復帰は出来そうですね」 「……勘だけど、復帰させないほうがいいと思うぜ」 「不思議でございますね。私もどういうわけかそう感じておりました」 キャンペーンのシリアス度を下げないためには最良の判断である。 「ですが、治療は必要です。シルヴィオ様は治癒魔法は?」 「いや、俺は……」 「私がヒールを使えますわ」 身を屈めて、シルヴィオの相棒アイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)が柱の影にやって来た。 「ソール、あなたもこちらを手伝ってください」 そう言って、翔は鬼院尋人の治療していたソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)を呼んだ。 「へいへい……、人使いが荒いんだから」 ポリポリと頭を掻くソールは、アイシスの姿を見つけると、はっと息を飲んだ。 ささっと髪型を整え、スキップを踏んで彼女の隣りを陣取る。 「失礼するぜ、美人さん。どれ、俺に見せてみろ……ううむ、こいつは酷い傷だ。まるでスタンクラッシュで脳天をカチ割られたような……。よし美人さん、俺と手と手を取り合って回復魔法を施そうじゃないか。まず手を重ねて……」 「あの……?」 「おいおい、うちの相棒をナンパしないでくれよ」 「なんだ、お目付役がいるのかよ」 やれやれ、と溜め息。 「あんたは戦場を走り回って怪我はしてないのかい?」 「俺なら大丈夫さ。なんとかデスプルーフリングを借りられたし、穢れの中でも問題なく行動出来る」 それもこれも、虎ちゃんのおかげだな。グラーツィエ、恩に着るぜ。 指にはめたリングを見つめ、シルヴィオはナラカのどこかにいる友に感謝を述べた。 「……ところで、国頭さんの後頭部に電流を流された痕跡があるのですがなんでしょう?」 「電撃痕? そりゃ妙だな。ガルーダは炎しか使わないはずだし……」 アイシスの謎の発見に、ソールも首を傾げる。 「そう言えば、煙幕の外から稲妻が走ったようでしたね……」 翔は柱から身を乗り出し、戦況を窺った。