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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)

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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)
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リアクション

 
●アメイアとの交戦地点
 
 距離を詰めてのアメイアの拳を、一機のアルマイン・ブレイバーがふわり、と避ける。
 掴んでは儚く消え、静かに、けれど絶えることなく降り続く雪のように。
(一緒にイルミンスールを、イナテミスの街を守りましょうね、『シュネー』)
 水晶に触れるレライア・クリスタリア(れらいあ・くりすたりあ)の魔力が、ブレイバーに舞雪の属性を付与する。
 レライアにより『アルマイン・シュネー』と新たな名を受け取った機体から、極低温の魔力弾が放たれる。
「……そのような小細工など!」
 魔力弾に拳を合わせ、それを打ち砕くアメイアも、人間と精霊とが編み出した新たな可能性を目の当たりにして、無関心ではいられない様子であった。
「泡、リンネさんの乗る機動兵器との距離は十分取れました。仲間の皆さんも続々と合流しています」
 レライアの反対側で、水晶に乗るようにしてリィム フェスタス(りぃむ・ふぇすたす)が周囲の状況を確認し、必要な情報を十六夜 泡(いざよい・うたかた)へ伝える。
 それに頷いた泡が、機体とは対照的に、胸の内に熱き炎を滾らせてアメイアへと肉薄する。
「エリュシオン帝国の七龍騎士ともあろう者が、さんざん見下していたイルミンスールの所有物を盗みに来るとはね。正直、少し迷っていたところもあったけど、これで踏ん切りがついたわ。
 今の貴方はただの盗人、肩書きが何であろうが戦うことに迷いはなくなったわ!」
 脇腹を狙った剣の一撃を、アメイアが腕を使って防御する。反対の腕を使った反撃を、雪を舞わせながら回避する。
「どうしてそこまでして力を手に入れたいの!? 実力があるから今の地位についているのでしょう?
 それが、こんな方法を使ってまで新たな力を得なければいけないほど、エリュシオン帝国内で何かあったというの?」
『エリュシオン帝国は変わらず安泰だ。これは私個人の為すべきこと、私が自らの目的を果たすために必要な行いなのだ!』
「目的って何!? それは人の物を奪ってまで求めることなの!?」
『必要とあらば!』
 幾度と無く交わされる、剣と拳の応酬。
 やがて泡機が剣を盾に仕舞い、腰に付けていたカノンを取り外し両腕で抱えるようにして持ち、速度を上げる。
「そうして得た強さに、正義なんてある訳がない! 私が……私達がここで、止めてみせる!」
 強制的に魔力充填を引き上げたことによる、普通は不可能なはずのカノンの連射が、振るったアメイアの拳を弾き、肩口に効果のある一撃を見舞う。
 鮮血を被りながらなお、消耗による機能低下を起こした泡機へ反撃を繰り出そうとするアメイアは、上空から接近してきた柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が乗るアルマイン・ブレイバーの斉射するカノンにより、動きを封じられる。
「退け! 俺達が脱出を援護する!」
 真司の言葉に応えるように、泡機が徐々に速度を上げて戦線から一旦離脱を図る。
(よし、これでひとまず撃墜は免れたか。後は――)
 思考の途中で、今度は真司機へ、アメイアの攻撃が集中する。
(ヴェルリア、回避に集中するぞ。敵の攻撃、まともに受ければこちらの機体が持たない)
(はい、真司。……この大きさでこのスピード、彼女は一体――)
 精神感応でヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)と意思を伝え合う真司機の直ぐ横を、アメイアの振るった拳が過ぎ去る。押し出された空気が衝撃波となって、真司機を揺らす。
「うむむ、イコンと比べ大分、風などの環境の影響を受けやすいようじゃな。となれば、それらの影響を抑えるバランサーも良いものが積まれておるのじゃろう?」
 情報管制を担当しつつ、現時点ではアルマインに乗れる唯一の機会を生かすべく、アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)がアルマインの機構について情報を得ようとする。
 だが、天御柱学院他、おそらく機械の塊であるそれらの機動兵器と異なり、魔鎧の応用で組み上がったアルマインは一種、『生物的装甲を纏った生物的機動兵器』とも言えた。故に、アレーティアでは解析出来ない部分が多く見られる結果となる。
(イコンの操縦とは大きく異なる……が、不思議と苦ではないな。
 イメージすればその通りの挙動を示すことが分かれば、後は可動範囲を考慮した振る舞いを取れば、大きな問題は起きないようだな)
(私と真司がこうしてやり取り出来ることも、プラスの影響に働いているのかもしれませんね)
(ああ、そうだな。……よし、このままアメイアへの牽制を続けよう)
 ヴェルリアとの精神感応による会話を終え、真司がアレーティアへ呼びかける。
「アレーティア、背後のマギウス機とは繋がっているか?」
「繋がっとるよ。徐々に援護態勢が整っとるようじゃ」
 アレーティアの傍に浮かんだ地図、そこにはマギウス機の多くが、リンネたちの乗る機動兵器周辺を確保している様子が映し出されていた。
(これが、『魔王』と呼ばれていたっていう機体……アメイアさんはこれを目的としていたみたいだけど、これは一体何なんだろう。アーデルハイト様が黙って渡さなかったくらいだから、きっと何かあるはずなんだろうけど……)
 復旧作業中らしい、リンネたちの乗る機動兵器をモニターに捉える形で、九条 イチル(くじょう・いちる)が思考に耽る。
 出来るならアメイアと対話してみたかったこと、戦わずに解決はできなかったのか、単身イルミンスールに乗り込んできたことへの純粋な興味等、様々な想いがイチルの中で渦巻いていた。
「なんや、イチルは色々考えとるみたいやなぁ。……まぁあれや、死ぬ時は一緒やで」
 そんなイチルを心では心配しつつ、ハイエル・アルカンジェリ(はいえる・あるかんじぇり)がまるでそうすることが彼の生き様というか使命であるかのように、至極爽やかな表情でボケをかます。
「あぁ、僕はハイエルと一緒の棺桶なんてごめんだから」
 それに対して、アルマインにザナドゥの技術が使われていること、魔鎧のような存在であるアルマインや『魔王』に対し興味深いと思っていたファティマ・ツァイセル(ふぁてぃま・つぁいせる)が、イチルにはせっかく新しい力が手に入ったんだしもっと楽しんでしまえばいいのに、と思いつつハイエルへのツッコミで返す。
「な、なんやて!? おま、毎晩酒酌み交わした仲の俺にそないな口聞くんか!?」
「それとこれとは別だよ。そうだね、中の人出してくれたら考えてもいいよ」
「中の人などおらん言うとるやろ!」
 騒がしくなる中、イチルへ視線を向けたルツ・ヴィオレッタ(るつ・びおれった)が言葉を発する。
「まさか、この期に及んで怖気付いているのではないだろうな?
 この狭い空間に、わらわも感じられる大量の魔力……確かにこれでは、一撃喰らえばその分ダメージも大きくなるというのは分かる。
 だが、そんなことを今更恐れてどうする。あえて言うが、わらわはお前のパートナーだぞ。これだけの者が傍におる、むしろ心強いとは思わないのか。
 傷つくことを恐れて動けなくなるようでは、守れるものも守れまいぞ」
「……うん、ルツの言う通り、それもあるけど……僕は、自分が何のために戦ってるのかちゃんと理解していたい。
 戦えと言われて戦う兵士じゃなくて、先生の生徒でありたい」
 それはきっと、イチルだけではなくこの場にいる生徒も少なからず思っていることだろう。
 話せない事情があることを分かりつつも、自分がどうして戦うのか、そのことに納得出来る理由が欲しいと思うのは、ある意味で当然のことである。
「うーん、でもさ、それって教えてもらえるものなのかな? もし教えてもらったとして、結局戦うかどうか決めるのってイチル自身じゃない?」
「せやなぁ。いやま、違ってたらスマンけど、今のイチルの言い方は、誰かに背中を押してもらいたがってるように聞こえたからな」
 ファティマとハイエルの言葉に、イチルがそんなことない、と反論する。
 アルマインに乗っている以上、アメイアを退けリンネさん達を助けなければと思っている、と。
「思いを口にするなり行動に変えぬなりせねば、何もしていないのと同じではないかの?
 ……周りを見てみろ、皆、戦っている。真意は定かではないが、わらわはきっと、彼らも己の信じるもののために戦っていると確信する」
 ルツに言われるがまま、イチルはモニターから周囲の様子に目を配る。
 すぐ横、自分と同じ機体がカノンを構え、アメイアへ向けて斉射するのが見えた。
「……やはり、疑問に思いますね。どうしてアメイアが、わざわざシャンバラに来てまであの機体……『魔王』を狙うのでしょう。
 今の状態が彼女の本来の状態だとして、既にエリュシオンには、彼女の装備を用意することが出来ない事態に陥っているのでしょうか」
「例えば、同族が既に死滅している、などでか?」
 周囲の哨戒を担当していたマリル・システルース(まりる・しすてるーす)の紡いだ言葉を受けて、同じく哨戒担当の伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)が答える。
「その可能性もありますね。もし、聞くことが出来るならその点を問い正したいです」
 自分たちが直接言葉を届けるか、それとも仲間が同じ疑問をアメイアにぶつけるか……どっちにしろ、既に戦端が開かれている今の状況では、アメイアを降さぬことには回答を得られないだろう。
 だからこそ二人は、アルマインを直接操作する高月 芳樹(たかつき・よしき)アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)を支え、少しでもアメイアに届く一撃を見舞えるよう、自身に出来ることを行う。
「アメリア、カノンは後どのくらいいけそうか?」
「そうね、10……いえ、20は撃てる感じだわ。『溜め撃ち』も、一回ならその後の行動に支障はないと思う」
 機械のようにエネルギー残量を示す計器がない(一応、触れる水晶の輝きで大まかな残量は分かるようになっていた)中、射撃管制担当のアメリアが自身のプリーストとしてのカンから、だいたいのカノン発射量を芳樹へ伝える。
「……よし、もう一、二発撃ったら、魔力を溜めての一撃を試みよう。直撃させられればもちろん効果的だろうし、そうでなくとも他の機体が攻撃を仕掛ける機会にもなるはずだ」
「ええ、分かったわ」
 芳樹の言葉にアメリアが頷き、そして、一行の乗るマギウスの持つ左右のカノンから、1発ずつ魔力弾が放たれる。玉兎とマリルが全力斉射の旨を仲間機へ伝達し、協力を呼びかける。
(これほど巨大で、そして強大な相手……だけど、今の僕達には仲間がいる!
 たとえ神の如き力を持っていたとしても、力を合わせれば必ず撃退できる!)
 心に強く念じる芳樹、そして彼らからの通信は、イチルたちの乗る機体にも届いていた。
 動くのか、動かないのか……そんな選択を迫られているような状況の中、イチルが出した結論は――。
「……今すぐに、理由を知りたいわけじゃない。後でもいい、だけどちゃんと教えてほしい。
 アメイアにも、何故リンネさん達の乗る機体を欲しがったのか、聞いてみたい。
 そして今は……戦う」
 その言葉が聞こえた瞬間、ルツ、ハイエル、ファティマそれぞれが表情を――三者三様なれど、好感を抱いた表情を――浮かべ、配置につき水晶に両手を添わせる。
 機体に魔力が満ちていくのを、イチル自身もその身で感じる。
(この一撃に……かける!)
 覚悟を決めたイチルの視界に、芳樹の乗る機体から魔力の奔流が撃ち出されるのが見える。
 そして、それを避けたアメイアがこちらを見ていないことも。
 
「いっけーーー!!」
 
 浮き上がった機体から、魔力の奔流が解き放たれる。
 今度はアメイアを通り過ぎることなく、防御せざるを得なくなったアメイアを大きく押し出し、イルミンスールの森から平地、イナテミス領内(といっても周囲はただの平原であり、付近に集落の姿は無かった)へとアメイアを吹き飛ばした――。