First |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
間奏曲 〜Intermezzo〜
――2012年、ロシア某所。
「素晴らしい、素晴らしいぞ!」
所長は歓喜の声を上げた。
「何をした!?」
ジール・ホワイトスノーは所長の前に佇む子供――ノヴァを見た。
「なに、私はただ『それ』の本当の力を引き出しただけですよ。ああ、やはり思った通りだ」
所長はただ、思い出させただけだ。
――ノヴァが忘れていた、否、忘れようとしていた過去を。
「やめろ、ノヴァ!!」
不安定となったノヴァの心が、彼の中に眠っていた本当の力を呼び覚ました。
だが、その力は大き過ぎたが故に制御しきれるものではなかった。
「君の力を目覚めさせたのは私だ。さあ、私の言うことをき……」
直後、所長の身体が爆ぜた。
「しょうさ」
テレパシーではない。
ノヴァが自らの口から声を発した。
それだけではなかった。瞳には光が宿り、顔にはしっかりと表情と呼べるものがある。
――泣いているのか?
二つの蒼い瞳から、滴がこぼれ落ちる。その間にも、周囲の機器が音を立てて壊れていく。
だが、変化はそれだけに止まらなかった。
「『機械仕掛けの神』が……」
安置されていた巨大な人型の巨像が光を放つ。
表面の錆のようなものが剥がれ落ち、その下から浮かび上がったのは「銀色」だった。
さらにその中から現れたのは、完璧な造形の美少女。彫像内部に、コードで繋がれていた彼女もまた、目を覚ました。
「少佐、これは一体?」
イワン・モロゾフがジールを守るために駆け出してくる。
「来るな!」
次の瞬間、イワンが弾き飛ばされ、壁に激突する。
「しょうさも、ボクがこわい?」
ノヴァがささやく。
「……そんなわけ、ないだろう」
「うそだよ。だって……」
ジールがその場に倒れ伏す。
「ふるえてるよ、しょうさ」
それだけではない。ノヴァは相手の心を読むことも出来る。ほんの一瞬であったとしても、ジールは恐れを感じてはいけなかったのだ。
『神』の中から現れた少女が、ノヴァに手をさし伸ばした。
「行……くな……ノ、ヴァ……」
呻くようにジールは声を絞り出し、ノヴァを止めようとする。彼女の手を取ってはいけないと。
一度向こう側へ行ってしまったら、もうノヴァは二度と戻ってこれなくなる。そんな予感がした。
機械の身体を持つ少女と、銀色の巨像。
ジールの声は届かず、それらに導かれるようにノヴァは彼女に背を向け去っていく。
最後にジールに向けられた視線に宿っていたもの。それは、怒りや憎しみではなかった。その寂しげな眼差しの中にあったのは、絶望と、悲しみだった。
そして――
「バイバイ、しょうさ」
* * *
どれくらいの時間、眠っていたのだろうか。
「――さ、少佐!」
聞きなれた少年の声が聞こえる。
確か、この声は……
「イワン、か。無事……だったのか?」
声は聞こえる。だが、ジールの視界はぼやけていた。
「ええ、なんとか……ぐっ」
左足を引きずり、右目のあたりを押さえている。無傷、とはいかなかったらしい。
「准尉、私は……どうなって……いる?」
身体の感覚がない。
痛みを感じない、というよりは完全に身体が麻痺しているようだ。今の自分に本当に手足が生えているのかさえも分からない。
「瓦礫の下敷きに……でも、今すぐ助けます。絶対に死なせはしません!」
どうやら研究所は崩壊。自分はこの地下室だった場所で生き埋めになっているようだ。
「だが……この身体は、もう……使いものになら……ない、な」
それ以前に、自分の身体がもう長くことをジールは感じていた。
ぼやけていた視界が、完全に暗闇となる。
(このまま死ぬのか……この研究所で。いや……確か)
思い出した。
この研究所に移ってきたとき、所長に頼み込んで最下層にある部屋を用意してもらったはずだ。
「准尉、『あの部屋への入口』は無事か?」
「え、あ、はい。奇跡的に」
「そうか」
イワンによって、ジールは瓦礫から引きずり出された。
「准尉……私の指示通りに、行動……してくれ」
ジールの指示に、イワンは目を見開いた。
だが、彼女が助かるにはそれしかないと悟ったのだろう。
「頼むぞ……イワン」
「少佐? 少佐ァアアア!!!」
もう声を出すのも限界だった。
(私は生きる。生きて、あの子を、ノヴァを――)
自分への処置に関する指示は出した。
あとは全てイワンに任せ、ジールは深い眠りについた。
First |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last