リアクション
* * * 「まさか緊急出撃命令が出るとは……!」 笹井 昇(ささい・のぼる)とデビット・オブライエン(でびっと・おぶらいえん)は、天沼矛へ向けて急いでいた。 「停学が一時的に解除されるなんて思わないからな。それに、敵襲なんて俺が予測出来るかよ」 デビットの買い物に付き合っていたために、他の生徒に出遅れてしまっていたのである。 空を見上げれば、既にイコン部隊は海京周囲の海上へと出撃していくところであった。 イコンハンガーに辿り着き、機体を見渡す。 「すぐに出撃可能な機体は……クェイルしか残っていないか」 機体調整も一律になっている量産機。 イーグリットやコームラントとは異なり、イコンの操縦技術があれば難なく操作出来るが、その反面性能は劣る。 「笹井」 声が掛かり、振り返る。そこには一度同じ小隊で世話になった教官、野川 恭輔がいた。 「野川教官? どうしてまだここに?」 教官達も総手で出撃したはずでは。 「生徒が全員出撃するのを見届ける役は必要だろ。まあ、五月田さんに指名されたからなわけだが……」 野川が機体について説明を始めた。 「実機とシミュレーターではかなりの違いがあるのは分かっているはずだ。だが、それはイーグリットやコームラントでの話。クェイルは、シミュレーター訓練を終えた者が始めて実機として搭乗しても、すぐに『なじめる』ように調整が施されている。停学中、ずっとシミュレーター漬けだったお前達になら、例えクェイルでもその力を十分に引き出せるはずだ」 健闘を祈る、無事に帰って来いと二人を送り出そうとした。 「野川教官はこの後、どの方面へ行くのですか?」 「自分は地上での都市防衛を行う。クェイルを数機展開させているが、住民の避難が完全に終わるまでは下手に攻撃出来ない。いくら量産機とはいえ生身の人間、それも一般人からすれば大き過ぎる力だからな」 このまま強化人間部隊と超能力部隊、加えて大陸へ要請した契約者達による地上の戦闘要員との連携、取りまとめを行うのが彼の仕事だ。 「では、出撃します」 敬礼。 教官と別れ、昇とデビットはクェイルに搭乗し先行した部隊を追った。 * * * 天沼矛上部。 出撃するイコン部隊を見下ろしている姿があった。 「さて、連れてって頂きましょうか」 茜色に染まる水平線上から、人型が迫ってくる。果たしてそこに、自分を満たしてくれる存在はあるのだろうか。 「カミロ・ベックマン……楽しみですね」 両手で後ろ髪を掻き揚げ、ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)を身に付け、牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)は跳んだ。彼女に続き、パートナーの二人――シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)とナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)も。 落下していく最中、出撃していくイコンの一機へと迫り、そのまま装甲を掴む。 彼女達は生身のままで、代理の聖像が空を舞う戦場へと向かっていった。 |
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