リアクション
第二十曲 〜After〜
「ごらん、ジズ。あの光を」
その人物は、静かにイコンが目覚める瞬間を眺めていた。
「僕達もいこう。せっかくだから、近くで彼らを見ておきたいんだ。ふふ、彼らは『本物』かな?」
(・総帥)
少女は歌った。
そしてイコンは真の力を取り戻した。
「博士」
そして、話は全てのはじまりへ至る。
「2012年。当時はまだそう呼ばれていなかったが、一機のイコンと、一人の子供と出会った。そしてその子供はイコンに選ばれ、消え去った」
2012年。自分が関わったことについて、その場にいた者達に話す。
そのとき、PASDの通信からある知らせが入る。
『新たな未確認機出現。映像を送る!』
通信室のモニターに、一機のイコンが映し出された。
白銀に輝く機体が。
それを見て、ホワイトスノーは呟いた。
「――ノヴァ」
* * *
翔はカミロのシュバルツ・フリーゲを倒した。
だが、その直後にそれはやってきた。
「銀色の……イコン?」
真の力を解放したイーグリットやコームラントが機晶の光を放っているように、目の前のイコンは銀色に輝いていた。
その背から見えるエネルギーのオーラは、六枚の翼のようにも見える。
『カミロ、今君を失うわけにはいかないんだ』
大破したシュバルツ・フリーゲが、空に浮いている。
そして次の瞬間、消えた。
『大したことじゃない。先に安全なところに送っただけだよ』
男とも女ともつかない声だった。
『何者だ? お前は!?』
翔が声を上げる。
すると、銀色のイコンの肩の部分に一人の人物が現れた。
おそらく歳は天御柱学院の生徒達と同じくらいだろう。
色白の整った顔立ちは、少年のようにも少女のようにも見える。澄んだ蒼い瞳はただ静かに、周囲の全てを俯瞰しているかのようだった。
『初めまして。僕はノヴァ。みんなからは「総帥」って呼ばれてる。ああ、別に、戦うつもりはないよ。今はね』
ただ微笑を浮かべていた。
(なんだ、アレは?)
(分からない、けど)
ノヴァの出現を感知したコリマ・ユカギールは、柄にもなく取り乱していた。
(……馬鹿な、そんなはずはない!)
(とにかく、もう少し精神感応で確かめて……)
――少し、黙っててくれないかな。
その声を聞いた直後、コリマの脳内が乱れ、思考が停止した。
『ただ、今回は見ておきたかったんだ。キミ達が「本物」かを。いや、キミ達だけじゃいんだけど、さ』
今度は南、炎上している巨大な残骸に視線を移した。
『エドワード、彼は偽者だった。残念だよ、本当に』
この目の前の人物は、ただこの戦いの行く末を見に来ただけらしい。
『そういうわけで、戦いはおしまい。撤退するよ』
だが、イコンが目覚めた今が、敵を一網打尽にするチャンスだ。
『と、いうわけで』
ノヴァが手をかざした。
――門(ゲート)
空が割れた。
そこは別の空間に繋がっているようだ。
『さて、今のうちにみんなには引き上げてもらうよ』
『ふざけるな! 俺達の街を壊そうとしておいて!』
機体を動かそうとして、翔は気付いた。
「アリサ、動かしてくれ」
「ダメだ、翔。一切のコントロールが効かない!」
天御柱学院のイコンが身動き出来なくされていた。
『怖いなあ、別に戦うつもりはないっていうのに。だからちょっとだけ止まっててもらうよ。と、言っても、本来の力に目覚めた以上、ジズの力を介しても長くはもたないんだけどね』
全ての天御柱学院のイコンを、ノヴァは制御下に置いたようだ。
その突如現れたノヴァを見て。
アルコリアは真っ先に向かっていった。
カミロ以上に「愉しませて」くれそうな相手だったからだ。イコンが動かなくても、生身の彼女は動ける。
『へえ……』
ノヴァはその場から一切動かない。
「あなたも、お強いのでしょう?」
イコンの上にいる人の姿に向かって、パートナー達と共に全力の一撃を放つ。
だが、ノヴァはそれを避けようともしない。
「……幻?」
攻撃はノヴァの身体をすり抜けた。
『そりゃあ、僕はコックピットの中だからね』
幻のノヴァの姿と目が合う。
『ちょっと、遠くに行っててくれないかな?』
次の瞬間、アルコリア達は天沼矛に激突した。
『そろそろ、生き残った人はみんな無事に門を潜ったみたいだね』
それを確かめ、ノヴァの銀色のイコンは高度を上げた。
『それと、そうだ』
ノヴァは海京の街のある人物に向けて、一言だけ残した。
『「しょうさ」、久しぶりだね。こんなところで会うなんて』
ノヴァからその姿が見えているわけではない。
だが、海京にいることには気付いたのだ。
『はは、それじゃあね、天御柱学院のみんな』
次の瞬間、銀色のイコンは消えた。まるで空間を跳躍するようにして。
* * *
「な、機体が……」
敵小隊長と交戦していた【アイビス】の星渡 智宏と時禰 凜は、それに気付いた。
真の力が解放されたことによって、目の前のシュバルツ・フリーゲの二本の刃のうち、一つを腕ごと破壊することには成功していた。
機体の動きが止まった以上、相手にとっては絶好のチャンスだ。
だが、敵はそうはせず、割れた空――「門」へと撤退していく。
『私達は負けた。それに、隊長の遺志を無駄にしたくない』
少女の小隊長は、去っていく。
(ダールトン隊長……)
最後に送られてきたのは、非常にシンプルな言葉だった。
――生き残れ。
それに、あのマリーエンケーファーが敗れ、カミロ様、ダールトン隊長、エヴァン副長が撃墜された。その時点で負けたのだ。
ならば自分は他の者達と共に生き残り、再起を図る。そして自分の目的を成し遂げるまでだ。
それが、時間のかかることだとしても。
* * *
「『罪の調律者は目覚め、歌は夜明けを告げる』、ですか」
ローゼンクロイツが呟いた。
「貴女達の強さ、意志はよく分かりました。道を違えなければ、いずれあるべき場所に辿り着くことでしょう」
そして東の空を見る。
「あの御方が、我らが総帥――ノヴァ様です。そして、『終わり』をもたらす可能性を持つ者」
ローゼンクロイツはそう言って、その場を後にした。
「くそ……まるで歯が立たなかった……」
ミューレリアと悠希は全力で戦った。だが、及ばなかった。
しかも、ローゼンクロイツに至っては一歩も動いていない。それどころか、動かしたのは腕一本のみだ。
あれが、自分達と対立する勢力に属する者。
そして、東の空に現れたローゼンクロイツをも凌駕する存在。
改めて、敵の強大さを実感せざるを得なかった。