リアクション
離宮調査当時、地上でキメラ対策に奔走していた閃崎 静麻(せんざき・しずま)は、刀真から連絡を受けてパートナーのレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)と共に、今回の作戦に協力することになった。 ○ ○ ○ 光術で地下を照らしながら、ダークビジョンも使って、国頭 武尊(くにがみ・たける)は、瓦礫の撤去作業を行っていた。 あれから、地上では半年の時間が流れたが、離宮では僅か1,2時間の時しか流れてはいない。 光条兵器使いの体も含め、腐敗などはしていないが……血の匂いは充満していた。 (ここに集まってるメンツは皆、契約者だが、誰しもがそいうモノに慣れている訳ではないだろう) ちらりと目を向けた先にいる、風見瑠奈は、青い顔をしていた。 (特に、女性陣、百合園の生徒には厳しいだろうな) 臭気を少しでも抑えようと、ティセラフレーバーを用意してきたが、あまり効果はないようだった。 「ここは任せろ」 瑠奈や女性達に声をかけて、粉じんと臭気をパワードマスクで防ぎ、武尊は一番前に出て作業に勤しんでいく。 「体は傷つけない」 強化型光条兵器のラスター血煙爪で、遺体に覆いかぶさっている瓦礫だけを斬り、除去を行う。 瓦礫を斬る際には、運びやすい大きさになるようにも注意を払っておく。 「あまり上に立つなよー。天井が崩れるかも知れねーぞ」 光精の指輪で辺りを照らしながら、猫井 又吉(ねこい・またきち)は、冷線銃を天井や周囲に放っておく。 「ちと寒くなるけど、崩れるよりマシだろ」 危ないと思われる場所には、さらに氷術で補強しておく。 「……っ……」 ノクトビジョンをつけた鬼院 尋人(きいん・ひろと)が、唇をかみしめる。 むせそうになったが、声も上げずに飲み込んだ。 彼は超感覚で匂いを探り、遺体の場所を探していた。 亡くなった軍人の遺体は――損傷が激しい人もいる。 一部がちぎれてしまった人、一部を失ってしまった人も。 四散した肉体もすべて、持ち帰るつもりだった。 「こっちにも」 尋人は大きな瓦礫の下に、遺体の一部を発見する。 「そうか、このまま持ち上げるぞ。手を貸してくれ」 武尊が瓦礫に手をかける。 尋人は、武尊の指示に従って、一緒に瓦礫を持ち上げて、台車へと運んだ。 尋人のパートナーの呀 雷號(が・らいごう)も、超感覚で辺りを探り、雪豹の姿で瓦礫の隙間に入り込んでいく。 どんな小さなものでも、爆発で壊れてしまっているものであっても。 地上のものを、ここに残しておくつもりはなかった。 小さなかけらであっても、持ち帰るつもりだった。 あの時。自分と尋人も、この付近で瓦礫の下敷きになっていた。 思うことは、いろいろとある。だが今は、何も語らずに、いつも以上に寡黙に、淡々と作業を続けていた。 「ここは、破壊するよ」 尋人も必要最低限にしか言葉を発しなかった。 何の表情も浮かべずに、ただひたすら、瓦礫の撤去に勤しんでいる。 道をも塞ぐ分厚い瓦礫を、尋人は武尊に断りを入れた後、ランスバレストで破壊する。 「こちらは任せて下さい」 即座に、もう一人のパートナー西条 霧神(さいじょう・きりがみ)が、サイコキネシスで瓦礫を抑えて、台車の方へと落とす。 「奥の方はどうか慎重に。まだ光条兵器使いなどの、兵器が残っていますから……。爆破で破壊することが出来たのは、入口だけなんです」 尋人達と共に、生き埋めになっていた赤羽 美央(あかばね・みお)も、訪れていた。 救出された時、重傷を負っていた美央は、当時の状況をあまり把握できていなかった。 だから、指揮をとることまでは出来ずにいたけれど、その後、療養を続け、現在は普段の力を取り戻しているから、皆と同じように作業を行うことは出来ていた。 光が届いていない場所は、ダークビジョンで暗視をして、慎重に瓦礫を運び出す。 もう、生存者はいないことはわかっているけれど……遺体も、遺品も、これ以上傷つけることなく、持ち帰りたかった。 「オウ、何もかもが懐かしいデスネ……」 パートナーのジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)も、美央を手伝って小さな瓦礫をどかしていく。 「ありがとうございます。でもなんだか、少し意外です」 ジョセフは力仕事を得意としていない。 どこか抜けてて、軽いところがあるように見える彼だから。 離宮についてきたことも、こうして作業を手伝ってくれていることも、少し意外だった。 「ハハハ、自由人なミーだって、軍人サン達の事を忘れるほど無粋じゃありまセンヨ!」 そう言って、ジョセフは光術で足下を照らし、落ちている物を探し出して、それが小さなものであっても、拾い上げて、遺品用の箱の中に入れていく。 「ミーはヘラヘラしてマスガ、決して亡くなった方を軽く見てるんじゃありまセンヨ。気が重いのは、ミーには似合わないだけデース!」 美央の問いの返事以上に、ぺらぺら喋りながらジョセフは遺品を探していく。 「ササ、頑張りマショー!」 彼の元気な言葉で、美央の心が少しだけ楽になる。 一人で抱え込むことなど出来ない、重い事件だった。 「あれから、かなりの時が流れました。……それでも、彼らの『覚悟』は、私の中に未だに生き続けています」 そう言葉を発した後、美央は瓦礫の中に埋もれていた、男性の体を引き上げた。 この人物のことは、よく覚えている。 手伝おうと、手を伸ばした尋人の手と表情が一瞬だけ固まる。 冷たい、その人は。 ここを訪れた軍人の、班長だった人物。 彼の最後の言葉。 『ヴァイシャリーと、妻と子と、君達の愛する人のために』 その言葉は、美央の脳裏に、彼の最後の微笑は、尋人の脳裏に、今も鮮明に焼き付いている。 美央と尋人は一緒に彼の体を運んで、担架に乗せた。 そして、毛布を彼の体に被せた後、軽く目を閉じて。 今は何も言わずに、作業に戻る。 ……そこから少し南側。 こちらには、軍人達ではなく、爆発に巻き込まれた光条兵器使い達の骸が在った。 霧神は地面の上に運び出して、煙が地下に入り込まないよう注意を払いながら、火術で焼却していた。 尋人達の姿、人の姿をした兵器達。 そして、周囲を。離宮を見回して、呟く。 「この作業が終わったら、ここはまた長い眠りにつくのでしょうか。……何度となく同じような事がここでくり返されてきたような気もしますが。そしてこれからも……」 |
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